離ればなれの世界で "人が働く気配" をデザインする―2人のデザイナーから見たNeWorkグッドデザイン賞の受賞理由―
この度NTTコミュニケーションズが提供するコミュニケーションスペース「NeWork」が2022年度グッドデザイン賞を受賞しました。
今回は、グッドデザイン賞を受賞したNeWorkについて、デザインを担当したKOELの田中亮とKESIKIの大貫冬斗さんの対談をお届けします。
KESIKIとKOELが参画したプロジェクト
田中:
本日はよろしくお願いします!大変ありがたいことに、この度NeWorkがグッドデザイン賞を受賞しました。
大貫:
今回の受賞はNeWorkにとってのひとつのマイルストーンとして、評価いただくいいきっかけになったと思います。
田中:
そうですよね。僕はサービスのコンセプトが固まった後でのプロジェクト参加ですが、それでも2年間にわたり関わらせていただいて、直近だとモバイルアプリもデザインしています。なので、今回の受賞はこれまでのアクションに対する成果だという実感があります。
KESIKIさんはNeWorkに一番最初から関わられていたと思うんですが、そもそもどんなきっかけで参加されることになったんでしょうか?
大貫:
まずKESIKIの理念の話をするのですが、私たちは「言っていること」と「やっていること」、すなわち「Being」と「Doing」を両立させることが重要だという想いを持っています。
元々、KESIKIはみなさんが所属されていらっしゃるKOELの立ち上げを支援させていただいていました。具体的には、組織のパーパスや組織設計、さらには名称含めたアイデンティティのデザインと、主に「Being」の部分のサポートをさせて頂きました。
そしてKOELを立ち上げた直後に、新規事業をサポートできないかと考えている中でNeWorkの話を持ちかけていただいたので、それならばと「Doing」の方も引き続きKESIKIとして関わらせてもらうことになりました。
最終的には、リサーチ、コンセプトデザイン、ネーミング、UX、UI全体——といろんなパートで関わらせてもらうことになり、一大KESIKIプロジェクトになりましたね。
「国産・安心」の問い直しから生まれたデザイン
田中:
そういえばプロジェクト開始時の仮ネーミング(開発コード)は確かNVC(NTT communications Video Communication)でした。
大貫:
"国産で、安心なビデオコミュニケーションツールを作ろう" という声がきっかけではじまったプロジェクトでしたが、その前提自体を問い直そうよ、というのをまず話しましたね。ちょうどコロナ禍で「リモートでよりよく働くにはどうすべきか」という課題感を皆が認識していて、まさにプロジェクトメンバーの一人一人が当事者——対象ユーザーだったんですよね。
なのでキックオフの日に自分たちのペインを洗い出すところから始めました。
結果として「ビデオ会議を新しくする」というよりもう少し大きな問い、「これからのコミュニケーションはどうなっていくといいのか」「それに対して私たちには何ができるか?」を考え始めることになりました。
だからこそサービスのネーミングもビデオ通話を示すようなものではなく「NeWork」になったし、オフィスの形を真似しているものでもない、新たなコミュニケーションの形を実現するためのものになっていきました。この問いがすべてを大きく変えていったきっかけだったなと。
田中:
NTTコミュニケーションズはこれまでも人と人とのコミュニケーションのかたちを変えてきた会社ですから、既存の価値を後追いするのではなく、ここから新しいコミュニケーションを定義しよう、と。それを考える上で先ほどの問いが最初に生まれたのはとても重要なことですね。
気軽なコミュニケーションを後押しする「聞き耳」
田中:
NeWorkは複数のルームが用意されておりその中でメンバーが会話できる仕組みになっています。複数人が自然に集まって話せる体験をデザインしていきましたが、そんなNeWorkならではの機能として「聞き耳」機能を実装しました。
大貫:
「聞き耳」の前提としてキーワードとしてあったのが、「楽しさ・気軽さ」。これがNeWorkのデザインの裏側にある価値でした。
どうやって気軽に会話に参加できる空気感を作るかが大きな議論になっていて、その結果「実現したい3つのキーフィーチャー」を定めたんです。
「聞き耳」という概念はその中の一つ「Nudge by Room」から生まれました。ユーザーの行動を部屋のありようからナッジ(後押し)できるのではないか、という考え方です。
その時の議論でよく覚えているのが、どうすれば「気軽にちょっとくっついてみて、興味なかったら離れる」という中間地点の関わり方を作れるかを模索していました。「聞き耳」はまさにそれを象徴するする機能で、聞き耳をNeWork全体を考える上での一つの軸にしていきましたね。
田中:
自分の状態を表す、"声は出せないけど参加しておきたい" という意思表示ができるのは、他のサービスにないNeWorkらしさが実現できたと僕も思います。
大貫:
