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56 教師達の戸惑い
「全員……読んだのかい?」
教師達は、お互いに目を見合わせた後、プーラートンへと頷いた。
その教師たちの視線の中をかいくぐるようにプーラートンはマキシマムへと視線を向けて睨みつけた。
「……こりゃ、どういうことなんだい?」
「ふん、わしに聞いたところで分かるわけがなかろう」
「脳筋は頭が回らんこと位知っておる。お前さんは王都に知り合いも多い、何か知らんかと思っただけじゃ」
「いきなり脳筋とはご挨拶なことだな陰険ババアさんよ」
「ふん、あんたも大概だろうよ脳筋ジジイ」
この二人のやりとりもいつもの事なのか、剣呑な雰囲気ではあるが周りの教師達も声を掛けたり止める者はいない。
「本当に……何も知らんのか?」
プーラートンはフッと息をつくようにして呟いた。
「……」
マキシマムは悩んだ。今回の単騎模擬戦闘訓練(オースリー)で届いた指示の件そのものに関しての件は本当に分からない。
だが、国に異変が起きている可能性など、事態に繋がる糸の先は掴んでいる。
目の前の人物にそれを話していいものかどうかに思案する。
それだけが彼の心の中での葛藤になっていた。
日頃から多少なりとも信頼性を構築できていた相手ならば、とマキシマムは惜しむが過ぎた時は戻らない。そこで思考を切って返答した。
「……ああ、知らん」
「そうかい」
プーラートンはそれ以上は何も言わずに教師達全体へと向けて話を続けた。
「国からの指示の通り、アタシが今回の責任者という訳さ」
手元の紙に視線を落としながら話し続ける。
「だがね、こんな指示はなにせ初めてなもんでね……」
プーラートンはこれまでになく複雑な表情で言葉を選ぶ。その時、一人の教師が口を開いた。
「で?」
青白い顔の教師が、プーラートンへと詰め寄った。
「初めてだから、どうしたというのです?」
プーラートンは鋭い視線のまま男を刺すように見た。
「冷静に考えて、おかしな指示であることをアタシは感じている」
「おかしな指示? そういうことを聞いているんじゃない。貴女の役割は国の指示を汲み取り、完遂することでしょう。国の為に」
青白い男とプーラートンの視線が交差し、先ほどのマキシマムの時よりも一触即発の空気が辺りを包む。中にはその空気の重さに冷や汗をかく者も見て取れた。
「……正論だね。だが、それは平時の話だ。そんなことも若造には分からんか。リオルグ」
リオルグと呼ばれた青白い顔の男が口元を釣り上げてうすら笑いを浮かべた。
「つまり、国が異常で、この度の指示は過干渉だとでも?」
「ああ、そういうことさ。まどろっこしい言い方は好かん」
「それは引いては国への反意となる返答なのでは?」
「ふん、アタシがどれだけこの国に貢献してきたと思ってる。間違っているなら間違っていると言わねばならんこともあるんだよ」
「そんなものはもう昔の話でしょう? 年寄りはこれだから困ります。いつまでも過去の栄光に縋り続けようとする」
そこで違和感に気付いたマキシマムは怪訝な表情でありながらも自分の直感に基づいて口を挟む。
「おい、リオルグよ。何があった?」
プーラートンはマキシマムのその言葉の真意が読めずだが、同じく何か違和感を生じているこの状況に眉を吊り上げて、厳しい表情を浮かべた。
「マキシマム。アンタ何言ってんだい?」
プーラートンはそのまま演技ぶった物言いで首を傾げてマキシマムを見る。周りの教師達もそれに続いて、リオルグと呼ばれている青白い顔をした男に注目する。
「……リオルグは、確かに教師の中では若造だが、年功には敬意を払う男だったはず」
リオルグは静かにその視線を受け止めつつ、周りを一瞥した後、天井を仰いでこう言った。
「……年功者に敬意を払い、そこから真摯に学ぶ日々。それが強くなる道だと、信じていましたとも」
「今はそうではないと?」
マキシマムのその言葉にゆっくりとリオルグは天井から視線を落とした。
「積み重ねたものなどが何の役にも立たない事を知った。ただ、それだけです」
要領を得ない言い方だった。それは周りの教師達も同じであったのだろう。
「含みのある言い方だな」
これ以上は無駄とばかりにリオルグは話を元に戻した。
「……とにかく、指示の通り、従順に生徒を見守っていばいいのですよ。プーラートン先生」
「フン……現場に依存するような状況であると判断したその時は文句は言わずアタシの指示に従ってもらうよ」
「貴女の指示に従う必要性の優先度が高いという判断になるのであれば、その通りにしますよ」
またも要領を得ない言葉を吐くとそのまま扉へと向かい、リオルグは部屋を出ていった。
「……プーラートン」
マキシマムは静かにプーラートンへと視線を向け、それに追随するように他の教師も注目する。
「今は何も言うまい。どのみち、単騎模擬戦闘訓練(オースリー)は行わなければならん。とはいえ、指示の通りの形式では単騎とは最早言えんがのう」
「ああ、さながら班編成での小規模戦闘。陣形模擬戦闘訓練とでも言ったところだろう」
「いいかいアンタ達!! 怪我をするのはそいつが弱いんだから放っておきゃいい! ただ、訓練としてやりすぎな生徒が居たら全員止めな。実力行使でも構わないからね」
教師たちは大きく頷いて、会議は解散となった。
自室で届いた書面を見ていたウェルジアは目を細める。
「この時期は単騎模擬戦闘(オースリー)の開催だと聞いていたが……仲間と戦うだと? ちっ、面倒なことになったな」
『今回の模擬戦闘中に貴殿と共に戦うメンバーは以下の生徒である』
・ネル・ゼファーソン(1年)
・リリア・ミラーチェ(1年)
・ヒボン・ヘイボン(3年)
・ドラゴ・べリアルド(1年)
「知らん名前が並んで……いや一人知ってはいるが顔が浮かばん。まぁいい。一人であっても戦いに勝ちさえすればそれで問題はないだろうしな」
偶然か運命か、模擬戦闘での運命共同体となるメンバーの名前が並ぶ。
その内の三人は同じクラスでもあるのだが、うち二人は半年も経つのに未だに名前も顔も覚えておらず、一人は偶然にも名前だけはある事情で知って覚えているが顔が浮かばず頭を傾げるウェルジアだった。
続く
作 新野創
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