First memory(Hinata)02
――――どうしてだろう。
私は、次の日の放課後。いつも通り資料室の扉の前にいた。
今日は、真っすぐ帰って家の本を読もう。そう昨日は決めたはずだったのに。不思議と足は、資料室の方へ向かっていたらしい。
『また、明日ね』
昨日の彼女の言葉がリフレインする。私は、何を期待しているのだろう。彼女が、今日もここにいる保証なんてどこにもないのに。私は、静かに資料室の扉を開けた。
瞬間、資料室に風が吹いた。自然と目線は彼女を探していた。
誰もいるはずない……。
わかってたことじゃない。と、自分に言い聞かせる。昨日のあれは彼女の気まぐれ。本気で、私と友達になろうなんて人いるはずがない。
何故だろう。どうして、こんな気持ちになったのだろう。一人でいることなんてもう慣れていたはずなのに。
もう、いいや。気を取り直して今日もまたここで本を読んで帰ろう。いつもと何も変わらない。いつも通り。
資料室の中に入り。少し、奥に進んだいつもの場所に向かう。今日こそゆっくりと本が読める。そう思っていつもの場所に目をやると――――
――――そこに彼女はいた。
気持ちよさそうに、寝息を立てている彼女の横には私が今読んでいる本の一番最初のシリーズが積み重なっていた。
本と一緒にメモ帳が開かれていたのが目に入る。悪いとは思いつつもそのメモ帳を見ると、そこにはびっしりとこの本についてのことが書かれていた。
そして、同時に私に聞きたいことも大きく丸で囲って書かれていた。
私の心とこの場所に一陣の風が吹き込んでくる。本が勢いよくバラバラと捲れる音がする。
「んっ、むにゃ。ヒナタちゃん?」
寝ぼけ眼をこすり、彼女が目を覚ました。そういえば、午後の昼休みから彼女の姿を見ていなかった気がする。
「こんなところで寝ていたら、風邪を引いてしまいますよ」
「えへへ。あたし、寝ちゃってたんだ」
はにかんで笑う彼女の笑顔がとてもかわいらしくて、思わず顔を赤らめてしまった。
「ずっと、ここにいたんですか?」
「ヒナタちゃんに色々聞こうと思って読んでたら、急に眠くなっちゃって。もう、放課後かぁ。あ、サロスたちは先、帰っててくれてるかなぁ?」
彼女の口から出た名前――当たり前じゃない。私と違って、彼女には他に友達がいるんだから。
なのに、私はそのことがなんだか少し寂しく感じられた。
「お友達を待たせているのなら、早く帰った方が良いんじゃない?」
いつもの調子を取り戻した私は、少し棘を含んだ言い方で彼女を突き放した。そう、これでいいんだ。私は、こうしてまた本の世界に戻れる。
「ねぇ! ヒナタちゃんってすごいんだね!!」
彼女は、そう言って目をキラキラと輝かせていた。私の言葉が聞こえていなかったのだろうか……。
「……すごいって?何?」
「だって、あたし。さーっぱりわかんなかったもん!! この本!!」
彼女は、そう言うと誇らしげに自分が読んでいた本を見せつけてきた。
「ヒナタちゃんは、この本の続編? みたいなの昨日読んでたじゃない? ってことは、この小難しい本を全部読んじゃったってことでしょ?」
「まぁ、そうですけど……」
「すごい!! すごいよ!!! ヒナタちゃん!!!」
彼女は、そう言いながら小さくぴょんぴょんと飛び跳ねていた。
「あなた、昨日もそうだったけど。ここは資料室よ!! 暴れないで」
「ごっ、ゴメン、なさい」
しゅんと落ち込む彼女は、本当に私と同い年なのか疑ってしまうほどに小さく幼く見えた。
「だいたい、あなたがこの本を読んでもおもしろいわけないでしょ。これは、この地域の歴史についての文献をまとめたものを物語にしてるものなんだから」
こんな本を読む物好きを私は、自分以外知らない。私ですら、この資料室の本をほとんど読んでしまって読むものがほとんどなくなってしまったから仕方なく読んでいるような代物なのだから。
「うん。面白くなかった」
彼女は、しゅんとしたまま人差し指をつんつんと合わせて呟いた。
「でも、ヒナタちゃんが読んでたものを少しだけわかることができて、うれしかった!!」
彼女はそう言って満面の笑みを浮かべた。
――続く――
作:小泉太良
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