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Second memory(Sarosu)05
翌朝、目覚めた俺が見たのは一枚の置手紙だけだった。
その日は雨が降っていた。土砂降りの雨――
――俺の世界は真っ暗になって太陽が差し込むことはなくなった。その日から俺は、何も感じられなくなった。
悲しいとか嬉しいとかそういうの含めて全部真っ暗な闇に生まれては沈んでいく。
俺の心は完全に死んでしまったようだ。
毎日が白黒にしか見えなくなっていった。泣くことすらなかった。
俺がそんな状態になっている間に、ヤチヨはどうやら元の家に帰ったらしい。
自分の部屋に閉じこもり続けた。何もすることがない。何もする気になれない。シスターが俺を心配しているようだった。悪いとは思いつつも扉を開ける気にはならなかった。
疲れてもいないのに、眠りにつく。夢の中では母ちゃんがいた。
俺の大好きな太陽みたいな笑顔を浮かべる母ちゃんがそこにはいた。
でも、夢の終わりはいつもあの最後に見た優しい笑顔を浮かべて、闇に消えていくそんな終わりだった。
そんな、悪夢のようなものでも良いと思えた。母ちゃんに会えるなら、もう何でも良いとさえ思っていた。
『ヤチヨを守ってやるんだよ』
ゴメン、母ちゃん。こんな俺じゃあヤチヨを守ることなんてできねぇよ。俺は、誰かを守れるような強い奴じゃねぇ。 俺は、誰よりも弱くて、泣き虫だ。
そんな日々がもうどのくらい続いたのかわからない。ある日、俺の部屋の扉を叩く音を聞く。シスターか? いや、さっき来たばかりだ。こんな、俺のために夕食を届けに……。ほとんど手をつけることなどないのに毎日毎日。ごめんな。シスター……。
でも、じゃあいったい、誰が訪ねて来ったってんだ?
「サロス? 久しぶり元気?」
耳を疑った。
この声は、少し大人びてはいるがヤチヨの声だ。もう、ずいぶん聞いていなかったヤチヨの声だ。返事をしようとする、けれどもう長い間、声を出していないせいか中々言葉にならない。
「ちゃんとご飯食べてる? たまには顔見せてよ。あたしも、フィリアもサロスがいないとつまらないんだからさ」
良かった。元気そうで。フィリアも元気なのか……。あいつの顔もずいぶんと見てないが変わらず泣き虫なんだろうか? 俺がいなくていじめられてたりなんかしないだろうか――
――バカバカしい。今の俺はきっとフィリアよりも弱い。そんなやつが何の心配しているんだか。
ヤチヨの声が聞こえなくなった。さっきまで何でもないようなことをひたすら話していたのに。こんな俺を見て呆れて帰っちま――。
「ねぇ、サロス!! 今日まで、会いに来なくてごめんね。 サロスが苦しんでいるときにひとりぼっちにしてごめんね。 でもね、アカネさんがいなくなって辛いのはサロスだけじゃないんだよ!! シスターもあたしもつらいんだよ!! でも、アカネさんはもう戻ってこないんだよ!! いつまで、そうやってメソメソしてるつもりなの!! ねぇ!!サロス!!! そんなので、アカネさんは喜ぶの!?」
ヤチヨが泣いてる。
あー。俺って本当にダメなやつだな。ヤチヨを泣かして……。
わかってる、わかってんだよ……。母ちゃんはもう帰ってこない、それに、辛いのは俺だけじゃない。シスターやあの兄ちゃんだって、、。ヤチヨだって辛いことぐらい……。
「いい加減にしろよ!! サロス!!前に、僕に言ったよね? ヤチヨは、僕たちで守ろうって。ヤチヨは本当は泣き虫だから、僕たちでずっと笑顔にさせてやろうって!!」
うるせぇ……。その時のバカみたいに笑ってる自分の顔が頭によぎって、腹が立った。
「サロス、聞こえているんだろ? ヤチヨは、ヤチヨは今泣いているんだ!! 君のせいで、泣いているんだ!! それでいいのか!! 君は!!!」
わかってるよ……。お前に言われなくったって、そんなことは……。
「あー。そうか、君は、そんなやつだったんだね。見損なったよ……。最低だよ! 君は!!」
あぁ、そうさ。俺は、最低なやつだ……だから、ヤチヨを連れてさっさと消えてくれ。お前がヤチヨを守ってくれ。
「君のあの時の言葉は、ヤチヨを本当に心配して僕と約束したあの言葉は全部、全部、そんな簡単になかったことにできるぐらい君にとっては大切なものではなかったんだね!! 君は、ヤチヨのことを!!!!」
「うるさい!!!」
言葉にはなった……でも、それは本当に言いたかった言葉じゃなかった。
続く
作:小泉太良
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