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188 双方の大誤算
雲ひとつない青空が広がる下に建立された学園の中で最も人を多く収容できる闘技場区画にある建造物。
この区画のいつもの殺伐とした空気はこの日ばかりは消え去り、厳かな空気が場を包み込んでいた。
生徒達の多くが初めて見る婚約の儀、一般の国民は婚姻の儀は行えど事前に婚約の儀というものを行う習慣はない。
そのほとんどが貴族達の間で行われている風習のようなものの名残で今は上位の貴族達の間でしか行われてはおらず、こうした人目に触れる形で行われることも稀である。
彼らには生存戦略が必要であった、自分たちが貴族であり続ける為にこうした儀式を水面下で行いその血を維持してきた。
本来であれば国内で大々的に行われるべき規模の双爵家同士の婚約の儀。それが学園内でのみで行うというティルスの申し出をゼルフィ―が受けたのは気まぐれや偶然ではない。
国内で大々的に行う方がデメリットが大きいからだった。もし仮にティルスが申し出ていなくてもゼルフィーは学園での婚約の儀を提案するつもりだった。
だからこそ彼女からの申し出により自然にこの状況を作り出していく事が可能となっていた。
初めて訪れる学園という環境に興味があるのかゼルフィーは楽しそうだった。しかし、連れ添ってきている者達にとっては気が気ではない。
目的もさることながら領地の戦力は半分がここに割かれており、ユーフォルビア家の領地にある防衛網は現在のところ薄くなっている。
それにティルスたちが領地に来た時に聞いた話にあったモンスターの出現の危険が全くないとも言えない。勿論、自分たちはゼルフィーを守り切るつもりだが未知の状況で気を抜くことは許されず緊張感が続いており、当人のゼルフィー以外は過剰に気を張って過ごすこととなっている。
国を挙げて行うような規模でない事と学園の生徒と教師達しかいない場所で賊などが紛れ込む危険性はまずないとはいえ、こうした外遊的な行動自体が外から来たカムラン以外、ゼルフィ―達は未経験である事も大きく影響している。
「ゼルフィ―様」
「なんだいキリヤ」
「妙な空気が混じっておりますが、大丈夫でしょうか」
「また、君の勘、かい?」
「はい、悪意の類ではないようではありますが」
一見すると年齢相応にキョロキョロとしているゼルフィーだったがここに来た本来の目的は決して忘れてはいない。
「大丈夫、必ず成し遂げる」
「……はい」
キリヤは心のうちを読めないような表情でゼルフィ―を見つめる。
「ラティリア家にはこの代で滅びてもらう。そうだねカムラン」
「ええ、調べた限りラティリア家の血を引く者は現在ティベリウス様、奥方のルステリナ様。お二人の年齢的にもう子孫を残せる可能性がある人物は娘のティルス様のみ」
「双爵家の地位はユーフォルビア家さえあればいい。いずれこの国は僕が治めなければならなくなるだろう」
「ゼルフィ―様の仰る通りです」
カムランが頭を垂れるとキリヤはそのまま立ち尽くしていた。
「……」
「キリヤ。何か不満か?」
「カムラン……いや、何でもない」
遅れてキリヤはゼルフィーに頭を下げる。
こうしてユーフォルビア家によるティルス暗殺の為の偽装婚約の儀、その決行の時間が迫ってゆくのだった。
学園に来てからはおそらく初めてとなる貴族としての礼装を見に纏っているティルスは静かに鏡に映る自分を見つめていた。
へランドとレインへと向けて視線を動かすと彼女はいつもの生徒会の面々は二人しかいない。
「リヴォニアとサブリナは?」
「二人ともいません」
「こんな時にあいつらは全く」
へランドは悪態を吐きつつもその言葉には意思はない。ただ口癖のように呟かれただけな事が窺える。
「いいの。仕方ないわ」
全ては自分の判断が招いたこと。苦しく困難な中でも楽しかった生徒会長としての学園での日々。それを全てをなかったことのようにしてしまう決断をしたのは紛れもなく自分自身なのだから。
