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Second memory(Sarosu)04
ヤチヨが泣きながら、母ちゃんの部屋を出て行った。
俺はゆっくりと部屋に足を踏み入れた。
窓から月明かりが差し込んでいて、久しぶりにみた母ちゃんの姿は月明かりよりも儚く、本当に消えてしまいそうだった。
「母ちゃん!!!」
俺は、思わず扉の前から駆け出し。ベッドにいる母ちゃんに抱き着いた。
「サロス?どうしたのこんな夜中に、眠れ――」
「行くなよ!! 母ちゃん!!」
「……サロス、聞いて」
「嫌だ!! 聞きたくない!! 行かないでくれよ!! 母ちゃん!!」
「ごめんね。サロス、あたしは――」
「行くなって言ってんだろ!! 母ちゃんの馬鹿!!」
言ってハッとして、朧げにしか見えない母ちゃんの顔を見た。母ちゃんはとても悲しい顔をしているように見えた。
「お、おれ……俺っ、そんな……つもりじゃ……」
母ちゃんは、俺のことをそっと抱きしめた。
いや、そんな気がしたんだ……本当に微かに感じる母ちゃんの温もり。
大好きな、匂い。
「サロス、あんたは一人じゃない。 シスターも……今はヤチヨちゃんもいる。だから」
「嫌だ!! 嫌だ嫌だ嫌だ!! 母ちゃんがいなくなるなんて絶対嫌だ!!」
ヤチヨが見ていたら、きっと笑われるくらいに駄々をこねる。
こんなこと久しぶりすぎて自分でも驚いていた。
「あんたは……本当に生意気で、憎たらしくて、でも、可愛くて、愛おしかった。子供は作れないって覚悟してたあたしに突然降ってきた小さな天使みたいな子だったよあんたは」
「母ちゃん」
「本当に苦労したよ。親の愛なんてあたしは知らなかったし、シスターにもたくさん手間をかけさせた。でも、そんなことどうでも良くなるぐらいあんたはあたしに幸せな時間をくれたよ。母としての喜びを、あたしが経験することができなかったはずの喜びをたくさんくれた。本当にありがとうね。サロス」
母ちゃんは、泣いていた。
でも、俺も泣いていたから顔をみることはできなかった。
なんとなくわかっていた……今日が母ちゃんの顔を見られる最後の日だって。確信なんてどこにもなかったけど、そう思えてならなかった。それでも、どうしても顔を見ることが出来なかった。
「アハハ、あたしらきっとお互い酷い顔だろうからそのまま聞いてね、サロス」
「……」
「ヤチヨは、強いように見えて本当はとても弱い子。誰かの助けがなきゃ生きていけない子。だから、サロス。あんたは、何があってもヤチヨのそばにいてやんな。そばで、あの子を守ってあげるんだよ」
「……あぁ。わかったよ。母ちゃん。」
「良かった。本当は、あんたたちの成長をもっと近くで見ていたかった。これからもっと大きくなって学院なんかにも通うのかな? そんで、卒業して大きくなって二人とも結婚なんかしてさ、孫とかも見たかったな」
「……」
「あっ、もしかしたらあんたら二人が結婚するのかもなぁ。そしたら、賑やかだろうね……。シスターと一緒にあたしもニコニコしながらさ……。本当、そんな未来もあったかも知れないんだもんね……。悔しいなぁ。それが見られないなんてさ」
「母ちゃん……」
「サロス、あたし行きたくないよ。あんたたちから離れてまで行きたい場所なんてない。あたしはずっとここにいたい。あんたたちと過ごしていたいよ!! サロス、サロス!!」
母ちゃんの温もりが、突然はっきりと感じられるようになった。
姿が、昔みたいにはっきりと見えてくる。母ちゃんの顔がちゃんと見れる。
俺は涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔で目を見開いた。
「ハハっ。サロス、あんたやっぱ今ひどい顔してるよ」
「母ちゃんだって、鼻水まで垂らしてきったねぇの!!」
「アハハ、言ったな。こいつー」
「言ってやったぜ! ハハハ」
俺と母ちゃんは、泣きながら笑っていた。それは、俺がずっと見たかった昔みたいな太陽みたいな母ちゃんの笑顔だった。
ずっと、見たかった。
もっとずっとずっとこれからも見ていたかった笑顔だった。
「母ちゃん」
「ん、何?」
「俺、母ちゃんの子で良かった……」
「サロス」
「……俺、母ちゃんの子で幸せだ……」
「……馬鹿、あたしだってあんたの母ちゃんで良かったよ。幸せだったよ。ありがとねサロス」
「うわあああああんんん!!!」
俺は、思いっきり泣き叫んで母ちゃんに強く抱き着いた。やがて、俺はその母ちゃんの温もりの中で疲れて眠ってしまった。
微睡む意識の中、優しい声が小さく響く
「おやすみ、サロス。あたしの一番大事な宝物」
頬に何か暖かいものが落ち……そして……冷たく消えていった。
続く
作:小泉太良
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