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Seventh memory 04

「あの……」
「えっ……」
「あっ……いえ……そのっ……」

 ナールに声をかけたまでは良かったが、声をかけた張本人である少女はこの後、なんと話を続ければ良いのかわからずあたふたしている。

 河原の近くにある巨大な樹の下、その木陰が拡がる場所はいつもこの少女一人しかいない。この巨大な樹の下は自分だけの場所。その場所に今日は来客がいて驚いた。
 
 頭にタオルを乗せて、自分を見つめるその男の子の灰色の瞳。
 少女は自分でもわからないが吸いよせられるように近づいていた。

「あっ……」

 少女との距離が近づいたことで、ナールも気が動転し、乗せていたタオルを落としてしまう

「あっ……!?」
「あの、その、大丈ーー」
「……ちょっと待っててください」
「えっ!?」

 少女はそのタオルをそっと拾い上げると、河原の方へ向かって歩き出した。少女は丁寧に川の流れで水で汚れを落とし、ギュっと絞ったタオルを持って戻ってきた。

「どうぞ」
「……あ、えと……あ」

 ナールも普段、一緒に居る女の子達と違う雰囲気の少女にどぎまぎしてしまう。
 
 この日少女はいつも通り、一緒に住んでいるシスターにこの場所へ行くと伝え、独りで訪れていた。
 
 少女はナール達が訓練をしている場所から聞こえてきた声に興味を持ち、一度だけ訓練をしているその様子をこっそり覗いたことがあった。
 
 その時、彼らは木の棒でお互いを叩き合っていた。それを見て、少女は少し怖くなって、それからはもう2度と覗き見しにいくことはなかった。

 いつもの彼女だったらきっとこの木陰でその男の子を見た途端、怯えてその場を去っていただろう。普段は気丈に振る舞ってはいるが、少女の本質的な正確はとても臆病なはずだった。
 
 今日は何故か、その見覚えのある男の子に声をかけてしまった。
 
 彼女の心臓の音は、うるさいくらいにトクトクと高鳴っていた。
 それが何故なのかこの頃の彼女はわからなかったが、初めて会ったその瞬間から彼女はこの少年に特別な感情を抱いていた。

「あっ、ありがとうございます!!!」

 思った以上に大きな声で返事をしたナールはあまりにもいつもの自分と違う自分に内心驚いていた。
 そして少女は目の前の男の子が、時折、自分よりも臆病にさえ見えてしまったその光景に思わず、笑みをこぼした。

 男の子と……いや、そとそも知らない人とちゃんと話をした経験が少ない彼女にとって、ナールと話すことは、とても緊張することで……手も震えていた…はずだったのに。

 この出会いは後にナールにとって大切な存在になるアカネとの初めての出会いだった。

「ふふ、あの……良かったらどうぞ」
 
 そう言ってアカネは自身のバスケットからサンドイッチを取り出し、ナールへと手渡そうと差し出した。

「えっ?」

 突然のことに、ナールはサンドイッチとアカネの顔を交互に見てその場で固まっていた。

「その……作りすぎてしまったので……お裾分け……です」

 本当は全て自分のために持ってきたものだが、一人でこんなに食べると思われる事は年頃の少女であるアカネには恥ずかしく、小さな嘘をナールについた。

「あぁ、なるほど! じゃあ……お言葉に甘えて、いただき、ます」

 その理由に納得し、なんなら訓練後をした後で少し小腹が空いていた彼は素直にアカネからサンドイッチを受け取った。

「どうぞ、召し上がれ」
「…………」
「あの……どうでしょうか?」

 自分で食べるのだからと出来に関してこれまでは気にしたことがなかった。この日、初めて他人に食べさせたのだ。
 その感想は、少女にとってはとても気になってしまうものだった。

「うん! ボソボソしてるし、味はしないけど、食べられます!!」
「……」
「あっ……いや、その……」
「……」

 その発言で少女はナールをとても失礼な人だと思った。

 確かに、シスターに味見させる以外には食べさせたことはなく、シスターも苦笑いを浮かべてはいたし、自分でもお世辞にも美味しいとは思ってはいなかったが……そんなにはっきり言わなくても良いのではないかと少しアカネは腹が立っていた。

 そして、立ち上がりその場を去ろうとした。

「まっ、待ってください!!」

 そう言いながら、ナールはアカネの手をとった。

 その瞬間、アカネの顔は、リンゴのように真っ赤に染まった。
 
「えっ、あ……」
「えっ!?」
「手っ、てっ、離して!!」
「あっ、あぁ!! こっ、これは失礼しました!!」

 手を離した、途端、アカネはナールから少しだけ距離をとった。
 彼女の心臓はさっきよりも大きく激しく高鳴っていた。

 そんなアカネと同じく、ナールの顔も同じようにリンゴの果実のように赤く染まっている。

 アカネはその突然の行動に驚き、シスターの言葉を真似て取り繕った話し方すら忘れ、その場から逃げ出すことも出来ず、この状況からどうすれば良いのかわからなかった。
 
 顔が熱を帯びたようにとにかく熱く……握られた手をいつまでも降ろせずに、ただ、ナールの方を睨んでいた。

 そのさっきまでとは異なる、アカネのその様子を見てナールは何故か、心臓の音が大きく高鳴っていた。

 取り繕った姿のアカネではなく、その素の彼女の表情に彼は一瞬で恋に落ちていたのだった。



つづく

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