ビデオ会議でもよくあると思うのですが、ビデオもマイクもオフにして参加していると、割とネガティブな見え方をするじゃないですか。いるのかいないのか?どうしたんだろう?と。
一方で聞き耳なら、同じ話せない状況でも意思があって参加しているんだな、というのがわかるんですね。
ユーザーフィードバックから得た"意思表示としての聞き耳" の価値は僕らにとっても学びになりました。
人の気配を感じられるバブルのデザイン
田中:
「楽しさ・気軽さ」と合わせて、「有機的」という言葉も頻出キーワードでしたね。柔らかく、かしこまっていなくて、ずっと見ていられる感じという意味合いでチーム内で共有していた言葉です。
大貫:
有機的という言葉はNeWorkのUIの中でも印象的な「バブル」に現れていますが、水滴が合わさるイメージだったんです。
特にベータ版では有機的っぽさがモーションを通じてもっと出ていたんですが、その後のデザインの変化を見るに「有機的な表現」と「いかに使い続ける中でユーザーが快適に使えるか」の間で探り合いをしていたんだなと。表現が押しつけになりすぎていないかは特に気をつけていました。毎日NeWorkに入ってもらう時、「楽しいだろ?」という押しつけではなく、いかに心地よく楽しく・優しさがある楽しさにできるか、は大きなテーマだと思っています。
田中:
そうですね。ちょうど良い楽しさがバブルでデザインできたと思っていて、通じて当たり前に使いやすいことと、参加者が同じ空気を感じることを両立させています。先ほどの「有機的」というワードで言うと、ルームの聞き耳や中の参加人数が増えるにつれてアイコンも増えるので賑やかになっていきます。それがまるでひまわりみたいに見えて、盛り上がっているのが視覚的にも楽しくわかる、すごくいい場の空気のデザインが実現できたなと。
大貫:
バブルに関しては絶妙な形状かつグラデーション、というのにこだわりました。
NeWorkは新しい働き方をデザインしている一方、リアルなオフィスのような場所にしなかったのはとても議論を積み重ねたところです。シンプルに円だけ、その中でより人の動きや熱量が見えやすい今のデザインは、もっと先を見据えた時に強みになっていくいいデザインになったなと思っています。
画面上の楽しさ・聞き耳をするときのくっつき方、1on1するときのくっつき方を見ていると、何もないけどクリックしてしゃべってみたくなっちゃいますよね。そんな気配が感じられるのはすごく気に入っているところです。
プロジェクト開始時は、この初期コンセプトのひとつの仮称が "バーチャルオフィス" でした。そこから、本質的な問いを得るために、世の中のコミュニケーションをNTTコミュニケーションズがどうやって変えていったのか、という話をプロジェクトと並行して話していました。「今リアルにあるものをただオンラインに乗せるだけじゃないよね、もっとその先を定義する必要があるよね」という話を大野さん(NeWorkプロダクトオーナー)はじめ皆さまとしていました。
田中:
リアルオフィスをそのまま持ってきていないのは僕もとてもいいところだと思っています。確かにリアルオフィスを再現するすることで、従来と同様の環境に安心感を覚えさせようという考え方もわかります。ですがそれは本質的な解決じゃないと思うんです。なので、リモートのコミュニケーションが当たり前になりつつある現在では、NeWorkをより自然に使っていただけるようになると考えています。
“NeWork” という名前に込めた想い
田中:
ここで「NeWork」というサービスの名前が決まるまでの経緯もお話ししましょうか。new + work =NeWorkですが、まずworkを中心に据えて考えられています。
大貫:
名称を考える際には、機能だけにフォーカスするべきか、「どこを目指しているのか」というところまで包含できる名前にすべきか、という議論を繰り返しました。
元々は新しい働き方として、newなworkでNeWorkとしていますが、workという単語については「仕事をする」という意味に止まらず、学校や趣味などを含めた様々なコミュニティのワークを新しくしていく、未来のワークの姿を一緒に作っていく、という気持ちが込もっています。
田中:
未来のworkを考えていくのがNeWorkだと。言葉の意味という点では、KOEL側でもベータ版からバージョンが上がるのと同時に「NeWorkらしさ」を改めて言語化していこう、と働きかけていました。
大貫:
NeWorkらしさという点では、セレンディピティのように、たまたま出会いがあったり、こっちのルームが盛り上がってるから移動してみよう、みたいな「新たなコミュニケーションが起きる場所」にしようという意図もあったので、きれいに整頓されすぎているというよりは、遊びをどれくらい作るかを議論しました。
田中:
ビジネス利用でのユーザビリティも確保しつつ、楽しさ・NeWorkらしさのデザインはいい落とし所が実現できたと思いますね。
ユーザーごとの使い方が生まれる場所
田中:
NeWorkはすでに、デザイナーの方にとても受け入れられているなと感じます。大貫さんの周りではどうですか?
