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台湾の現地で見た、サーキュラーデザインの現在地 - 「Circular Design Week 2024 in TAIWAN」参加レポート

こんにちは、KOELの徐です。

2024年の10月10日から10月13日までの4日間、台湾で開催されたサーキュラーデザインの可能性を探求するイベント「Circular Design Week 2024」に、KOELがサポーター企業として参加しました。この記事では、台湾現地の模様をお届けします。

Circular Design Weekとは

出典:Circular Design Week 2024公式サイト

Circular Design Weekは、アジア・パシフィックにおける特有の伝統や慣習、生活様式に着目し、それぞれの土地に根ざしたサーキュラーデザインの可能性を探求する場として、2023年の12月に鹿児島で第1回が開催されました。

2回目となる今回は、Circular Design Praxis (CDP)5% Design Action株式会社リ・パブリックによって舞台が台湾に移され、「Bioregion-ing Together」をテーマに、国内外の研究者や実践者、ローカルの人々を交えたフィールドツアーとカンファレンスで構成された4日間のプログラムになっています。

プログラムの前半は、台湾の嘉義(Chiayi)・雲林(Yunlin)・台南(Tainan)の3つの街を訪れ、その土地ならではの歴史や文化に紐づいた循環の取り組みを探索するフィールドツアー。後半は世界各国から参加している様々な専門家・登壇者が台湾を含めた世界の事例を共有し、サーキュラーデザインの可能性について、国境を越えて共に考えるカンファレンスが行われました。

出典:Circular Design Week 2024公式サイト

今回のテーマにもなっているバイオリージョン(生命地域)とは1970年代に提唱された概念で、人間によって作られた境界ではなく、自然の境界によって定義される地域のことを指します。バイオリージョニング(Bioregioning)はこれを動詞にした言葉で、多様な生物が共生した環境の中にある人間生活のあり方を見直し、持続可能な地域を存続させる行為のことです。

すでに開発が進んだ都市では、いかに環境への負荷を減らしながら、持続可能な未来社会につながるように転換していくのか。または新たな都市地域の中で、技術の進歩が、人々の生活をどのように変えることができるのか。私たちも社会インフラを支える会社の一員として未来社会の姿を考えていく必要性を感じ、サーキュラーデザインの取り組みからそのヒントを探りに行くことにしました。

サーキュラーデザインの実践現場を探し求め、台湾中南部のフィールドツアーへ

プログラムの初日と2日目は、台湾の中部と南部の町を中心に、文化と歴史を継承している実践者や、先進的な循環の取り組みを構築した場所を複数訪れました。

家業の醤油作りを継ぐことが、地域の産業を振興することにつながる

御鼎興醬油(Yu-Ding-Shing Wood Fired Black Bean Soy Sauce)
場所:雲林縣西螺鎮安定路171-11號
Webサイト:https://ydsin1940.com/

工場の入り口で出迎えてくれた、3代目・弟の謝宜哲さん

台湾中部に位置する雲林の街、西螺(Xiluo)で、1958年に創業した黒大豆醤油のブランド「御鼎興(Yu-Ding-Shing)」。現在は3代目の謝宜澂・謝宜哲兄弟によって家業が引き継がれ、伝統的な手法にこだわった醤油工場を見学しました。

1960〜70年代の高度経済成長期、農業が主要産業だったこの地に次々と醤油製造所が生まれたことで、西螺は台湾でも有名な醤油の産地になりました。その流れの中で創業した御鼎興は、創業者の急逝により一度は伝統的な製造方法を失いましたが、2代目の謝裕讀さんが長い年月をかけて昔ながらの醤油製造方法を掘り起こし、古くて懐かしい醤油の味を蘇らせました。

工場の外にずらりと並ぶ醤油を醸造させる甕(かめ)には、1代目から3代目にかけて異なる模様が施されている
KOEL田中が、煮詰めた醤油の攪拌を体験

「家業を継ぐことが、我が家にとっての革新だ」と話す謝兄弟は、一度は故郷を離れたものの、醤油作りの伝統を守る大切さを知り、家業を継ぐことを決心されていました。お話しを聞いていく中で、彼らが御鼎興に持続可能な変革をもたらした点に気がつきました。

