アタック25 最後の挑戦その4
というわけで、何か月ぶりでしょうか、みんなが忘れてきた頃に続きです。
ていうか、noteを書くのを躊躇っているうちに・・
・・・アタック、復活してしまいました(^▽^;)
今回はリハーサル~最終予選(準決勝)のもようです。
早押しクイズの実践編、というか心構え(心の中の声)みたいなものも、できるだけ再現していきます。では、どうぞ!
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9月17日の収録日に向けて、僕は前日には大阪入りしていた。ホテルに入ってやることは、とにかくノートに書いたことの復習。つまり「自分が答えられなかった問題」「時事問題」「日付問題」「1975年問題」のうち、『これはきっと本番で出るにちがいないリスト』をひたすら眺めること。新しい問題集に手を出せば、絶対に知らなかったことばかりが目について、焦ってしまって、良いことなど何もない。これは大学受験などの前日にもいえることだろう。
「復習に徹する」、または「今ままでこれだけやってきたのだから大丈夫!と自分に暗示をかけまくる」、この2つを僕はオススメする。
午前1時に就寝。
起きたのは午前3時。一瞬、寝過ごしたのかと思って、血の気が引いた。(午後3時だったら、もう決勝くらいの時間帯だ)
二度寝に失敗したため、朝まで何ともいえない長い時間を過ごす。
ホテルからタクシーに乗り、早めに朝日放送についた。
9月17日(金)。後に生涯忘れえぬ一日となるこの日は、雨だった。
流石に僕が一番乗りだろう、と思ってロビーに着くと、関東のクイズ女王・石野まゆみさんが先に着いておられた。流石だ。
・・・というか、やはり勝ち抜いておられた(我々は、誰が面接を勝ち抜いているのか知らされていないのだ)。
石野さんは平静を装っておられるが、相当の気合が入っているのだろう。僕に「いつもより早めに来ちゃって。なに? 優勝狙ってるの??」と仰った。いやいや、そのお言葉を、そっくりそのままお返しします(笑)
現在勝ち残っているのは、東日本6人、西日本6人の計12人。
アタック史上、最も難易度の高かった筆記試験に挑んだのが約300人。
それを勝ち抜いて面接試験に進んだのが40人。
その面接を勝ち抜いたのが、今日争う12人だ。
その12人が東西各地から、続々と朝日放送に入ってくる。予想通りの方もいれば、現地でビックリ仰天の方もいる。
僕が少年時代に憧れていた王・長嶋レベルの方々も続々と。
そしてクイズ番組の時代に恵まれなかった同世代のみんな。
さらにはこれからのクイズ界を担っていく若き実力者たち。
『アタック25』という番組は、早押しクイズが主体だ。特に、チャンピオン決定戦の今日は、シンプルな早押しクイズのラウンドがある。普段から早押しクイズで研鑽を積んでいる若手(20~30代)の実力者が一番怖かった。
12人が全員集まったところで、控室に通された。
この番組の構成を長く務めていらっしゃる、放送作家の高見孔二さんがお話しをしてくださる。
「皆さん、おはようございます。遠くからお越しの方、ありがとうございます。それにしても懐かしい顔がいっぱいやなぁ(笑)。えー、皆さんご存じの通り、今日でアタック25はおしまいです。でも最後やからいうて、湿っぽくは終わらしたくありません。『こんなオモロい番組、なんで終わらすねん!」いう声が届くような、そんな感じの最終回にしたいです。だから、今日は、お祭りです。最終回ではなく、お祭り。今回は、絶対に番組をオモロくしてくれるベストの12人を選んだつもりです。くれぐれも、最後に「鐘」なんか鳴らさんといてな(笑)」
※鐘……「ウエストミンスターの鐘」のこと。アタック25では、(誤答・スルーの問題が多いなどして)問題が無くなってしまうと、残りパネルが何枚余っていようが「時間切れ」として「キーンコーンカーンコーン…」と鐘が鳴る。その回の勝者は、たとえば残り2枚を残して鐘を鳴らしてしまった場合、『アタック23』の勝者などと揶揄される。
いつもの「高見節」だったが、「お祭り」という言葉に心が安らいだ。