大貫:
実際にNeWorkの利用についてインタビューさせていただいた会社さんで、「NeWorkはルームの全体感が見えるのがいい」と話していただいたのはすごく面白くて学びになりました。
一人一人が厳密にどこにいる、ではなくて、なんとなくたくさんいる、その様子が見えるだけで働くときの気分が変わってくるといった話をしていただきましたね。
コロナ禍になり、いきなり仕事がリモートになってみんなが何やってるかわからないという状況で、厳密には直接的に解決に紐づかない要素が、実は孤独感・不安感を取り除くことに貢献しているというのがすごく面白いなと。そういう使い方をしてくれているのはとても嬉しいです。
他にはイベントでNeWorkを使ったときに、ルームの間で聞き役がぐるぐる巡回してくるスナックのような使い方をされていたそうで、すごいなと。みんな面白い使い方をしていますよね。
田中:
例えば、NeWorkが会社を模したレイアウトだったらそうはならないですよね。クリエイティブにみんなが使い方を考えてくれるのが面白いなと思っています。
大貫:
NeWork上で複数のルームでユーザーのインタビューをした時も、別の部屋の人の出入りが画面から見えていて。
だから「次の人がまだきてないからもうちょっと喋れる!」とか言ったりして。そういう世界観・空気感の面白さを体感しながらインタビューしていました。
田中:
一歩引きで見えているのがNeWorkの面白さですね。通常のWeb会議だと自分が入った部屋に誰がいるかしか見えないけれど、全体での人の動きが見えることで、人の行動が少し変わると。
大貫:
席があってそこにちゃんと一人一人座っているとかではなく、なんとなくいる、集まっている、という感じがいい、というのをよく聞きます。リアルになりすぎると「〇〇さんはどこに座るか」みたいな話になってしまうので、ちょうどよくリアルになりすぎない抽象度が重要なんだろうと思います。
田中:
僕は学生の皆さんに使ってもらえたのがとても嬉しかったです。コロナ禍で、仲間と一緒にNeWorkで作業した経験があって。
大貫:
学校だけでなく、災害対策室みたいなところにも、輪が広がっている気配をすごく感じますよね。ユーザーのクリエイティビティが制限されない、こうやったら僕たちのものになるかとか、ユーザーが考えて使ってくれているのがNeWorkのすごく良いところだと思っています。
田中:
そういう意味では通常のオフィスへの導入だけでなく、オープンオフィス(1つの仕切られていないオフィスに複数の企業が入ること)のような使い方をしてもらえると面白いのかなと思います。会社などの枠に囚われずに、人が集まる場という使い方をしてみてほしいです。
大貫:
当初の議論でもどうすれば「閉じない・外に開いていく」形にできるかというのがありましたね。
大企業のオフィスに関係のない人が席を持つというのは難しくても、NeWork上なら難しくない。NeWork上の方が、社外のコミュニティとの化学変化が起きるかもと考えるとワクワクしますね。
働き方をクリエイティブにするという観点で、使い方を含めてカルチャーを作っていってもらうのがすごくいいなと思っていますし、どんどんそういう使われ方をしてほしいなと個人的には思います。
これからのNeWorkデザイン
田中:
今回NeWorkがグッドデザイン賞を受賞できた理由について、大貫さんはどう考えていますか?
大貫:
今回単純に一つのサービスができた、というよりは、それが今後「どう社会に影響を与えていくか」というポテンシャルを含めて審査をして頂いている部分は間違いなくあるはずです。
リモートワークを変えていくのも一つだし、いろんな事例があると思いますが、外にどんどん開いていく可能性のあるプロジェクトだとご理解をいただけたということだと良いな、と思っています。
田中:
そうですよね、コンセプト自体がよかったと思いますし、新しいコミュニケーションのあり方への取り組みに加え、今年はモバイルアプリもリリースすることができました。世界の広がりを評価していただけたのかなと思っています。
最後に大貫さんと、NeWorkのこれからについてお話させてください。
大貫:
大きな話になりますが、クリエイティビティの力をわたしたちKESIKIは信じています。それは限られた人の特権ではなく、みんなの中にある。それをどうやって解放するかをずっと考えています。
ユーザーの半歩先を想像しながら、こうしなさいという押し付けではなく、みんなのこうしたら面白いかも、を解放・サポートできるツールを提供していけるといいなと思いますし、引き続き支援させて頂けるとしたらNeWorkをそういうものに育てていきたいです。
田中:
NeWorkってクリエイティビティを引き出してくれる存在で、特にデザイナーにマッチするものだと思っています。NeWorkをきっかけに、他のサービスにも刺激を与えられればと思いますし、これからもNeWorkを通じて世の中の働き方をどう変えていけるかを俯瞰視点で考えていきたいです。
本日はありがとうございました!
今回のお話しでNeWorkに興味がわいたなという方はぜひNeWorkサービスサイトをご覧ください。
NeWork
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