ガチャリとドアが開いて、迎えの者が現れる。
「ティルス様、こちらへどうぞ」
「はい」
「……ティルス様」
へランドがティルスを呼び止める。
「どうしたの?」
「ずっと、お慕い申し上げておりました。ティルス様」
「へランド」
「筋違いな身分であるとは分かっていながらこのような恋慕を抱き、生徒会で傍に居る理由としていたことを、お許しください」
「……ありがとうへランド。そして、ごめんなさい」
「いえ、出すぎた真似をしたのはこちらです。大事な儀式の前にこのような私情を挟み、申し訳ありません」
口数の日頃多くないへランドが自分への気持ちを告げる。その想いを汲み取り、俯くへランドの震える肩を抱いたレインがティルスを見上げる。
「ティルス様、行ってください」
「……ありがとうレイン」
静かにドアの閉まる音が鳴る。その背中に微かに聞こえる嗚咽を聞こえていないかのように、伝えられた気持ちは全て胸の内にしまい込んで儀式の行われる闘技場の中央の広場へと向かう。
陽光が差し込むその場所へと向かうと眩しそうにティルスは眼を細めたまま歩みを進める。周囲から見る事が出来る闘技場の広場に用意された場所へ。
視界が光に飛ぶ中で生徒達のざわめきが耳に届いて、明るさに目が慣れてきた頃、視界の先にはゼルフィーが既に立って到着を待っている。
一歩一歩近づく歩いて近づく。
胸の奥に込み上げる何かをせき止めるように口元を強く結ぶ。
周囲はその二人の雰囲気を壊さないように見守っている。
一歩一歩階段を昇り壇上へと至るとよく周辺が見えた。
即席で作られた祭壇。婚約の儀の為に用意されたその場所へとゆっくりたどり着くとゼルフィ―が手を差し伸べる。自分よりも背の低い少年から差し出される手を取り、壇上の中央へと辿り着いた。
「ティルス様、あまり手配の時間がなく。平民達と同じくケイヴン教の婚約の儀に則った儀式となりますが、お許しください」
「体裁など気にはいたしません」
「ありがとうございます」
二人が向かい合って立つ間にユーフォルビア家が用意したのであろうケイヴン教の司祭らしき人物が祝詞を上げるべく息を吸い込んだ。
『今、ここに二つの血が交わり新たな絆が編まれる時
それは古き約束を紡ぎもう一度
新しき未来を照らす灯火とならん
創造の御業に感謝を捧げ
我らを見守る存在を遥か祈る
その本質は知ることなきものなれど
その手は我らを支える
その声は道を示す
人々の守護者よ
その加護を授けたまえ
いま結ばれる絆が
世界に静けさと安らぎをもたらさんことを
この誓いは風に乗り、天に届く
光と影のすべてが調和するべく
二人の道を照らし続け……』
「その婚約の儀、ちょっとまったぁあああああああああああああ!!」
祝詞が終わりに差し掛かる直前、闘技場中に響き渡る声がビリビリとこの場に集まる者達の耳に届く。
「なんだ!?」
カムランとキリヤが声のした方へと向くとそこにはマントを羽織ってフードを被る正体不明の人影が五つあった。
何を隠そうショコリー、サブリナ、ヒボン、プルーナ、セシリーの5人。
正体を知る由もないこの場にいる全員はポーズをビシッと決めて注目を集めている。
ウェルジアとネルはそれぞれの持ち場で息をひそめてその時を待つ。
更に脇に待機するのはあとからこの作戦に乗りかかった面子。
「ねぇ、ドラゴ。ほんとに大丈夫かな。相手は双爵家なんだよね」
「俺が知るか。滅多に手合わせできねぇ騎士がいるらしいじゃねぇか?」
「そうらしいけど、先生に怒られるくらいじゃ済まない気がするなぁ」
「俺だけが経験値を積み上げてもいいんだぜ」
「いや、僕も行く」
「誰も交戦したことがないっていうシードブロッサムの騎士サマ。楽しみだねぇ~♪」
ショコリーが保険としてウェルジアに無理やり手配させた三人も待機していた。ウェルジアはドラゴだけに声を掛けるつもりだったがたまたま居合わせていたゼフィンとフェリシアも加わり、強くなるために自分たちの今の位置を知った三人はとにかく実力のある人物との戦いを求めていた。