最初に、少量でも質のいいプロダクトに仕立てて、単価を上げたこと

小さな工場で生産している御鼎興の出荷量は、大量生産された市販の醤油には到底かないません。それでも、伝統的な薪窯煮での醸造法は変えずに、古来から親しまれてきた味を残しています。また、似たデザインが多い醤油のパッケージを大幅に見直したほか、ライチやパイナップル味など南国フルーツを混ぜて作った新しいフレーバー醤油の開発も手がけ、品質と希少性を武器に市場で生き残る道を自分たちの手で見い出していました。

ボイラーでの加熱が主流になっている中で、いまだに薪を使った伝統的な加熱方法で醤油を作っている
黒大豆の産地や用途によって、醤油のバリエーションを大幅に増やし、少しづつ売り上げを上げていった

次に、醤油作りを通して、良い循環を地域全体に波及させたこと

2017年から「飛雀餐桌行動(FUTURE DINING TABLE)」という、雲林で同じく伝統的な食文化を守っている有志とともに、醤油を使ったビーガン料理を提供するイベントを月一で開催し、生産者と消費者の距離を縮め理解を増やす取り組みも行っています。彼らの努力もあって、近年では昔ながらの醤油の味を未来に向けて残すべく黒豆栽培に乗り出す地元の農家が増え続けているそうです。

伝統を継承する「新しいかたち」を見い出すことが、地域の斜陽産業が再び人々に親しまれる機会につながるのだと、強く思わされました。

FUTURE DINING TABLEについて語る、兄の謝宜澂さん

台湾の製糖会社が建てた、あらゆるモノが循環する集合住宅

台糖循環聚落(Taisugar Circular Village)
場所:台南市歸仁區武東段150地號
Webサイト:https://www.taisugar.com.tw/Circular/cp2.aspx?n=11434

「台糖(Taisugar)」は台湾の有名な国営企業の一つ。かつて盛んだった砂糖事業が斜陽産業になったこともあり、1990年代ごろから観光、小売、バイオテクノロジー分野など多角的な経営に乗り出し、近年ではサーキュラーエコノミーの実現にも力を入れています。

その中で、2021年に台南で完成した台糖循環聚落(Taisugar Circular Village)というビレッジは、水や食物、建築資材などのあらゆるものが「循環」できる仕組みを備えた、近未来的な集合住宅になっています。

収集された雨水はアクアポニックスに流れ、魚などの糞尿が水耕栽培された植物の養分となり、動植物の共生環境を形成している

敷地内にある農場で、住民は自由に作物を植えることができ、収集された雨水などを使って栽培ができます。また廃棄された生ゴミは、専用に飼育されているハエの幼虫によって分解され、再び農場や植木の堆肥として使用されます。住民の生活用水は、処理されたのちに地下のタンクに貯蔵され、農場やガーデンの給水に再利用されます。

ビレッジ中央にある溜池につながる用水路

351戸ある居室はすべて家電・家具付きの賃貸契約のみで提供されています。設備などは提携業者とリース契約を結んで修理対応を依頼することができ、故障や引っ越しの際に買い換えるのではなく、一つのものをなるべく長く使って廃棄物を出さない仕組みが用意されています。

居室の内装の一部。家電家具は全てリース品を使用している

建設業界は特に多くの産業廃棄物や温室効果ガスを排出することから、建築自体にも工夫がされています。建設・解体による環境負荷を最大限に減らすために、建築資材の加工は現場で行わずに、あらかじめ工場で生産・加工された資材を現地で組み立てるモジュール建築を採用しています。

また「マテリアルパスポート(Material Passport)」という、建物に使用している異なる資材ごとの耐用年数などの情報を全てデータベース化し、解体後の資材を再利用可能にする仕組みを構築。建築に使われる資材も、将来的に循環ができる仕組みが整っています。

台湾高速鉄道台南駅から5分の立地にあるビレッジは、ソーラーパネルで屋根が覆われており、独創的な建物の外観が目をひく

九州と同程度の面積である台湾は、日本と同じく天然資源が乏しく、2023年のエネルギー資源は96.8%を海外からの輸入に依存している状況です。政府は再生エネルギーへの移行を国の重要政策に掲げており、台糖は国営企業としてサーキュラーエコノミーを実現する使命を背負い、そのモデルケースとしてこのビレッジが完成しました。