ここで、我々にとって、番組側からのサプライズ。今回勝ち残った12人に対して、キャッチフレーズを付けていただいたとのこと。筆記試験の後の取材で聞いたところによると、フロアディレクターの方は「M-1グランプリ」の大ファンとのこと。やったー。オンエアの編集もそんな感じになってくれていたら嬉しい。
東日本の1番手は僕。キャッチフレーズは「クイズの伝道師」ということだった。ありがとうございます。謹んで邁進いたします。
このあと、予選最終ブロックを戦う東日本6名は以下のとおり(年齢は当時。敬称略。順番は上手より)。
★日髙大介(43)…『クイズ王最強決定戦』準優勝2回など。僕。悲願のクイズ日本一の称号獲得なるか。「クイズの伝道師」。
★石野まゆみ(56)…『アタック25』3回優勝(!)、『アップダウンクイズ』3週連続10問正解、『20世紀クイズ王』優勝など。テレビクイズの優勝経験は数知れず。我々の世代では高田純次さんとの絡みも憧れ。そこで生まれた「石野まゆみタン」という愛称もおなじみ。「元祖クイズ女王」。
★倉門怜央(21)…『アタック25高校生大会』優勝。今回の最年少で唯一の現役大学生。2022年の学生基本問題日本一決定戦『abc』準優勝。「大学クイズ研究会のエース」。
★布川尚之(52)…『アタック25 30周年記念大会』優勝、『第1回FNSクイズ王』優勝、『第4回・第5回・第6回FNSクイズ王』準優勝、『第8回史上最強のクイズ王決定戦』準優勝など。17年前の『30周年』のとき、僕は観覧席に座っていたのだが、布川さんが優勝された帰りの新幹線では石野さん共々ご一緒させていただき、先輩方の金言や経験談をたくさん聞かせていただいたのが忘れられない。「30周年記念のクイズ王」。
★大美賀祐貴(31)…『アタック25高校生大会』優勝、『abc(第7回)』優勝。僕が2003年から開いていたクイズ大会に14歳から参加してくれた大美賀。彼の世代とは仲良くクイズをさせてもらった。「成長を続ける若きエリート」。
★齊藤喜徳(55)…『第6回史上最強のクイズ王決定戦』準優勝、『100万円クイズハンター』優勝など。90年代初頭のクイズ王時代、予選トップを何度も経験されている、布川さん、石野さんと並ぶTVスター。「日本クイズ協会代表理事」。
MCの谷原章介さんは、「ベテラン4人に、若手2人が挑む構図」と何度かおっしゃっていたが、年齢や経歴でいったら僕も若手ですやん。ごって若手ですやん。
その後、控室では和気藹々と。西日本代表の安本健太郎さんから「今回は出題が加藤明子アナウンサー(朝日放送)やから、日髙は、『プロジェクトQ』の『建ぺい率』のリベンジもあるなー」とマニアックなフリが飛んできた。
『プロフェクトQ』とは、2002年に『アタック』スタッフが制作したクイズ番組で、その最終回である「グランドチャンピオン決定戦」に僕も出場したのだった。ルールは一問必答クイズ。正解すればクリア、間違えると失格退場の場面で、こんな問題が出た。
「各階の延床面積の、敷地面積に対する割合のことを『何率』というでしょう?」(正解:容積率)
僕は最初の「各階」を「角界」と聞き間違え、「んん?相撲部屋の話か?」と早合点してしまった。違う違う。これは「建ぺい率」とか「容積率」とかの問題だ。でも頭の中は「相撲部屋=平屋」になってしまっている。立体が描けていない。でも問題を反芻し、絶対に間違いないと判断して、じっくりと「建ぺい率!」と答えて失格。情けない思いをしたものだった。
そのときの出題者は、今日の出題者でもある加藤アナ。そんな細かいことを安本さんがツッコんできたのだ。同じく西日本代表の今尾奈緒子さんも乗っかってくる。
僕は答えた。
「わかりましたよもう(笑)。今日のクイズで『延床』っていう単語が聞こえたら、どんな場面でも押して『容積率』って答えます!」
そんなヨタ話をしているうちに、リハーサルの時間が近づいてきた。感染症対策を十分にとって、メイク室へ。ああ、これがアタック最後のメイクかあ、とか感慨に耽りながら、黙ってスタジオへ。そして、この日のために東京で知悉のスタイリストさんがコーディネートしてくれた衣装に着替える。気合の入った衣装に、皆さん一瞬ビックリしたようだった(よし、まずは作戦成功)。
戦慄のリハーサル~恐怖の超変化球~
