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17 魔法・魔術・魔導と呼ばれるモノ
失われた過程には諸説あるが、魔法・魔術・魔導と呼ばれる技法・技術は遠い過去のものとなっており、おとぎ話や物語の中にその存在を微かに残すのみとなった。 それぞれに特性はあるが今回の目的とは異なる為、割愛する。
さて、魔女は本来は魔法を使うと人々に恐れられていた存在であるが、本当に使えるのかどうかは今や不明とされているのが現状だ。
魔女の生き残り最後の二人、ベルティーンとオスタラが魔女の討伐隊の騎士達に対して抵抗の際に使ったとされる記録だけが残されてはいるようだがどこまで信憑性があるのかが疑問だ。
当時オスタラを討ったとされる騎士ディアナ・シュテルゲンはその件に関して語ることはなかったようで、どうして話さないのか、その真意が不明であることもこの謎に拍車をかけている。
更に終末の魔女と呼ばれる最後に討伐がなされた魔女ベルティーン関しては誰もその最後を目撃しておらず、なぜ討伐されたという情報が出回ったのかは現在も調査中となっていて魔女研究者達の最大の謎となっている。
その結果として現在は魔女、そして魔法は世の中に存在しないものと言われている時代となった。しかしながら確かめる術がない事から魔法に関する真偽も全ては定かではない。
魔法書、魔術書、魔導書と呼ばれる本自体は残っている為、もしかするとまだ現存している魔法の使用者ももしかしたらいるのかもしれない。
引き続き魔法・魔術・魔導に関しての調査を進めていくのが我々、研究者の責務であると言えるだろう。
また、前述の魔法書、魔術書、魔導書の類は存在を認識して初めて書物として定義される特殊な道具である。つまりそれらを書として知っている者が居なければそこに存在しないと同義であり、そもそも手に入れようがないのだ。一部の騎士や特権階級の人間が所持している場合があるが、それも本としての形の認識のみで解読、読解の類は不可能、つまりは読むことすら出来ない。
この国では書物自体が一般には貴重なものであるのも要因であるだろう。
書の内容を生かせる者が世の中に圧倒的に少なく、その価値は非常に高いものとなってしまっている。
対して書物には技術的な内容のものとは対照的に一般大衆にも普及することを果たした書物があり、それがいわゆる伝記である。
大昔の出来事を模したであろうその物語は大衆に親しまれているものではあるが、本当にあった出来事なのかどうかは確かめる術はやはりなかったのであろう創作の物語としての域は出ないままだ。
この国の礎となった出来事に関わり、人々の時代をもたらしたという神コーモス、そしてカメオスにまつわる物語の数はとても多く、人々に愛されている。
東西にある学園にその神の名前が記されている通りこの国の中でその二柱の神を知らぬものはほとんどいないと言ってもいいだろう。
だがそれらを伝える伝承などの創作とされる物語が増えすぎた結果として、どの話が大昔にあったであろう出来事に起因した内容であるのかが判別がつかない。研究者たちは膨大な書物を研究してはいるが、増え続ける物語の信憑性を判断できるような調査は今の時代では難しく、少しずつ正規の物語は時代の中で風化しているといえるだろう。
「ふんふん、なるほどねぇ。という事は、正史と呼ばれている伝記の中には本当にあった出来事である物語も、もしかしたらあるかもしれないってことだよね~すごいなぁ」
メルティナは本を凝視しながら呟いた。
「ねぇメル。面白い?」
「うん、すっごく」
「ぬあー、私はダメだー体動かす方がいいーーーーいちいち言葉が難しいんだってば!! 私じゃなくてもこうなるよ!!」
ミレディアは椅子から立ち上がり大きく伸びをして叫んだ。
「あはは、ミレディらしいといえばらしいよね」
「だってぇ。それを調べたり見たって自分が強くなるわけじゃないし……」
そう言って再び椅子に座り、机にうなだれるミレディアにカレンが声をかける。
「そうでもないぞ。書物の中には読むだけで自分の力を増すというものも確かに存在する」
「えっっ!!! ほんとですか!?」
「ああ、驚くべきことであるが説明もまるでつかない。世の中は不思議な事がまだまだあるものだ」
「でも、どうしてそんなものがあると?」
「ああ、それは私自身の身に起きた事だからな」
「えええええええ、カレン先生が!?」
「私の家は血筋としては学者、研究者の家系でな。昔、そういった本が家に存在したんだ。たまたまそうした影響がある本を私は見てしまったというわけさ」
「へぇ、カレン先生があんなに強いのも納得……」
「とはいえ、それはあくまでもきっかけに過ぎない、手に入れた力は使いこなしてこそ意味がある。手に入れただけでは自分の物とは言えないからな」
「別に先生が努力をしていないとは……」
「そう聞こえたが、ちがうのか?」
「いえ、滅相もない!!! ご、ごめんなさいーーーー」
「ふ、冗談だ。だが、そうした書での思わぬ知識が戦場で自分の命を繋ぐことも時としてあるのは間違いない。覚えておけ。力だけがあっても戦場では生き残るのは難しいことだからな……」
カレンは愁いを帯びた視線でそう言葉を生徒たちに伝えた。
「カレン先生……はい、わかりました」
カレンのその言葉に何か思う所があったのか、先ほどまでと違い姿勢を正してミレディアは本を真剣に読みだした。
「とはいえ、命がけになるような戦は今の時代はそうそう起こりはしない、西部学園都市との東西戦の時に気を付けるくらいだろう」
「東西戦??」
シュレイドは食堂で軽く耳にしていた言葉が聞こえ、思わず言葉を発していた。
「なんだお前、知識はそこそこあるのに東西戦の存在は知らんのか?」
「え、あ、はい、すいません」
カレンは呆れたように小さく息を吐いたあとシュレイドに答える。
「そうだな。優れた騎士を育てる為には実戦が一番だ。だから定期的に東西の学園同士で模擬的な戦争をする」
「一般的な模擬戦闘の訓練とは何が違うんですか?」
「なんだ、そちらは知ってるのか? ちぐはぐな奴だな」
「最近、聞いたばかりなもので」
「少し予定は変わるが、まぁいいか。もうまもなくお前たちも模擬戦闘の機会が課せられるしな。よし全員一旦、本を閉じて話を聞け」
カレンは生徒たちに声をかけ全員の視線を集めたことを確認するとゆっくりと話し出した。
続く
作 新野創
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