このほかにも、かつて林業が盛んだった嘉義にある、日本統治時代に建てられた監獄のリノベした宿舎群を拠点に、ローカルなまちづくりの活動をしている「台灣田野學校(Taiwan Field School)」と、台糖循環聚落を含めた広大な敷地をもつ台南の「沙崙智慧綠能科學城(Shalun Smart Green Energy Science City)」のデモンストレーションサイトを訪れました。

旧嘉義監獄の隣にある職員向けの宿舎だった空き家がリノベーションされ、台灣田野學校が地域に根ざした活動を行う拠点となっている
台灣田野學校が拠点を置く宿舎一帯の建物は、地域の住民を集めて木工のワークショップを開催するスペースとしても再活用されるなど、さまざまな団体が嘉義の文化や歴史に因んだイベントの開催などを通して、コミュニティの形成に力を入れている

前者は有志による空き家を活用した地方創生の活動である一方で、後者は国が推進するエネルギー政策のもとトップダウン型で建設された大規模な研究・実験施設のようなものです。スケールや取り組んでいる内容は異なりますが、持続可能な社会を支えるサーキュラーな営みを、異なる視点で比較することができました。

グリーンエネルギーの創出、貯蔵、省エネに関わる国内の最新技術を展示している、沙崙智慧綠能科學城のデモンストレーションサイト

世界各地での取り組みを知り、幅広い視点でサーキュラーデザインについて考えるカンファレンス

プログラム後半の2日間は台北に移動し、台湾、インドネシア、イギリス、ベトナムなど述べ12地域(7カ国)から、デザイナーやデザイン研究者、サーキュラーデザインの実践者が集うカンファレンスに参加しました。会場は台北市内にある台湾デザイン研究院で開催されました。

会場となった松山文創園區(Songshan Cultural and Creative Park)は、日本統治時代のタバコの工場をリノベーションした文化総合施設で、イベント会場だけでなく台湾のデザインやアートを発信する重要な拠点になっている

基調講演と4つのセッションによって構成されたカンファレンスは、「バイオリージョニング」というテーマを中心に、エコロジー、地政学、国のガバナンス、歴史と文化の伝承など多岐の分野に渡っています。アジア・パシフィックにおけるサーキュラーデザインの実践の可能性と、いかにしてこれらの知見を持続的な未来社会の構築へとつなげていくのか、様々な議論が交わされました。

Reflection Sessionでは参加者は3つのテーマから自分の興味があるものを選び、登壇者を交えてより踏み込んだ議論を行った

最終日の振り返りセッションでは、登壇者と参加者の垣根をこえてディスカッションが行われ、様々な領域で活躍する方々同士で意見が交わされる、とても貴重な時間を過ごすことができました。

カンファレンス会場の様子

Circular Design Week 2024を終えて

今回このプログラムを通して、アジア・パシフィック地域ならではの文化を育んできた土地で、多様で複雑な関係性をもった人間活動に目を向け、人と自然が共存する仕掛けや、伝統を継ぐ新しいかたち、そして社会を動かしていくためには何が必要なのかなど、持続可能な未来社会をつくるヒントを台湾で探ることができました。

台湾のサーキュラーデザインの現在地を知ったと同時に、今後も継続的に様々な専門家による多角的な議論と、デザイナーだけではなく、まちづくりや都市計画に携わるあらゆる人々が当事者意識を持って取り組む必要性を感じました。

社会インフラを支える企業のインハウスデザイン組織の一員として、今後もこのような活動を注視しつつ、国境を越えた議論がますます活性化することに期待したいと思います。


12/11(水) イベントのお知らせ

12月11日(水)、新宿区立牛込箪笥区民ホールにて『Circular Design Week 2024 in Taiwanを振り返る〜Bioregioningから捉え直す循環のデザイン』が開催されます。

Circular Design Week 2024を、参加者と振り返りながらサーキュラーデザインについて語りあうイベントです。スピーカーとしてKOELからHead of Experience Designの田中 友美子が登壇します。イベント詳細や参加方法については以下のリンクをご参照ください。

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