リハーサル開始。動線の確認、ルールの確認、谷原さんによる名前の確認などなどが行われる。ルールは4問正解で最終決戦へ。2回間違えると失格退場。とにかく、この準決勝こそが正念場だった。
作家の高見さん「それでは、ちょっと早押しクイズの練習もやりましょう。でもね、これは遊びのクイズです。中には、ムチャクチャやなあ、というクイズもわざと混ぜています。最後まで聞いて答えてくださいね。本番ではこんな無茶なクイズは出ませんので、とにかく、落ち着いて問題を聞く練習をしてください」
まずは関東の6人が並んで、早押しクイズのリハーサル。
第1問が印象的だった。
「Q.慣用句で、高くなったり、あぐらをかいたりする顔の一部はどこでしょう?」
僕も「あぐら」で押したが、ボタンがついたのは隣りの石野まゆみさんだった。「鼻!」正解! やはり、こういうところで正解するからこそ、石野さんだと思った。
「Q.札幌、東京、博多などの種類がおなじみの食べ物で/・・・」
倉門くんがこの時点で「ラーメン」を正解。こんな柔らかい問題も早いのか。ちょっと脅威に感じた。
とにかく遊び心のある「ですが」問題が多かった。下手したら、ダウンタウンの「太郎くんが花屋さんに行きました。さて、何でしょう?」みたいな問題も出るんじゃないか、と思ったくらいだ。僕はリハーサルでは、最後の問題で果敢に押して間違え、2バツ失格となった。正しくは、本番で経験しないようにここで経験しておいた。この経験が後で効いてくるとは思わなかった。
度肝を抜かれたのは西日本のリハーサル。
「Q.日本の都道府県名をアイウエオ順に並べたとき、最初は愛知県/・・・」
僕はボーっと観覧しながら、「まあ、最後の和歌山県かな。いや、このリハーサルだったら3番目の秋田県までいくかもなーー」などと考えていた。
解答者「青森県!」ブー!
谷原「ではない!2番目は青森県、3番目は・・・」
日髙「やっぱり!」
谷原「3番目は秋田県、4番目は茨城県ですが、5番目はどこでしょう? 正解は岩手県」!
ぎゃー!人生で、5パラ(5段パラレル)は初めて聞いた(笑)。
周りは笑っている人、唖然としている解答者、いろいろいた。
僕は、なるほどなー。高見さんをはじめ、スタッフの方々は本気で最終回を良いものにしようとしている、そう解釈した。ちゃんと事前に「遊びのクイズ」と注意されていることも然ることながら、ちゃんと我々にメッセージを伝えてくれているのだ。クイズの猛者に「早押しクイズ」をさせると、とかくポイントを無視した「早押し合戦」がなされることが多い。今回はそんなボタン合戦だけはさせたくない。問題は適度にヒネってあるから、ちゃんと「問題の先」を読んでね、何よりも、お祭りである「番組の空気」を読んでね、と。
上記のように理論上は落ち着いた素振りの僕だったが、身体は震えていた。いくらリハーサルだといっても、いくら事前に忠告があったとしても、蛇行運転を繰り返す問題群を何問も聞かされた我々は、完全にビビっていた。この状態で4〇2バツをやるのは過酷でしかない。この戦慄は、きっとあのときの12人にしか分からない感情だろう。46年半の歴史の重みがプレッシャーとなって全身に襲い掛かってくる。
「それでは、本番に参りまーす!!」というディレクターの声がスタジオに響き渡る。
「まずは、東日本の皆さんからです!!」
やはりか・・・。我々はどちらの6人が先にやるかも聞かされていなかった。20周年、30周年のときも東日本が先だったので先攻を覚悟していたが、それでもやはり、この心理状態で早押しテーブルに着くのは怖かった。
そして、公正を期すために、西日本の6人は別室へ移動。つまり、西日本の皆さんは、誰が勝ち抜いたかを知った直後に準決勝に挑むことになる。
さて、この1カ月は、これから始まる数分間のためにあった。その戦いが幕を開ける。
運命の鉄骨渡り・予選ラウンド(準決勝)
谷原「それでは参りましょう! 決勝ラウンド進出をかけた、予選ラウンドのスタート。第1問!」
「Q.この番組のタイトルは『パネルクイズ・アタック25』。では、プロ野球の読売ジャイアンツで、現在、背番号25を/・・・」
最初の問題を押したのは石野まゆみさん。「岡本和真選手!」正解!