そんな状況が合致し、半ば強引にこの作戦に加わっていた。
ショコリーは断らなかった。人数が多いに越したことはないと作戦が直前に更に練り込まれていた。
5人が登場するという一風変わった注目を集める演出もこのためだ。
「何者だ!?」
カムランが大声を上げて乱入してきた者達へ叫んだ瞬間に作戦は開始された。
うわぁあああ、なんだぁ!? と周辺のシードブロッサムの騎士達から一斉に驚きの声が上がる。ネルが彼らの武器をしこたま奪って闘技場の外へ飛び去ったのだ。
「アイツを追え!!」
そんな声にネルを追いかけてしまう騎士達の動きで陣形が乱れる。
「次っ!!」
気が付けば登場した5人のうち二人の姿がない。
ネルの行動開始と共にサブリナとセシリーもサポートに動き出していた。
一つ目の誤算だったのがパーティのような料理が並ぶはずの予定が厳かなケイヴン教形式の婚約の儀で食事が用意されていないこと。サブリナは急遽、その憤りを騎士達へぶつけるしかなくなった点だ。この作戦の目的がティルスを助ける事でなければ彼女は動くことはなかっただろう。
「何が起きているの?」
ティルスも突然の状況に困惑している。
「お前達、落ち着け!!」
カムランの大きな声が届くも最早、盤上はショコリーの目論見通りの混乱具合となりつつあった。
「チッ」
カムランは視線でゼルフィーに合図を送ろうと振り向く。作戦の遂行はもう少し後の予定だったがこのままでは目的を達する事は出来ない。
「ゼル……」
「突撃ィイイイイイいいい!!!」
ショコリーの合図で動き出したのは彼女とヒボンの二人を要(キーロル)とした変則班戦闘メンバー。
カムランに向かってヒボンとプルーナが向かい、ポーズに参加してない方向から飛び出したドラゴ、ゼフィン、フェリシアがキリヤへと肉薄する。
ドラゴたちが直前に加わったことで戦力が充実し、ショコリーは単騎でゼルフィ―の元へと駆け寄っていく。
「させるものか!!」
キリヤが剣を旋風のように振り切ると突撃した面々が吹き飛ばされ、ドラゴ達の急襲の勢いが振り出しに戻される。
「一振りで振り出し!?」
ショコリーがチラリと背後を見てしまった瞬間にはキリヤが背後に迫っていた。目測を誤っていた。
キリヤという騎士は九剣騎士クラスと見積もっていたが、そもそも九剣騎士の強さというものをショコリーは情報でしか知らなかった事がこのズレを引き起こしてしまった。
「そんなっ、うそ」
キリヤが剣を本気で向けてくるのが分かる。注目を最大限作る為に正体を晒していないことが逆に仇となってしまった。最初から増えたドラゴたち戦力含めて最初の計画通りにキリヤを封じる作戦にしておけばよかったと後悔するが既に遅い。
「はあっ!!」
自分の元へ振り下ろされる剣に思わず目を瞑ってしまう。
「速さだけなら、ついていけそうだね」
ガキィンと剣を弾く音がこだまする。
「なに?」
キリヤの眉がピクリと動く。
「重い剣を扱っていたから動きが遅くなっちゃうと思ったけど、縛りが無くなると逆に身体が軽くなるなんて」
「ほう」
「という訳で、僕らとぜひ手合わせ願います!」
「この学園の生徒か? そんな暇はない」
「どおらあああ!」
「てぇやあああ!」
ワンテンポ遅れてドラゴとフェリシアもキリヤへと襲い掛かる。学園の生徒は騎士の卵であるという認識しかなかったキリヤもまた相手の力量を見誤ってはいた。
高く上に相手のイメージを持たせていたショコリーとは違い、学生というだけで下に見てしまっていたキリヤ達シードブロッサムの面々は奇襲の中で陣形を大きく崩されている。
それも油断があったわけじゃなく相応の警戒をしていたはずの状況でだ。
それを行っているのが学園の生徒達であると気付いたキリヤは笑みを浮かべる。
「く、嫌な予感はこれか……道理で悪意を感じないわけだ」
ただ純粋に強さに挑戦しようと向かってくる者達を前にしてキリヤもその空気に当てられた瞬間、任務を忘れてしまう。
