First memory(Hinata)08
「ごめんね、ヒナタちゃん。こいつらバカだから」
ヤチヨさんが手を合わせて、私に謝罪の言葉を述べた。
「おい! 誰が馬鹿だ!!」
「ヤチヨ、サロスと同じ括りにされるのは納得できないんだが」
先ほどまで痛がっていた二人が再びお互いを睨み合い。喧嘩の雰囲気が漂う。
「なんだとフィリア! だいたいてめぇがいきなり叩くのがわりぃんだろうが!!」
「やめなさいっての!! また、踏まれたい?」
ヤチヨさんの一言で再び喧嘩が起こりそうな雰囲気は瞬く間に消えた。
「ねっ、ねぇ。ここってこんなに星が見えるのね」
この空気を変えるべく、私は空を見上げて大げさに言葉を発した。
「うんっ。そうだよ! ここはね。私たちの秘密の場所なの」
ヤチヨさんは、先ほどまでの剣幕がすっかり消えニコニコと私の方へ歩み寄ってきた。
「秘密の場所?」
「うん。私の大事な人だけが知っている秘密の場所。ヒナタで4人目だよ」
そんな大事な場所を私に教えてくれたことに、内心すごく嬉しい気持ちでいっぱいだった。
「そうなのね。でも、確かにこんな場所があるなんて知らなかった」
「でしょ?」
そう言ってヤチヨさんは満面の笑みを私に向けた。
「今日は、特別綺麗。だって、こんなに星が見えるんだもん! あっ、流れ星!!」
ヤチヨさんが、空を指さす。
「えっ、どこ!!」
直ぐに上を向いて辺りを見ますが、それらしいものを見つけることはできなかった。
「あっ、また流れた!!」
ヤチヨさんは嬉しそうに言っているが、私はまたしても流れ星を見つけることはできなかった。
ふと、今何時ごろなのだろうか。こんなに星が見えるということは、きっといつも帰る時間よりもだいぶ遅いことは間違いないだろうけど。
「だいぶ、遅くなっちゃったね。ヒナタちゃんのパパとママ心配してるよね?」
ヤチヨさんが申し訳なさそうに私に言った。しかし、私の両親は―――。
「大丈夫です。お父さんもお母さんも忙しい人なので、明日の朝にならないと帰ってきませんから……」
「……そうなんだ。じゃあ、うちと似てるね」
「えっ!?」
ヤチヨさんの発言に思わず驚きの声があがる。彼女も私と同じような家庭環境だったのか……。
「あたしのパパと……………………ママもさ。なかなか帰ってこないんだ」
お仕事?という言葉を言いそうになって思わず言葉を飲み込んだ。なんだかわからないけど私の直観がそれ以上聞いてはいけないと言っているような気がした。
「そうなんだね。サロス君とフィリア君は?」
「あー。俺、父ちゃんも母ちゃんもいないからさ」
話を変えるために、振ったはずだったのに。思わぬ地雷を踏み抜いてしまった。しかし、彼はそんなことを気にしている様子もなく明るく答えた。
「えっ、ごめんなさい。私……」
「気にすんなって。俺にはフィリアとヤチヨ、それに今日からはヒナタもいるしな」
サロス君はそう言って子供みたいな無邪気な笑みを私に向けた。
「私……も?」
彼の一言に、私は言葉を失った。だって、彼とは今日会ったばかりでヤチヨさんやフィリア君よりも付き合いは圧倒的に短いはずなのに彼は、私をその同列に並べている。
「だって、ヤチヨのダチなんだろ? なら、俺のダチでもある。ダチがいれば、俺は満足だからな。あっ、でも。んなこと言ったら、またシスターの婆ちゃんに怒られっかな?」
「わっ、私は……」
ヤチヨさんの友達ではない。そう言うつもりのはずだったのに出かかった言葉が喉の奥で止まった。なんだかその言葉を言うのがすごく嫌な気持ちがしていた。
「サロス、あのね。ヒナタちゃんは実は――」
「――昨日までは、ただのクラスメートでした。でも、今日からお友達です!!!!」
私はヤチヨさんの口から、そこから先の言葉を言う前に自分でも驚く位の大声でそう叫んでいた。
「はっ! 私、あの、その……」
急に恥ずかしくなる。こんなに大きな声で自分の意思を言葉にしたのは初めてだったから。
「ヒナタちゃ―ん!!!」
ヤチヨさんが、目を潤ませながら私に思いっきり抱き着いてきた。
「やっ、ヤチヨさん!?」
「ヒナタちゃーん。あたし、うれしいよー」
頬ずりをしてくる、ヤチヨさんは本当に嬉しそうで私は、なんだか少し照れ臭くなってしまった。
「あっ、流れ星」
また、彼女が指をさす。私もやっと流れ星の姿が見えた。
「ほんとだね」
「、、、? お祈りしなくて良いんですか?」
そう言った、私の方をヤチヨさんは向いた。
「うん。だって、もうお願い叶ったもん!!」
「お願い? 叶った?」
不思議そうに見つめる私を見て、ヤチヨさんは満面の笑みを浮かべた。
「生涯仲良くできる友達が欲しいってお願い!!」
生涯の友人。
そうか、私が本当に欲しかったもの……。
本の世界でしか手に入らないと思っていたもの。
「………」
「ヒナタちゃん?」
小さかった私の世界が広がった気がした。
その嬉しさからか私の瞳から涙が零れ落ちる。
「うわわ。ヒナタちゃん、どうしたの? どこか、痛いの? ねぇ、大丈夫!?」
その後、わたわたするサロス君とヤチヨちゃん。そして、どこか嬉しそうにほほ笑むフィリア君が見えた気がした。
彼は、あの頃から私の何かを見透かしていたような気がする。
私にとって幸せに溢れた日々が流れていく。
いつしか、時は流れ、流れて。
あの日がやってきた。
――続く――
作:小泉太良
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