「プロ野球~」と来たときに、ああ、またも1問目は石野さんか、と思った。アタック25のスタジオでテレビカメラが回り、番組収録がスタートし、僕のすぐ隣りで小学校の頃からずっと見ていた憧れの石野まゆみさんが、テレビと同じ声で正解を発している・・・そしてその隣りには自分がいる。
急に「マジか!この状況!」「あの頃の僕に教えてあげたい!」という思いが募り、「今かよ!!」と自分にツッコんだのを思い出す。
そして、よくよく考えると、この1問目がアタックチャンスの伏線にもなっている。ここで気付いても良さそうだったが、それに気付くような心理状態では全くなかった。なるほど、西日本6名を入れない配慮はこういう細かいところにも行き届いていたのかもしれない。
「Q.今年、6月23日に、上野動物園で双子のパンダが生まれましたが、お母さんの名前は「シンシン」/・・・」
齊藤さん「リーリー!」正解!ああ、小学校の頃からずっと見ていた憧れの齊藤喜徳さんが、テレビと同じ声で正解を(以下同様)。
さて、1問目が特別問題、2問目が時事問題。よし。おそらく次かその次に、打ちごろの球が飛んでくるだろう。もしも押せそうなら次だ。ただしゆっくり。
「Q.テレビなどの画面の、3対4や、9対/・・・」
やはり来た!!打ちごろのベタ問題!!「テレビの画面の縦横の比率」のことだ。少し遅いかな?と思ったが、思いの外、押しているのは僕だけだった。日髙「アスペクト比!」正解!
事前の僕のシミュレーションでは、周りが疲れてくる開始10問目くらいに1ポイントを取ればよい、と思っていたが、ここでの1ポイントは大きい。よし、よほどのことがない限り、しばらく黙っていよう、と思った。
「Q.今から300年前の1721年、庶民の要望や不満を受け付け/る・・・」
大多数が一斉に押して、台がガタガタっとなったのを覚えている。僕もつられて押したような気がしたが、なぜかランプがついている。ヤバい!!
あれだけ「押すな!」と思っていたのに、指がいうことを聞かなかったようだ。こうなったら仕方がない。頭をフル回転させる。ストレートに「目安箱」か、ヒネって「徳川吉宗」か「享保の改革」か、ハイレベルに「小石川養生所」か。おそらくヒネるにしても「吉宗」は簡単すぎる、「享保の改革」だと1721年と限定している意味が薄くなる……なるほど、野球のチェンジアップだ。あえて4問目の易しめストレートを置いたのだろう。
日髙「目安箱!」ブー!
あれだけ「前半にバツは付けない」と誓っていたのに、4問目で間違うとは!(笑) 俺は何をやっているのだ。喉のあたりまで「ちょ、マジ、ちょ、ゴメン、ゴメンて!!もう1回最初からお願いします!!」という言葉が出かかっていた(続きは「・・・受け付ける目安箱が設置されました。これは江戸時代に徳川吉宗が行った何という改革の一環でしょう?」で「享保の改革」。今考えたら、まあ一番しっくりくるな←)
この番組では、間違えると司会の谷原さんが「ではない!」というが、今日は本当に、この4文字が怖い。しっかり問題を聞こう。というか、今度こそ黙っていよう。僕は早くも崖っぷち、もう後が無い。
「Q.建築基準法によると、建築物の延べ面積/・・・」
ギャーーー「延べ面積」!!
ここで来るかあーーーーーーー!! マジでドギモを抜かれた。でも西日本の安本さんと今尾さんと控室で約束した。
俺だって九州男児だ(東日本代表だけど)、約束は果たさねばならぬ。問題が短いから「・・・ですが」もある。死ぬ覚悟で押した。
日髙「容積率!」正解!!
いえーい。テレビを見ると変なガッツポーズをしているが、それは控室にいたスタジオにいない戦友に向けてのものだった。
考えてみれば、開始5問で2つ取れたのだ。このルールは、後方から追いかけるのは難しいが、先行逃げ切りは有利。この「容積率」が天から降ってきたおかげで、「今日は僕のための大会だ」と思い込むようにした。「勝った」とすら思った。
(その5に続く)