164 遠征初交流パーティ
交流模擬戦が終わった後、生徒達は宿舎に戻り普段はほとんど使われることがないという大広間にてパーティを開いていた。
東部の生徒の中に日頃から学食への出店者が多かったため、エナリアの計らいで西部の生徒を招待するような形で食事などを振舞い、ここまでの遠征活動を労う。
これまで東西遠征時にこのような親睦の交流が行われたという記録はない。
遠征の直前には必ず両学園の生徒達の心に禍根をこれまで生んできたイウェストが今期、学園の歴史上初めて開催されなかった。
この異例の出来事があったことで、この時期の東西の生徒の心象に大きな変化をもたらしている事は明白だった。
将来的には同じ国を守る者となるはずの東西の生徒。
勿論その中には騎士の道を自ら断念したり、能力が届かない者達も今後に多く出てくるだろう。
それでも本来は同じ国に住まい、良き隣人となることさえある者達のはずであり、この光景は至極当たり前の国内の光景だとも言えた。
ただ、騎士を目指すという道を敷く為に特殊なルールの上で自治を認められているこの学園の法の中で過ごすうちに多くの生徒が忘れてしまっている
。
人と人の関りはいつも不完全なもので、一つ一つの出会いは良い事も悪い事も表裏一体であり、それらの良い事や悪い事というものは起きている事象そのものではなく、受け取る者の意思や状況によっても変わってしまう。
そこに保証された未来などは存在しない。
うつろいゆく人々の営みは、いくつもの縁を結びながら遥か昔から脈々と繋がれてきた。
昔も、今も、これからも。
ただ、今この時間だけは違いに同じ国に住む同じ年代の者達として、ただただ笑顔で言葉を交わしている。それだけの時間。
しかし
これは小さな変化。
今はまだ小さな変化。
これまでと異なるその出来事がこれから先にどんな影響を与えるのか。
誰も今は知ることは出来ずにいる。
「スカーレット、お前はどうやってそこまでの強さを手に入れたんだ?」
「どうやって? ふむ、基盤となっているのはおそらく実家の畑仕事の手伝いだろうか」
「ほぉ、お前は農家の出身なのか」
「問題があるか?」
「いや、騎士を目指すというには面白い出身だと思っただけさ」
「そう言うお前は……」
フェリシアに気に入られたスカーレットがその急に縮められた距離感に戸惑いながら話をしていた。
その側ではこの地域の遠征を率いる二人が飲み物を片手に窓際で言葉を交わす。
「つまりヒボンさんはゆくゆくは西部の生徒会の座を狙っておいでということですの?」
「え、あれ? ここまでの接点だけで、そこまでわかってしまうものでしょうか? そういうの察せないように立ち回っていたつもりなんですけど」
「ふふ、分かりますわよ。貴方、根回しの仕方がとても私と似ていますもの」
「あ、いやぁ、エナリアさんと似ているとは恐れ多い事です。はは、この事はどうかここだけの話ということでご内密に願います。まだ彼女達に挑むには準備不足なもので」
頭をぽりぽりとしながらヒボンは表情も隠せずに参ったなという様子が見て取れる。軽く笑っていたエナリアだが、キュッと表情を引き締めた。
「でも、きっとティルスはもう気付いておりますわよ」
ヒボンもその空気を察して、二人の間には張り詰めたモノが滲む。
「やっぱり、そう思います?」
「ええ」
「ですよねぇ、、、けど、それなら寧ろ好都合ではある、か」
「手ごわいと思いますわよ。彼女は」
「承知の上です。とはいえ折角なので、エナリアさんが生徒会を奪取した際の話を聞かせていただいても? 今後の参考にさせていただきます」
その他の東西の生徒達もそれぞれ交流をして過ごしており、大広間には穏やかな空気が流れている。
そんな中で特にピリピリしている空気を一人醸し出している人物に詰め寄られて、リリアは青ざめた顔で壁際に追い詰められていた。
「ねぇ、あなた」
「ヒィィ、は、はいィィ? 私に何かご用でしょうかァァ」
リリアに声を掛けてきたのは交流模擬戦の時に反対側でシュレイドを応援していた一人の女生徒だった。
身体をガクガク震わせながら懸命に返事をする。傍から見るとカツアゲされているようにさえ見える。
「貴女、名前は?」
「ええと、リリア、です」
「私はサリィ」
「あ、はい。サリィ、さん」
ジッとリリアの目を見つめるサリィは、微かに首を傾げた。何か腑に落ちないような顔で眉間に皺を寄せている。
彼女は髪の色だけでなく、目の色まで自分と同じような青い色をしているがリリアよりもその目は透き通る宝石のような目だった。そんな目に吸い込まれるように見つめ返すと彼女は一言リリアへ問う。
「貴方のあの力、なに?」
「あの力?」
突然降られた話題にリリアは首を傾げている。彼女が言う『あの力』というものに全く心当たりが無い。
「もしかして、気付いて、いないの?」
そういうと彼女は何か思案し、俯いてポソポソ何かを呟いている。
「あなた、もう歌は歌わない方がいいかもしれないわ」
「えっ」
サリィの言葉にリリアも同様の色を見せる。
「あ、ごめん。言い方が悪かったわ。普通の歌は歌ってもいいと思う」
「普通の歌?」
ますます訳が分からなくなる。彼女の話が全く見えてこない。歌って良いのか悪いのか一体どちらなのだろう? と
「貴方のあの歌の力は危険な色をしてるわ。見てたでしょ? 限界を超えてるように戦ってたあの恋人の事」
次の瞬間、見つめ合うリリアとサリィの間に沈黙が流れていく。
「ん?」
「ん?」
次の瞬間にはリリアの顔が真っ赤に燃えるように染まり、首と手をブンブン全力で振り壊れたブリキのおもちゃのようになった。
「ここ、こっここここ、こいびとぉ!?」
「あんな必死になって『不思議な力』使ってまで応援しちゃってさ、付き合ってんのバレバレじゃん、うらやま」
サリィはほっぺをプクーっと膨らませてツンツンした表情で睨みつけてくる。そんな顔すらも様になるほどの目の前の美少女にリリアは恥ずかしそうに小さく囁く。
「いや、その、恋人じゃ、ない、です」
それを聞いたサリィが硬直して微動だにせずに空中を仰ぎ見ていた。言葉の理解に数瞬の遅れを持って返答する。
「はい?」
「はは」
リリアの様子にようやく理解が追い付き、目を真ん丸に見開いてサリィは叫んだ。
「じゃぁ片思いなの!!?? んじゃ、あたしと一緒じゃん!! てゆーかあれで付き合ってないとかマジ!?」
「あわわ、サリィさん声がおっきい、おっきいってばぁ」
先ほどとは一転して友好的にニンマリとした表情をする相手に混乱するリリアはもうどうしていいか分からなくなっていた。
その二人の周囲で聞き耳を立てて反応している生徒達が数名居た事をこの時は誰も気付きようがなく、その情報が知らず知らずのうちに本人の意思とは無関係に、自動的にリリア親衛隊と呼ばれる者達の中へ秘密裏に共有されていく事となるのだった。
『リリアには今、恋人はいない』
ただ何故か「片思い」という単語にまつわる話題だけが消え去り、親衛隊の上層部の女生徒がリリアの為にその情報だけは秘匿したのだった。
つづく
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