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「自分のことしか考えてない」について
僕が、とんねるずのことを好きになったのは1991年のことだ。
家ではフジテレビの『とんねるずのみなさんのおかげです』を見るのは禁止されていた。クラスメイトの男子が「仮面ノリダー」で盛り上がるなか、僕はその話に付いていけないでいた。「最初の怪人は『ラッコ男』」という命綱1本だけで、なんとかクラスの仲間外れになるのを自衛していたことを覚えている。
基本的には親の影響で、「とんねるずを見るとバカになる」「イジメにつながる」ということでテレビ視聴を禁止されていたのだ(そういうのは、当時は割とよくあった)。当時「いい子」だった僕は、その言いつけをしっかり守って、とんねるずをテレビで見ないでいた。他にも親に禁止されていたのは「欽ちゃん」であり、父親が会社から帰宅したときに『仮装大賞』でも見ていようものなら、殺されそうな勢いだった(比喩ではない)。
かくいう僕も、当時は大して「とんねるず」のことは意識していなかったが、そんな折、僕の心の中に大事件が起こる。それが1991年のことだった。とんねるずが『情けねえ』という曲で「日本歌謡大賞」を受賞したのだ。なぜかたまたまVHSを録っていた僕は、それをこっそり何度も観たものだ。KANに始まり、SMAPに終わったノミネートのステージ。その後、司会の高島忠夫さんの名調子で、とんねるずの受賞が知らせられる。盛り上がる観客、笑顔で手拍子を贈る冠二郎さん。当時、中学2年生だった僕の心には、そのシーンがたまらなくカッコよく映った。
その翌年7月にリリースされた、とんねるずのアルバムが『がむしゃら』だった。前年のアルバム『みのもんたの逆襲』はパロディソング満載だったが、『がむしゃら』はマジ歌10曲。人生で2枚目に買ってもらったアルバムだった。丁寧に丁寧に、何度も何度も繰り返し聴いたものだ。
当時は、CDを買った場合「カセットテープに録るのが当たり前」みたいな文化だったが、僕は、なんとかして両親に「とんねるずの良さを伝えたい!」「こんな良い歌も歌うんだよ!」「決してテレビの破壊的なイメージばかりではないんだ!」・・・いろんなことを両親に知ってほしい一心で、カセットテープ60分に、『がむしゃら』10曲に加えて、『情けねえ』『こんな男でよかったら』(情けねえのカップリング)を加えた12曲を、僕なりに順番を考えてA面とB面に録音し、思いの丈を詰め込んだ。それはもう本当に自分のためではなく、本当にカーステレオという車中の雰囲気のなかで、なんだかギスギスし始めていた「家族」というサークルに、「両親にとんねるずのカッコよさを知ってほしい」という風を吹き込みたいという思いからだった。
しかし、これは子供だったとはいえ、ただの僕のエゴだった。
考えに考えた曲順、B面3曲目が木梨さんソロの『おやすみムーンライト』という曲だったのだが、家族4人の車中で、父親がおもむろに「なんか、聴いていて眠くなるな」と言ったのだ。僕は一瞬、残念に思った反面、「あ!父親が僕のカセットの曲に反応してくれた!」と、逆説的ではあるが、嬉しく思ったのを覚えている。
ところが、それに続く一言が衝撃だった。母親が言ったのが「ほんっとに、
大介は、自分のことしか考えてない」
えっ・・・。
この文言、一言一句間違っていない。その後に「そういうとこなんだよなー」とも言われた。なぜ覚えているかというと、「そういうところ」という言葉の使い方をこの時に知ったからである。
これは、本当に衝撃だった。僕はただ、自分の気持ちを滅して、みんなに楽しんでほしかったのだ。家族4人で、こんな曲も、あんな曲もあると知ってほしかった、いろいろ話したいと思っただけなのだ。しかしその行為は、ただただ他人をイヤな気分にさせる行為だったのだ。とにかくショックだったのを覚えている。「自分のことしか考えてない」。確かにその通りだった。
今も、このときの反省は生きていて、自分のことが「情けねえ」と思う。
あれだけ好きだったアルバム、何百回、何千回と聴いたと思うが、ふと、この思い出話の「扉」が開いたのが2025年2月14日の夜だった。もう数曲を除いて、聴くことはできない。
「人のことだけを思った」行為を、「自分のことしか考えてない」と言われる。切ないけど、ちょっと面白いなあ、とも思う。
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