「ふ、面白いじゃないか」
ああなったキリヤは言葉では動かない事をカムランは知っている。
「くそ。任務を忘れたかキリヤ」
カムランはヒボンとプルーナに煙幕のようなものをぶつけて二人が怯んだ隙にティルスとゼルフィ―のいる祭壇へと駆け上がりながら叫ぶ。
「ゼルフィ―様! お早く!」
壇上のゼルフィ―はその声に反応して動き出していた。
「ティルス様。国の未来のためにその血、絶やさせていただきます!」
しかし、ここでも誤算は起きる。そう、ティルスの実力だ。
キリヤですら見誤った学園の生徒達の力を、ましてや実力で登り詰めるしかない西部学園都市ディナカメオスの生徒会長にまでなった彼女のこれまでの人生、努力の足跡。
それを貴族であるゼルフィーが推し量る事など出来るはずがなかった。使い慣れていないナイフを突き出した瞬間に手首を掴まれ捻り返される。
「っっつ」
「ゼルフィ―様、これは一体どういうおつもりなのですか?」
「しまった」
「なっ」
「あれ?」
壇上へと辿り着いたカムランとショコリーの眼前でそれは行われ、カムランもまたティルスの能力を知らなかった事を知る。戯れで学園に行き、その血筋から生徒会長になっていると思い込んでいたのだ。
双校制度に頼らない環境を自前で擁するユーフォルビア領の者達は知らない学園の内情。
領地の外の事を知らないまま過ごしていた者達にとって、いや学園の外の国の者達にとっても同じことだが並みの騎士よりも優れている生徒すら存在しているこの双校制度の中が別世界なのだとそこにいる者達は知ることは出来ない。
東西の学園都市二つはただの騎士の育成機関としての見方をしていたが為に生まれた大きな誤算。
「もう一つの目的は、諦めるしかないか」
作戦立案のショコリーが気を抜いた瞬間に完全にこの混乱に隠れていた悪意が牙を剥く。
ザシュッ!!
鮮血が飛び散り、壇上が赤に染まる。
「ゼルフィ―様!!」
カムランが絶叫するもずるりとゼルフィーが壇上に崩れ落ちる。
「ふひ、ふひひ。こいつか、こいつのせいだったなんてふひ」
首をカクカクとくゆらせながら現れた一人の生徒の凶刃がゼルフィ―を襲っていた。
「リヴォニア!! 何をしているの!?」
ティルスがその人物の名を叫ぶと次はぎょろりと彼女を睨みつける。
「あはは、ふ、ふふ、ふひっっ、いひひ」
阿鼻叫喚の叫びが闘技場内に地鳴りのように響き渡る。
非公式、秘密裏での学園への訪問で起きた未曽有の事態。
双爵家の跡取り、ゼルフィー・ユーフォルビア。
ティルスもだが、当然彼が死んでも大変な事になる。既に国の内部事情を掴んでいるティルス、マキシマム、プーラートンだけがこの混乱の中で青ざめ始める。
ティルスは礼装が汚れる事もいとわず治療を開始した。
「どういうことよ」
目の前で起きた出来事にショコリーも情報を整理しきれていない中、ゼルフィーを介抱するティルスへと少女が迫る。
リヴォニアと呼ばれたその少女が次はティルスを斬らんと剣を振り上げる。同じ生徒会で長くを共にし、見知ったはずの人物の凶行に対して即座に動けなくなってしまったティルスへと刃が振り下ろされる。
どのみち彼女を助けるという事に作戦の変更はない。何も変わらない。
「ええい、頼むわよウェルジア!!」
律儀にこの騒ぎでも独自に動かず、ようやく出番とばかりにショコリーの合図と同時に飛び出したウェルジアの剣閃がリヴォニアの攻撃を弾き飛ばした。
片手で振り上げた剣、もう片手にはショコリーの指示された通りの本が携えられていた。
なんだかんだと文句を言いながら言われた通りに登場する辺りは本当に生真面目な男だった。
「連れ去って逃げるのは中止、まずはこの場を収めるのが先!!」
「わかった」
視界に飛び込んだ人物の背中、そして目にした本にティルスの思考は制止する。
『僕はいつか、君の騎士になるために戻って来る』
記憶にあるその言葉が鳴り響く。
「これを持ってろ」
邪魔くさそうに投げ渡された本を抱き込むように受け取った。
