First memory(Hinata)04
「サロス、大丈夫かな?」
「ここは学院の中だし。危険はないと思う。それより……」
フィリア君が辺りを見回していて気づいたことだが現在、資料室の電気が消えている。
まだ、外が完全に暗くなっていないからかろうじて室内を見ることはできるが、これから夜になれば完全に見えなくなる。
私が不安そうな顔をしていたからか、彼女が私の右手を両手で包んだ。
「大丈夫。ヒナタちゃんは一人じゃないよ。あたしも、二人もいるから、だから心配しないで」
ヤチヨさんの手はとても暖かかった。人の体温というのはこれほどまでに暖かく、そして心強いのだと私は初めて知った。
「ヤチヨ、持ち出せる懐中電灯か何かないか。少し探してくる。すぐ、戻るから。彼女とここでおとなしく待っていてくれないか?」
「うん、わかった。気を付けてね。フィリア」
短く返事をするとフィリア君は私たちから少しづつ離れて、明かりを探しにいった。
「心配しないで、ヒナタちゃん。あの二人ってこういう時はすごく頼りになるから」
そう言った彼女からは、さっきまでの恐怖はすっかり消えていた。
彼女は、きっとあの二人をすごく信頼しているのだろう。
どうして、彼女はここまで他人を信頼することができるのだろうか。
友達なんて……。そんな、すごく曖昧で不安定なものを。
「ヤチヨ、あったぞ」
そう言ってフィリア君は息を切らせて戻ってきた。
彼が持ってきたのは、非常用として供えられているこの資料室の持ち出し用の非常灯だった。
「さっすが、フィリア。こういう時は頼りになるー」
「ただ、あまり長時間は持ちそうにない。いざという時以外は使うのは止めた方がいい」
「おーい!!」
さっき出て行ったサロス君の声が遠くから聞こえた。
「サロス、気をつけろ。明かりがない分、足元が見えづらく――」
「うわっ!っとと」
フィリア君の忠告も空しく、暗くなりつつある室内に派手な音が響き渡る。
「ってぇー」
「だから、言っただろう。気をつけろと」
「言うのがおせーんだよ!!」
足音からサロス君がこちらに近づいてくるのがわかる。彼は、私たちから少し離れた場所に座り込んだようだった。
「それでどうだったんだ?」
「あぁ。学院内に俺たち以外は誰もいなかった」
おかしい。学院には、常に誰かが常駐しているはず……?
「誰も?先生方は?」
「そこまでは見てねぇけど、少なくもこの階には誰もいなかったぜ」
彼の言葉を聞いて、私はあることを思い出していた。確か、近いうちに学院全体のメンテナンスが入るということ。
メンテナンスは不定期に行われており。メンテナンス中は全ての学院内の施設及び設備がダウンすること。メンテナンスは、翌朝には終わること。また、メンテナンス時には旧時代(エルム)の警備ロボが巡回し。侵入者を発見次第≪排除する≫という噂を聞いたことがある。
だとするなら、今学院に残っている私たちは!?
「ねぇ、もしかしてなんですけど。今日、学院のメンテナンス日……。なんてことありませんよね?」
「んぁ?なんだそりゃ?」
「メンテナンス日?」
サロス君と彼女が二人して不思議そうに同じ向きに小首を傾げていた。
「そうか、確かにそんなようなことを先生方が言っていたような気がするな」
「やっぱり……」
「ねぇ、ヒナタちゃん。そのメンテナンス日ってなーに?なんかやばいの?」
どうやらこの絶望的な状況を理解しているのはフィリア君と、今のやりとりで感覚的に事の深刻さを理解した彼女だけのようだった。
――続く――
作:小泉太良
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