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Fourth memory 06
「わっ、わかりました! あの、僕は外にいるのでお二人ともごゆっくりーー」
「待って! ソフィ!! 一人にしないで!! 今のヒナタは、なんか怖いの!!」
出て行こうとするソフィの袖口を思わず思いっきり掴んだ。
今の恰好を見られるという羞恥心より、後ろから感じている、言いようのない視線、その恐怖が打ち勝った瞬間だった。
「ヤチヨ?」
「ひっ!?」
いつもの優しい声で、ヒナタがあたしの名前を呼ぶ。
あたしはこの声を知っている。
遥か昔、まだ、子供の頃にママに怒られた時に、経験をしている。
そう、静かな空気ですごく怒られる時の声だ。
「いつまでも、心配かけるような悪い子には、お仕置きが必要よね?」
ヒナタがゆっくりとあたしと距離を詰めてくる。
後ろから、右肩に手が置かれ、怖すぎて振り返ることができず、歯がカタカタと震えた。
「ひっ、ヒナタ! ごっ、ごめんなさい!! もももう、心配かけさせないから!!」
数秒の沈黙の後、ヒナタが笑顔でゆっくりと口を開く。
「……だーめ」
現実は非情であった。あたしの渾身の願いは届かず。
同時に、どうして今、この格好なのかという最大の理由をあたしは理解することになった。
「やっぱり、悪い子にはこれよね」
「いっ、いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
こうして、あたしはお仕置きという名目で、子供の頃以来となるお尻への平手打ちを受けることになった。
その小さなモミジの葉っぱのような跡が出来るほどの痛み。
小さいころに受けたものと変わらないほど、痛く。
あたしは年甲斐もなく、大粒の涙を零しながら、泣き叫んだ。
「……あんなヒナタさん初めて見たけど……相当、怒ってた、なぁ……」
「……それで、何があったの? たっーぷりと時間はあるからゆっくり聞いてあげるわ」
「その言葉、もう少し早く聞きたかったなぁ……」
ヒリヒリと未だに痛む、お尻を擦りつつ、あたしは、座ってコーヒーを飲んで一息ついているヒナタに一つ文句をこぼす。
まさか、この年になってお尻ペンペンを受けることになるなんて考えもしなかった。
ひとまず、着替える許可をもらったあたしはいつもの普段着になり、座ると痛いので立っている状態でヒナタとソフィにさっきあったことを説明をし始めることにした。
「信じてもらえないと思うけど……」
「良いから、言って」
言い淀んでいたが、どうやら言うしかないようだ。
ヒナタの真剣な表情を見て、あたしはそう確信した。
ちらりとソフィの方を見るが、すっかり萎縮してしまっている。頼ることはできないだろう
あたしは、はぁっと一つため息をつき、ゆっくりと口を開いた。
「……声を聞いたの」
「声、ですか?」
「誰の声を聞いたの?」
ヒナタが、あたしの目を真っすぐ見つめたまま、真剣な表情を崩す姿勢は見えない。
こんなにヒナタを怖く感じたのは初めてかも知れない。
喉が異様に乾いた。
ヒナタ相手に、あたしはとんでもなく緊張しているのだと感じた。
でも、今は、とにかく話をするしかないようだ。
「それが……最初はわからなかったんだけど、体がどんどん声のする方に向かって行って……そしたら、急に足場が崩れて……気づいたら、大きな空洞にいたの」
「空洞、ですか? 天蓋にまだそんな場所があったなんて……文献や、報告書にはそんなこと一切記載はなかったのに」
ソフィが難しい表情を浮かべて何かを考え始めてしまった。
長く、あの場所にいたあたしですら、知らない場所がまだあるなんて、考えもしなかった。
とは言っても、あのローブの人たちに連れて行かれた道中しかあたしも実際、天蓋の中をしらないんだけど……。
「でも、この後に及んでヤチヨが嘘を言うとは考えられないわ」
ヒナタの表情が少しだけ和らぐ。
どうやら、話を信じてくれたようでほっと胸を撫でおろす。
喉が渇いていたから目の前のカップを手に取り、朝の飲み残しのコーヒーをごくごくと喉を鳴らしながら飲む。
苦い……しかも、冷えてしまっていて、味も香りもだいぶ朝よりも落ちている。
ただ、今のカラカラに乾いた喉には砂漠の中で見つけたオアシスの水のようにありがたく、美味しく感じた。
「……もう一度、詳しく調べる必要がありそうですね。天蓋の内部を」
「そうね。ヤチヨ続けて」
飲んでいる途中のコーヒーが変なところに入り。軽く咳込む。
ヒナタはそれを見ると、すばやくコップに水を一杯組んで手渡してくれた。
あたしは、それを一気に飲み干す。
……前言撤回。この水のほうが数億倍美味しい。
続く
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