「ですが」について
早押しクイズというのは、テレビのバラエティ番組などに重宝される。また、コントの題材としても使われることが多い。
よく目にするのは、クイズを出して、相手が答えて、「・・・ですが!」と言って笑いを取るシーンだ。「ひっかけ問題じゃねーか!」みたいなツッコミがなされる、あのパターンだ。
あくまでもクイズ作家歴25年になる僕の主観的な考えではあるが、早押しクイズにおける「Aはaですが、Bは何でしょう?(答え:b)」という構文における「ですが」は、決して「ひっかけ」ではないのだ。
(ちなみに、この構文のことを、こっちの世界では「複合並立型」とか「パラレル問題」とか「ですが問題」などと呼ぶ)。
僕は、早押しクイズの「ですが」の大きな役割は、①「早押しクイズにおける助走部分」であり、②「解答者・視聴者のためのガイド」だと思っている。
①については、派生的に③「問題全体のリズムを整える」というのもあるだろう。やはり耳で聞いて気持ちいいのが、クイズ問題の醍醐味のひとつなのだ。
たとえば「Q.東ヨーロッパの国で、ルーマニアの首都はブカレストですが、ハンガリーの首都はどこでしょう?」という問題。正解は「ブダペスト」だ。
出題者はこう思っている。
・・・いいですか、東欧の国についての問題を出しますよ、ジャンルは地理ですよ、「首都」という言葉が出てきましたね。つまりは国名を言いますから、その国の首都を答えてくださいね。さあ、ルーマニア以外の国について聞きますよ、ブルガリアかな? ポーランドかな? まさかのアルバニアだったりして!(笑) そろそろ言いますよ、問題の核心に迫りますよ、『ハンガリー』。さあ、「ハンガリーの首都」がお分かりの方はボタンを押してください!
このように思いながら、出題ナレーターは問題を読み上げているのである(わけねーだろ)。とは言うものの、上に書いたのは、問題作成者の「心の声」として、それほどズレたものではない。
問題の冒頭でジャンルを示唆することにより、①「助走」②「ガイド」の役割を果たしている。「ブダペスト」と「ブカレスト」と語感が似ているのも③「リズム」や、④「クイズ問題に遊び心を加える」という理由に適っている。
「Q.俗に、『百獣の王』といえばライオン、では『百薬の長』といえば何のことでしょう?」という問題。正解は「酒」である。
問題の頭の「俗に」は無くてもいい部分ではあるが、あったほうが①「助走」と②「ガイド」の役割が強まることが分かるであろう。「生活感のある言い回しや風習についての問題ですよ」というメッセージを「ぞくに」の3文字で伝えているのである。そして「百獣の王」という誰もが知っているフレーズが、クイズ問題の「つかみ」になっている。そして「百〇の〇」という共通点で、③「リズム」を生み出している。
もちろん「Q.中国の書物『漢書』を出典とする言葉で、適度なお酒は体に良いということを『酒は(何)の長』というでしょう?」といった問題でも成立はしているが、もしもより大衆的で分かりやすく簡潔な文体にしたければ、「ライオン」から本題に入るほうが、親しみやすさが増すという点で「いい問題」といえるだろう(もちろんケースバイケースではあるが)。
またこの問題の場合、⑤「先読みのスリルを味わわせる」というのもある。
「Q.俗に、『百獣の王』といえばライオンですが、『百花の王』といえばどんな花のことでしょう?」(正解は「ボタン(牡丹)」)
に展開する可能性もあるからだ。これは日本一決定戦のようなクイズの手練れを迷わせるという点で有効だと思う。ただ、上の「牡丹」の問題は「ひゃっかのおう」の読みが変換しづらいという点で、いまいちと言えなくもない。このあたり、『アメリカ横断ウルトラクイズ』の福留さんであれば「百花、百の花ね、百花の王と呼ばれた植物といえば何だ?さー来い!」と上手く口語を織り交ぜて読まれるであろう。クイズ問題の読み方論はまた別の機会に。
閑話休題、「クイズの手練れ」の話が出てきた。ここで⑥「先読みの凄さを魅せる」というのが、90年代あたりから出てくるのである。
Q.左右に分けられる漢字で、左の部分は「へん」といいますが、右の部分は何というでしょう?(正解は「つくり」)
一般のポイントとしては「右の部分」だと思うが、クイズに強ければ「左」あたりで押せることがお分かりだと思う。さらに、2000年前後に登場した競技クイズと呼ばれる分野においては「左右に分け」あたりで「つくり」を導く解答者がいても不思議ではなく、全く驚かない(いや、一般の方々は驚かれるだろう、まさしく僕のアタック最終回における「車へん」みたいに。←言わなくていいだろ)。なぜなら、この問題文自体が古典的で完成されており、フォーマットが決まっているからなのである。それゆえ、このフォーマットを丸ごと押さえておけば、問題文の出だしで全文を引っ張りだし、正解の「つくり」へと辿り着くことができる、という寸法である。
余談ではあるが、⑦「本当の意味でひっかける」というのもある。
次の問題は、僕が高校生のとき、『史上最強のクイズ王決定戦LIVE』という番組で出された問題だ。
Q.横浜市があるのは神奈川県、横須賀市があるのも神奈川県ですが、かまくらで有名な横手市があるのは何県でしょう?(正解:秋田県)
クイズ王であればあるほど、「ですが」の直後で押す。そこに待ち構えているのは「かまくら」。そう、鎌倉市だと思うと「神奈川県」と答えてしまうのだ。ところが問題は「横手市」である。ちゃんと「横なんとか市」で統一されているので、問題のセオリーにも適っている。この問題を作成されたのはクイズ王の道蔦さんだと記憶しているが、流石だと思う。ただ、放送では「横浜市があるのは」で押されてしまい、「長崎県(横浜町のある県)」と誤答されてしまったのが残念ではあったが・・・。
そんなわけで、「ですが」に関する考察。いろいろ書いてきたが、僕はやはり③「リズム」がよく④「遊び心」がある問題が好きだ。
Q.詩を読むのは朗読ですが、和歌を詠むことは何というでしょう?(正解:朗詠)
こういう短くて、粋な問題文。タイムショックなら「詩を読むのが朗読なら、和歌を詠むのは?」と2秒で読める。
Q.大正時代に起こった民主主義の気運は大正デモクラシー。では、身近なことはかえってわからないというとき使う言葉は何?(正解:灯台下暗し)
これはクイズ王・長戸勇人さんの著書『クイズは創造力〈理論篇〉』に載っている問題で、中学生の僕は読んで爆笑したのを思い出す。
大先輩のクイズ王・小山鎮男さんは、クイズのことを「知恵の小咄、知識の俳句」と表現された。まだまだ可能性はありそうだ。後世に残るようなクイズ問題を今後も考えていきたいと思う、今日この頃・・・ですが、なぜこんなにも長い文章を書いたのでしょう?(正解:「新しいパソコンを買ったから」)