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186 謎のお節介集団

学園内でもティルスの婚約の儀が行われる噂は瞬く間に広がっていった。
 彼女、というよりもラティリア家の存在がどれほど大きいのか改めて誰もが理解する事態になっていた。

 しかし、こうした状況の中で通達されたのはその情報の完全秘匿義務。婚約の儀の後に学園外へ通達される運びとなっている。

 それもそのはずでこの儀式の為だけにユーフォルビア家の者達が非公式に学園へと赴くことになっており、混乱を避ける為にこのような厳重な処置が取られていたのだ。生徒の中でも今回の事を知る者は生徒会のメンバーを含めてごくわずかだった。

 それらは全てティルス本人が学園で執り行いたいという希望を申し出てそれをゼルフィーが快諾し、今回の形に決まったのだ。

 国内でもほとんど情報の出回らないユーフォルビア家の者達が学園に来るなどという情報が明るみに出れば国内情勢にも影響する一大事だ。
 いくら学園内が中立の立場を許されている環境と言えども王家を始め、多くの軋轢を生むことが容易に想像できる事だった。

「ふふふ、これより婚約の儀に向けた秘密の大作戦を行うわ!!」

 大きなリボンをゆらゆらとしつつショコリーは腰に手を当ててビシッと指を天へと掲げた。

 婚約の儀の件など知る由もないウェルジア、ネル、プルーナ、そしてセシリーも同席させられている。
 ヒボンがショコリーからの強引な命令で無理やり該当者を集めさせられたのだ。
 生徒会からはサブリナがショコリーに呼び出されてこの場に赴いていた。

 この場に集められていたのはウェルジアをはじめ、ショコリーに多少なりとも所縁のある者達。そして、一部ティルスに所縁のある者。

「まずは作戦の前に前提を確認せねばならない事があるわ」

 全員集められた目的も何もかも不明なままで唖然としている中、ショコリーが構わず進行する。

「そこの無表情根暗ロン毛!! アンタに聞いておきたいことがあるわ」

 天へと掲げられたその指先がウェルジアへと向けられた。

「……」

 全員の視線が集まるも本人は自分が言われているとは微塵も思っていないような素振りで目を瞑ったまま腕組みをして座っている。

「アンタよ、アンタ!!」

 ショコリーが指先を向けたままズンズンとウェルジアに近づいて事もあろうに鼻をつまんだ。

「んぁ?」

 鼻声でウェルジアが目を開けてショコリーを睨む。

「何のつもりだ」

 一触即発の雰囲気がセシリーの工房内を包み込んでいく。
 いつもならリリアが緩衝材となり、間を取りなすのだが未だ彼女は目覚めないままでいる。

 身体は問題ないが、どうも心の傷が彼女を眠らせているようだとショコリーが彼女の様子をみて判断を下しており、今はただ見守ることしか出来ない。

 何らかの方法はありそうな素振りをみせたショコリーも一連の話を聞いて、やめておきましょ。
とだけ呟いてリリアの眠る部屋を去っていた。

 あの時とは雰囲気が別人のような彼女がウェルジアと睨み合ったまま微動だにせず半ば一方的、はたまた強制的に話を進めている

「アンタはたた質問に答えればいいのよ」

「質問?」

「そう、アンタが持ってるテラフォール流の本。それはどこで手に入れたものなの?」

「本?」

「擦り切れる程に読み込んでいたあの剣術の本よ」

 周りの面子が全員話についていけてない様子で見守る中、ウェルジアは僅かに思案して天井を仰いだ。
 どうも本の事を思い出そうとしているらしい。

「ああ、昔もらった」

「誰に?」

「知らん」

「ほんとうに?」

「名前は知らん」

「ほ~ん。なるほど。名前をお互いに聞いていなかったという証言とも一致するわね」

 ショコリーがなにやらニヤニヤし始めた。

「それって、もしかしてだけど。窓から投げ渡された本だったりしない?」

 記憶の中に朧げに残る出来事を掘り起こされたようにウェルジアは眼を見開いた。

「どうして、お前がそれを知っている?」

「ビンゴ、か。ふぅん。このショコリー様の天才的な勘は正しかったようね」

 一人でうんうんと納得するショコリーは続いて全員を見下ろせるようにテーブルの上に立った。

「これより、貴方たちには重要な任務を手伝ってもらうわ!!」

 これまた全員が話に全くついてこれていない。

「あの、ショコリーさん。先ほどから話が全く見えてこないんですが」

 セシリーがおずおずと手を挙げて発言する。

「察しが悪いわね」

「察するには情報が必要だもの。無理にも程がある」

 壁にもたれかかっているネルも溜息を吐いて呆れた顔だ。

「私達で協力してティルス会長とユーフォルビア家の人間との婚約の儀に介入するのよ」

 ショコリーのその言葉に全員が「は?」という表情で揃って硬直していた。

 サブリナとヒボンの補足で婚約の儀を生徒会長であるティルスが行う事になったという重要情報に関しては理解したが、どうして邪魔をするのかに関してだけは一切話す気がないらしく、一同は頭を抱えていた。

「婚約の儀を邪魔するという事? 下手しなくてもそんな重要な儀式を罰されるわよ」
 ネルの言い分は最もだったが、ショコリーはまるで意に介さないようにこう言い放った。

「全ては、そう、真実の愛の為よ」

 ショコリーは真剣な表情で女性陣を見つめた。各々がティルスは無理やりに婚約の議をされるのだと解釈し、同時にこの学園内で好意を寄せる誰かがいるのだと瞬時に理解した。

 そして、その瞬間。

 彼女らは手のひらを差し出して重ね合った。

「そういう、事なんですね」

「ティルス様にそんな事情があったなんて気が付かなかっただわよ!!! こうしちゃいられないだわよ!!」

 セシリーが真剣な表情でコクリと頷くと、サブリナへと伝播し、その他女性陣もコクリと視線を合わせ頷いたかと思えば、謎の一致団結を未だに話についていけていないウェルジアへと見せるのだった。


つづく


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