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EP 03 激動の小曲(メヌエット)07
「ねぇ……ソフィ……今、戦えるような武器って持ってる?」
「えっ……!?」
ヤチヨの表情はいつもの彼女からは考えられないほどに、真剣にそして険しい表情を浮かべていた。
ソフィ自身、なんなのかまるで分からない。
彼女はどうやら目の前の存在に対して過剰に警戒をしているようだった。
ヤチヨは返事を待つようにじっとソフィの顔から目を逸らしはしない。
ソフィも、ゆっくりと心を落ち着けるように口を開く。
「……いつもの小銃は……非番なので持っていません。この腰に下げている長剣……くらいですかね……ヤチヨさんは?」
「……驚かす事が出来るくらいの音が出る爆発物と……後は短剣くらいかな。もし襲ってきたら……一人守るのも精一杯って感じ……」
「わかりました。ならボクがもう少し近くで様子を見てきます……その間にーー」
目の前の存在は脅威なのかそもそもわからないのだから仕方ない。
しかし、今泣き言を零したところで何も変わりはしない。
未知の存在への恐怖心を抑え込んででもやるしかない。
言葉に出さずとも、二人の中で次の行動の覚悟は決まっていた。
「ヤチヨさんは、すぐにヒナタさんのところへ! 可能であれば、自警団へボクからの救援要請も合わせてお願いします」
「わかった!!」
ヤチヨが短く、返事をして来た道を戻っていく後ろ姿をソフィは確認した。
腰の長剣に手をかける。
大丈夫だと、ソフィは自分に言い聞かせる。
目の前の存在は、確かに人のような姿はしているが恐らく人ではないはずだと。
つまり、物やせいぜい動物などと同じ……。
勿論、命を無暗に奪っていいというわけではないが人と対峙するよりはだいぶソフィの心持ちは楽ではあった。
ただソフィの方へ向かってくる数の多さというまた別の圧力に、ソフィの心は乱された。
正確な数はわからないが。
少なく見積もっても、20~30体位は確認できる。
ソフィの長剣を握る手に力がこもる。
ただこちらへ歩いてきているだけのような気もするが、そのゆったりとした動きこそが何よりも絶妙に恐怖を助長する……。
一瞬たりとも気を抜けない。
感じたことのない緊張感がソフィを襲う。
飛び込めば彼らの懐まで潜り込める距離までソフィの方へとその謎の存在が近寄っていた。
しかし、ソフィから仕掛けられる状態ではなかった。
急に現れただけで、彼らはまだ何もしてはいない。
であるなら、こちらが迂闊に飛び込んだことがきっかけで刺激を与えれば攻撃を始めてしまうかも知れない。
どんな攻撃をしてくるか……。
肩に乗るように生えているあの鋭利な突起物を飛ばして来るかもしれない。
そもそも、あれが剣のようなものであそこから引き抜いて切りかかってくるかも知れない。
ソフィにとって、こんなに未知のものと対峙する経験は初めてのことであった。
謎の存在が近づくにつれ、ソフィはその姿をはっきりと目視する。
どこを見ているわけでもなく、ただ歩いてくる。
表情もなく、怒りのような感情も感じないのにそれがすごく怖い。
一体が、ソフィの横をゆっくりと通り過ぎていく。
その瞬間に、ソフィの頭に声が響く。
《こわい! いやだ!! どうして!!!》
どうして……?
目の前の存在から発させられた声なき、声……。
怖い。嫌だ。という感情はソフィにも、理解は出来る。
しかし、どうして……?
彼らは何かに理由を求めている。
……ということは彼らには知性があるのかも知れないと考えた。
自分たちのように考え、生きている存在である可能性。
そう考え始めた途端、ソフィは長剣を取り落とした。
「あっ……あぁあ……」
今までは人ではない。
そう割り切ることで気持ちを奮い立たせていたが。
人であるなら……自分は命をーー。
「えっ……」
その内の一体が、ソフィに向けて手のようなものを差し出していた。
表情がないはずなのに、その手にソフィは優しさを感じる。
導かれるようにその手に触れた瞬間にソフィの頭に様々な思念が流れ込んでくる。
それは、感情だ。
怒りであり、悲しみであり、悔しさであった。
自分が生まれ、今にいたるまでの激しい負の感情の塊。
ソフィの中に、自身の過去の出来事が次々にフラッシュバックする。
「うっ、うわぁぁぁぁぁぁ!!!!」
ソフィは、思わず自分の足元の剣を握り目の前の……。
自分に手を差し出した存在に対して剣を振り抜いてしまう。
切り裂いたその存在からは人のような血が出ることもなく、ただガシャンと大きな音を立ててその場に崩れ落ちるだけ。
「ちっ、違う。ボクは……ボクはそんなつもりで……違う!! 違うんだ!!!」
ソフィが誰に向けて言っているのかもわからない言い訳を口にする。
その責任から逃避するように自己弁護を叫ぶ。
いくら言い聞かせたとしても自身が一番わかっている。
確かに今、自分は無抵抗な人の命を奪ったのだと……。
そんなソフィの心とは裏腹に目の前の転がり、動かなくなった仲間に対してその存在達は気にかけることすらもなく歩みを進めていく。
《どうして……? ちがう!! どうして……?》
「止めろ!! 止めろ!! ボクは、ボクは!!!」
剣を振り回す。
その動きで。また数体の存在がその場で切り裂かれ、転がる。
この瞬間。ソフィを責める声があればまだ止めることが出来たのかも知れない。
しかし、彼らは、ソフィに対して何もしなかった。
ソフィは、気がつかない間に涙を流していた。
