First memory(Hinata)10
フィリアもきっと私と同じなんだろう。ヤチヨちゃんとサロスがいなくなってしまってどうしたらいいか本当はわからない。多分、自警団に入るという決断も彼が彼なりに今、自分ができることを模索した結果なのだろう。誰にも相談せずにフィリアがひとりで決めたこと。
フィリア自身も一人になることで……ヤチヨちゃんやサロスと同じ状況で……戦うと決めたこと。
だったら私に今、できることは……?
「ねぇ、フィリア」
そう言ってフィリアの方を向く。
「なんだい? ヒナタ」
フィリアは落ち着きを取り戻していた。いつものフィリアだ。
ふと、ある考えが頭をよぎり、ヤチヨちゃんみたいな悪戯な笑みが零れる。
「これから、私とデートしましょ」
「へっ!?」
私の思いもよらない発言で、フィリアは驚いたのか目をパチクリとさせていた。
作戦成功!と言ったところだろうか。
「ほら、行こっ。もう時間もあまりないんだし!」
「ちょ、ちょっと待ってくれヒナタ!!」
呆気にとられているフィリアの手を強引に握り、私は資料室を飛び出した。
資料室から出ると、外では部活動に励む生徒の声や空き教室で楽しくお喋りをする声が聞こえてきた。
「ヒナタ、どういう―――」
「ねぇ、フィリア。あなたは、明日の修了式が終わったらもう学生ではなくなってしまうんでしょ?」
フィリアの顔を見ずに、あくまでも明るく振る舞う。
「えっ!? まぁ、そうだな。自警団に入団するなら学生のままというわけには―――」
「だから、私と最初で最後の学生デートをしましょ」
握っていた手を離し、フィリアの方を振り向く。準備は出来たから。最後に思いっきり楽しもうと思った。
「いや、デートって……ヒナタ」
「良いでしょ? 私の一生のお願いよ」
私は、フィリアの目を真っすぐ見た。少しずるいかも知れないけれど、こうした場合のフィリアは大概。
「……。わかった。付き合うよ」
そう、こういう本気を訴える態度にフィリアとサロスはとことん弱い。誠意のこもった瞳にものすごく弱いのだ。
ヤチヨちゃんとのやりとりを見ていたから知ってる。
私が差し出した右手をフィリアの左手が握る。
フィリアと繋いだ手をギュッと離さないように力を込め、放課後の夕日が射す校舎を歩いて二人で食堂へと向かう。
確か、今日は遅い時間まで空いている日だったはず。途中クラスの子に見られ驚きの声や、時折、歓声や悲鳴のようなものも聞こえてきたが、そんなこと今の私たちには関係のないことだった。
「ヒナタ、それ、は、、、」
「ホッチョムーテルよ」
私の頼んだものを見て、フィリアが絶句していた。
「見た目は、こんなだけど美味しいのよ」
「本当かい? なぁ、サロ――っっ」
「本当よ。ねっ! ヤ――」
思わず、横を向いてしまい。今はいない親友(ヤチヨ)の名を呼びそうになる。
彼も同じように横を向き。今はいない親友(サロス)の名前を呼ぼうとして口を閉ざす。
「あっ、冷めちゃうわね。食べましょ。ねっ!」
「あっ、あぁ」
「、、それっ!」
フィリアの口が開いた、瞬間。その口に目掛けてホッチョムーテルをスプーンに乗せて突っ込む。
「うわっ、辛い!!」
「うふふ」
楽しそうな会話を続ける。私たちはどこか似ている。
それからも思い出の場所を巡るたびに私たちはヤチヨちゃんやサロスの名前を呼びそうになっては、二人とも誤魔化すように会話をして、笑顔を作る。
この学院には、四人での思い出が多すぎる。だから、フィリアと二人だけでこれから先、楽しい思い出を作ることなんてできっこない事をお互い、なんとなく感じていたのかもしれない。
そんな、私たちのぎこちないデートのようなものを一通り終えた頃、日はすっかり傾き。夜になろうとしていた。
――続く――
作:小泉太良
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