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First memory(Hinata)05

 サロス君は……さっきと反対側に小首を傾げていた。
 私は、彼女とサロス君にも出来る限りわかりやすいように事態の説明をした。
「警備ロボが動き出して、しばらくすると学院の出口が全て封鎖されてしまう……らしいの」
 彼女の顔は沈み。サロス君は黙って目を閉じて腕組みをしていた。
 状況を既に理解していたフィリア君は「やはりか」と小さく呟くと天井を見上げた。
「まっ、朝まで誰も来ないんじゃ仕方ねぇって」
 サロス君が、そんな呑気なことを言ってニコリと笑いかけてきた。
「ねぇ、私の話聞いてた?メンテナンス日には何が起きるのかわからないのよ!」
 彼の能天気さに、少しイラつき。思わず声が大きくなる。
「でもよ、俺達は一人じゃねぇ!なら、なんだってできる!そんな気がしねぇか?」
 この人はこの期に及んでまだこんな楽観的な……。
「ぷっ、ははははは」
 フィリア君が突然笑い出した。絶望的な状況に彼は気でも狂ってしまったのか?
「流石サロス。だが、この学院に朝まで大人しくいるのが危険なのは理解しているよな?」
「だから――」
 サロス君が立ち上がり。両こぶしを合わせて、ニッと笑った。
「さっさと帰るぞ!」
「えっ!?えー!!」
 彼が何を言っているのか。私にはまるで理解できなかった。メンテナンス日を仮に無事に終えるためには、警備ロボに見つからないように息を潜めてここでじっとしている方がまだ賢明ではある。
 なのに、彼は敢えて危険な選択をとると言うのだった。
「君ならそう言うと思っていた。僕も乗るぞサロス」
「えっ、えー!!!!」
 割と思慮深そうだと思っていたフィリア君までサロス君の無謀な提案に乗るというのだ。私はもう、怒りを通り越して泣いてしまいそうだった。
「あなたたち状況を!!!」
 小さな手が、私の袖をつかんで制止させた。
 見ると、先ほどまで絶望していた彼女が今はどこか希望を持った表情で私を見ていた。
「ヤチヨ……さん?」
「えへへ。名前やっと呼んでくれたね」
 彼女が嬉しそうに笑う。こんな状況でなければかわいいと抱きしめたくなるほどに愛おしい。
 違う。今はそんなことを考えている場合ではない。
「そんなこと言ってる場合じゃ――」
「大丈夫。サロスとフィリアがああいう顔しているときは、必ずうまくいく。だから一緒に行こうヒナタちゃん」
 私の袖を握っていた小さな手を離し、今度は私に向けて差し出した。
 この時の私はどうかしていたのだと思う。そんな不確かなものを信じるなんて。普段なら、絶対に口にしないはずなのに。
「もう、、、どうなっても知りませんよ」
 そう言って、私はヤチヨさんの手を握った。この不確かな希望に気持ちを預けてみたいと思った。だって、私の心はこの日、これまでの人生で一番ワクワクしていたのだから。
「うん。大丈夫。きっと帰れるよ!!」
 そう言って、笑うヤチヨさんの笑顔に迷いはない。彼女は心からそう信じているようだった。
「うし、行くぜ。フィリア、ヤチヨ、そしてヒナタ!!」
「あぁ。行こう!サロス!!」
 二人の男の子は自信に満ち溢れていた。確信はない。でも、なんだかこの二人ならやり遂げてしまう。そんな期待が、私の中にも生まれていた――


――続く――

作:小泉太良

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双校の剣、戦禍の盾、神託の命。」もどうぞご覧ください。
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