ふわりと優しく受け止めたその本の裏表紙を反射的にめくってしまう。
ショコリーと話した時に期待した自分。
まるで何かに導かれるように拡げた先に見えたもの。
「あ」
そこに書かれていた言葉、普通に出回る本には書かれていないはずの言葉。
英雄グラノ・テラフォールがこの本を彼女にプレゼントする時にティルスへ向けて書いてくれた直筆のメッセージ。
「剣の道は……ひと、つに…在らず、政の道も、また一つに……あら、ず」
胸の内に込み上げるこの衝動を受け止めきれずに苦しくなる。
「この本」
目の前にいる男が彼なのかは分からない。この状況では聞くことも出来ない。
それに戦っている相手は生徒会の仲間、リヴォニアだ。何か事情があるのかもしれないがそれもどうにかしなくてはならない。
目の前の血だまりで横たわるゼルフィーの手当てもしなくてはならない。
脳内はティルスには珍しく優先順位を付けられない大混乱状態だった。
「ティルス代わりなさい!!」
ショコリーが横から割って入り、ゼルフィーの顔色を確認する。
「どうしてアンタが命を狙われる事になるのよ。ただの婚約の儀じゃなかったの!?」
「そんなこと言われても分かるわけないでしょ!?」
「ああ、もう彼が死んでも大問題だってのにぃいいい、治すの全然出来た試しがないってのにぃいいいもおおおおお」
カムランがゼルフィーの様子を見て崩れ落ちる。
「ああ、あああ、ゼルフィー様」
「集中の邪魔よこんのドグサレ無能オヤジ!! あとでキッチリ説明してもらうからどいてなさい!!」
ショコリーが悪態をつきながら目を瞑ると淡く弱々しい光がゼルフィーの身体を包み込む。
「これも魔法?」
「そのつもりだけど、やっばいかもしれないわ」
「どうして?」
「私は今まで魔法がつかえたことが一度もないのよ」
「え? でもあの時は確かに使えてたじゃない」
ティルスは以前のリオルグ事変での事を思い出す。確かにあの時、彼女は魔法らしき不思議な力を使っていたはずだった。
「あれはなんか自分の意思じゃなく偶然できたに過ぎないわ」
「思い出して! どうにかなさい!!」
「むちゃ言うなーーーー!!!!」
「お願い!!」
「ああ、もぉおおおおーーーー手が足りないわよぉおおおおーーーーーお腹も空いてきちゃったじゃないのーーーーーヒボン次期生徒会長候補だった男!! 周りの事は頼むわよ」
「ええええ僕が!? ってか何でそれ知ってるんだよ君が」
「細かい事は気にしないの!!」
ショコリーが生徒会室のロッカーにずっといたことなど知る由もない。それにそもそもヒボンは集めた情報を武器に戦う男であり、それがない状況での指示などほとんどしたことがない。
こんな状況を情報なしになんとかしろというショコリーの難題に頭を抱える。
「待ってまって、情報が少なすぎるってばーーーーーーーどこが落としどころなのかもわっかんないし!!!!!!」
「わたしは?」
プルーナが手持ち無沙汰に突っ立っている。先ほどから忘れられていた彼女はヒボンの後ろにずっとくっついて動いていた。
「アンタはウェルジアのフォロー!! あの子、なんかおかしいわ!!」
「わかった」
コクリと頷くととてとて歩いて切り結んでいるウェルジアとリヴォニアの元へと向かっていった。
「私も行くわ」
「どこに?」
「リヴォニアの所よ」
「ああ、もう好きになさい!!」
「ゼルフィ―様をお願い」
「言われなくても死なせるわけにはいかないんだって!!!」
「ああー、せめてリリアが起きててくれたらまだできる手があったのにぃいいいいいい」
叫んで頭を一旦冷ましたショコリーが真剣な表情に切り替わると場の空気が変わる。
「……出来ないなんて言わせない、やるのよ。やれるわショコリー」
誰にも気付かれず震えている手を握りこんでから開き、その手のひらをゼルフィーへと向けるのだった。
つづく
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