自分のためなのか……それとも切り裂いてしまったその存在に対してなのかもわからない。
《かなしい……? かなしい ゆるせない……?》
「あぁそうだ!!! ボクを許さなくていい!! ボクは!! ボクは!!!」
《ゆるせない……? ゆるせない……? ゆるさない》
その瞬間。今まで前を歩いていた謎の存在の内の数体が唐突にソフィの方を向く。
肩の突起のような部分の先端が開き、無数の触手のようなものをソフィに向けて放った。
「っつ!!!!」
ソフィは反射的に、その触手を切り裂く。
驚くほど簡単に切れたそれはその場で少し動いた後、やがて動かなくなった。
「ボ、ク……は……」
それはソフィが今まで生きてきた中で身を守るための手段として磨き上げてきた行動で反射的に動いたものだった。
彼らからすれば自分は憎しみの対象である。
その自分の命を仲間達が奪おうとするのは、当たり前のことであった。
しかし、ソフィにもまだ生きなければならない理由がある。
彼らと比べればもしかしたら儚い理由であるかも知れない。
ヤチヨやヒナタ……自警団のみんな……。
ソフィには守らなければいけないものがある。
だから、今ここで死ぬわけにはいかない。
こんな状況になるまでこんな大切なモノにも気づけなかった。
自分は大バカ者だとソフィは嘆く。
《おこる ゆるさない かなしい》
ソフィは、頭を抑えつつ後退していく。
鳴り響く声が止むことはない。
最初は何も感じていなかったはずなのに、今彼らは、怒り、悲しんでいる。
それはまるで……自分の精神状態の鏡のようでもあった。
ソフィは目の前の存在のことがますますわからなくなっていた。
そして、自分が対峙している間にひたすら前に進んでくるその大軍がソフィの視界に入る。
「まっ、待て!!! っく……」
追いかけようとするも、ソフィの方へとただ直進してくる数体がその行く手を阻む。
「本当に……なんなんだ……こいつらはーー」
ソフィの表情はみるみる恐怖に染まっていくのだった。
「ヒナタ、走って!!!」
「うっ、うん!!!」
場所は変わってヒナタとヤチヨも謎の存在から逃げている最中であった。
ソフィに言われ引き返したヤチヨは、ヒナタとすぐに合流ができた。
ホッとするのも束の間、急ぎ説明した事情はヒナタが納得できるほどヤチヨ自身も把握してはいない。
ただただ、ヤチヨの必死さを目の当たりにしたヒナタは。
細かい事情には目を瞑ることにした。
今、とやかく追求する時間はない。
事態は二人が思っているよりも深刻なものになっていた。
自警団に助けを求めにいった二人が見たものがそれを決定づける。
先ほどヤチヨが見た緑色の謎の生物達が自警団本部を襲っているという地獄のような光景が視界に飛び込んできたからだ。
恐怖から小銃や、対大型生物用のエルムの武器を自警団員が放つもまるで効果がないのか団員たちは大混乱の中にあった。
「なんなの……これ……」
「そんな……どうなってるの……」
ヒナタが、倒れこんでいる自警団員を見て驚愕の声をあげる。
「どうしたの!? ヒナタ」
ヒナタの声にヤチヨも近寄り、そして言葉を失った。
負傷している団員の傷口が、徐々にあの緑色の存在と同じ色に変わり。
その姿が少しずつ少しずつ、彼らの姿に近い何かへと変えていく。
「ヒナタ!! 彼から一度離れて!!!」
「っつ!! でも!!!!」
「ヒナタまでこうなってしまったら、きっと誰にも救えなくなる!!」
「っつ……」
ヒナタは、悔しさを込めた目でその負傷し緑色の何かに変わりゆく団員を見つめる。
怖かっただろう……お守りのように、非常用に持ち出したエルムの小銃を握りしめていた。
「ヒナタ……」
「……アインたちが心配だわ。ヤチヨ、ついて来て!!!」
「うっ、うん!!!」
ヒナタとヤチヨは真っ直ぐに、アインたちのいる団長室へと駆け出していく。
「アイン!!……っつ!!??」
アインの自室を開け。ヒナタは絶句した。
そこにいたのは、変わり果てたアイン、ツヴァイ、ドライの姿。
「そんな……」
「アイン!! ツヴァイ!! ドライ!!!」
ヒナタは、思わず三人の方へと駆け寄る。
先ほどのこともあって、気軽に触れることすら危険ではあったが。
この瞬間だけはそんなことなど、どうでも良かった。
「えっ……どうなってるの!?」
「どうしたの……?」
「……三人とも生きている……」
先ほどの団員とは異なり、体のほとんどが緑色に変化はしていたが。
侵食はそれ以降、止まっているようだった。
「えっ!?」
「どういうことなのかはわからないけど……こんな状態になってもなお……この三人はまだ生きている……どういうことなの……」
ふと見ると、それぞれの腕についていた団長の印とも言える腕輪。
その腕輪が周辺に粉々に砕け散っていた。いや、それだけではない。自警団で保存されていたはずの物。数々のエルムと呼ばれる未知の文明の名残とも言われる道具。
その全てが漏れなく破壊されていた。
「……」
「ヒナタ……?」
「どうして……エルムだけが壊されているのかしら……他のものはまるで壊されていない?」
「えっ!?」
「……あの存在は……まさかエルムだけを狙っている……?」
「エルムを……どうして?」
そんな二人が話をしていると、部屋の壁が壊れる音が響く。
崩れた壁の先から二人を見つめるように、二体の緑色の存在がゆっくりと近づいてくるのだった。
つづく
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