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Third memory 13(Yachiyo)

「ヤチヨ!!!」
 
 あぁ、本格的にあたしダメみたい……サロスの幻聴まで聞こえるなんて……。

 誰にも見つけられず、このまま——。

「ヤチヨ!! どこだ!! ヤチヨ!!!」
 
 ずっと聞きたかったあの頼もしい声が聞こえる。幻聴ではないことを耳に入るその声が教えてくれる。けれど、こんなに大きく張り上げるのはきっと久しぶりなんだろう。声が掠れているような気がする、それでも一人でいる怖さを吹き飛ばしてくれるような、そんな頼もしい声。

 祈りが、願いが届いたのかもしれない。本当にアカネさんがサロスを呼んでここに連れてきてくれたのかもしれない。

 だって、あたしがまさか今こんなところにいるなんて、誰も知らないはずだから。

「っつ、サロス!! ここだよ!! あたしここにいるよ!!」
 
 足の痛みを堪え、精一杯振り絞った大きな声でサロスの名を呼ぶ。
 
 聞こえて! 届いて! あたしの声!!!

「はぁはぁはぁ、、、ヤチヨ!! お前、なんでんなところにーー」
 
 サロスだ! サロスが来てくれた!! 穴の中から見上げると肩で息をしながら覗き込んできているサロスのシルエットが視界に入る。きゅっと唇を引き絞り、喜びを静かに噛みしめる。

「サロス! ヤチヨ、見つかったの!?」
 
 少し遠くの方から、フィリアの声も聞こえる。

 二人とも……探してくれてたんだ……嬉しいな……。

「穴の中に落ちたみたいだ! フィリア、ロープかなんか持ってきてくれ」
「穴に!? わかった!! すぐ戻るから!!!」

 フィリアの足音が段々遠ざかっていく。暗くて良く見えないけど、サロスが穴の中を覗き込んであたしの方を見ているような気がした。

「サロス、どうしてここがわかったの?」
「フィリアのやつが、さっきうちに来て、ヤチヨがいないって、探しに行こうって! 
「そう、だったんだ……」
「んで、なんとなく感覚的に誰かにこの辺りに呼ばれているような気がして……そしたらなんか穴に落ちてるし、ったく、何やってんだよ! みんなに心配かけて!!……って俺が言えたことじゃねぇか」

 そう言ってバツが悪そうに頭をポリポリしている気がした。

「ごめん、あたし………」

 ダメダメだなぁ、あたし。

 二人に心配ばかりかけさせて……情けない……。

「……いや、俺のせいか?」
「サロス?」
「俺がかあちゃんのこといつまでも引きずって、お前やフィリアに心配かけちまってたからーー」
「違うよ! サロスのせいじゃない! ただあたしがーー!!!」
「母ちゃんに、ヤチヨを守ってやれって言われてたのに……」
「えっ!?」

 アカネさんは、あたしだけじゃなく、サロスにも似たようなことを言っていた?

 あっ、そっか……アカネさんはいつかこんな日が来るかもって予測していたのかも……
 
 だとしたら、アカネさんはやっぱりすごいな……。

「痛っ!」
「ヤチヨ! お前、怪我してんのか?」
「ううん、平気、大丈夫。かすり傷、だから……っつ」
 
 さっきまで、我慢出来ていたズキズキとした痛みに表情が歪んだ。

 瞬間、サロスが勢いよく穴の中に飛び降りてきた。

「馬鹿! 何してんの!! サロスまで落ちちゃって―――」
「傷! 見せてみろ!!」
「だいじょう―――」
「いいから!!」
 
 サロスの勢いに負け、左足をサロスの方へと差し出す。

「お前、こんな状態でかすり傷なわけねぇだろ!! 色、変わってねぇか!?」
「えへへ。そうなの? 暗くてよく見えないし、あんま痛くなかったからわかんなかったなぁ。 えへへ……」
 
 そう言って、下唇を軽く前歯で軽く噛む。

 昔からの自分の癖を誤魔化すための、最近、覚えた対策法。

「……それで誤魔化したつもりか? 嘘ついてるってバレバレだぞ」
「……あはは、サロスにはわかっちゃうんだね」
「多分フィリアにもな。痛むのか?」
「うん、けっこう……」

 あたしの左足をサロスが優しく触わる、そんな少し触れただけなのに、痛みで少しだけ表情が歪んだ。

「そうか、フィリアが戻ってくるまで、我慢な」
「うん。驚くかな? フィリア」
「多分な。それに俺は、後で怒られるだろうよ。なんで、君まで落ちてるのさって? ってね」
「呆れた顔しながら、ね!」
「あぁ、変わんねぇな」
 
 そんな何気ない会話であたしたちは笑いあい、足の痛みもいつの間にか気にならなくなっていた。
 
 笑ったサロスの顔をちゃんと見たのは、いつぶりだろう……。

 アカネさんがいなくなった後のサロスは、いつも沈んで、悲しそうで、辛い顔ばかりだった。
 
 そんなサロスが今、あたしの前で笑ってくれている。記憶の中のサロスより少しだけ、成長した顔で笑顔を浮かべている。

「ヤチヨ! 無事か――? ……って、なんで、君まで落ちてるのさ?」
 
 助けに来たフィリアは呆れた顔でため息をついた。それをみて穴の中で顔を見合わせるようにサロスと笑いあった。


続く

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