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未来のきざしを見つけるビジョンデザイン——Design Matters Tokyo 24登壇レポート
6月5日から6月6日にかけて、世界中のデザイナーが東京に集い、デジタルデザインの境地を開拓するデザインカンファレンス「Design Matters Tokyo 24」が開催されました。KOELからはHead of Experience Designである田中友美子が登壇し、「Vision Design: collecting signs of the future - 未来のきざしを見つけるビジョンデザイン」をテーマに講演を行いました。
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これからの国際社会で顕在化していく「高齢化」という問いと向き合い、世界に先駆けて人口減少・高齢化が進む日本の未来を考えたKOELの「ビジョンデザイン」についてのセッションは、国内外からデザイナーが集うグローバルなカンファレンスでもさまざまなリアクションをいただきました。
本記事では、KOELとしてDesign Matters Tokyo 24に登壇した背景と、イベントでの発表内容についてご紹介します。
デザインカンファレンス Design Mattersとは
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デンマーク・コペンハーゲン発の、デザイナーによるデザイナーのためのデザインカンファレンスであるDesign Mattersは、2020年から日本でも「Design Matters Tokyo」として開催されています。プレゼンテーションとワークショップをメインとするカンファレンスであると同時に、デジタルデザインを探求するデザイナーのコミュニティとしての性格も持ち合わせ、国内外のデザイナーたちが互いに刺激を与え合う場でもあります。
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海外のデザイナーも多く参加するDesign Matters Tokyoでは、プレゼンテーションをはじめとしたイベント全体の公用語は英語。そのため、海外のデザイナーが日本へ学びを求めてやってくる場にもなっています。地域でのフィールドワークを通じて、「人口減少・高齢化」という日本が世界に先駆けて抱える課題に向き合ったKOELの「ビジョンデザイン」もまた、海外のデザイナーが日本に来たからこそ知見を得られるテーマのひとつと言えます。
未来の社会を作るための「ビジョンデザイン」
ここからは、KOELのHead of Experience Designである田中友美子による「未来のきざしを見つけるビジョンデザイン」についての発表内容をご紹介します。
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まずは、グローバルなICT企業であるNTTグループ、そしてその中で法人向け事業を通じSmart Worldの実現を目指すNTTコミュニケーションズと、そのデザイン部門であるKOELについての紹介から始まりました。
そして、本講演のテーマでもある「ビジョンデザイン」のプロジェクトが紹介されました。KOELでは10年後・20年後の社会の在り方をビジョンとして描き、生まれるニーズの仮説から、ソリューションを構想し、具体的な事業として社会実装を目指す、未来につながる取り組みが行われています。
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このビジョンを描くために、KOELではデザインリサーチの手法を用いて4つのステップを踏みながら、未来のきざしを集め、未来の社会を描き、未来を洞察しています。
田中:「ビジョンを描くこの4つのステップは、KOELの支援案件の中でも活用されています。共創の場で関係者が作り上げたい未来像、サービスやプロダクトで実現したい世界観を共有する際に、この手法で未来洞察を行い、ビジョンを作成します。ワークショップで少し先の未来での実現を目指したアイデアを出すときなどに、今現在の課題感から離れ、未来の社会、未来の人々のニーズに目を向けるため、プロジェクトの中で未来洞察を行い、作りたい未来の姿を描くこともあります」
ビジョンがあることで、抽象度の高い概念が具体化され関係者間で議論しやすくなったり、「未来の普通」が「今の普通」とは違っている可能性を共有することで、関係者それぞれが社会に変化が起こってもぶれない長期的な視座をもつことができるようになります。
人口減少・高齢化に向き合う地域から見えた “きざし”
KOELの「ビジョンデザイン」では「人口減少・高齢化」という、これから日本が世界に先駆けて向き合う大きな社会問題をテーマに対しリサーチを行いました。
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田中:「これから日本で暮らす人たちに降りかかる『人口減少・高齢化』という問題に備え、日本の未来を考えるために行ってきたのが、株式会社リ・パブリックと共同で実施してきた、3つのビジョンデザインのプロジェクトです」
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1年目に行った『みらいのしごと after50』は「平均寿命が伸び長くなっていく人生を、どう暮らしていくのか、生きていくのか?」という問いからスタートし、「50代以降の働きかた、生きかたを、地域で創造的に暮らす高齢者に学び、構想する」をテーマとして実施したリサーチプロジェクトです。
フィールドワークで訪れたのは、山口県 山口市 阿東地区という、65歳以上の高齢者の割合が既に58%に達する、日本の中でも特に人口減少高齢化が進む地域です。この阿東地区で創造的に暮らす方々の働き方について、KOELとリ・パブリックのメンバーがお話を伺いました。
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まずお話を伺ったのは、廃本を回収してコミュニティー図書館にした「阿東文庫」という場所を運営している明日香さんです。明日香さんは、阿東文庫の代表だけでなく、5つのお仕事を同時に持つ「複業家」です。
田中:「明日香さんからは『職種の違う複数の仕事を掛け持ちすることで、どれかひとつが厳しい状態になっても他の仕事で生活を支えることができ、それが暮らしのセーフティーネットとなっている』といったお話を伺うことができました」
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『みらいのしごと after50』では、明日香さんの他にも、地域で唯一のスーパーが撤退した後、そのお店を買取り地域の交流拠点とし、移動販売車による買い物支援、見守り支援を通じて地域活動を行う高田さんなど、人口減少・高齢化が進む社会の中でお仕事を仕立てている方々のお話を伺いました。
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阿東地区での最も大きな発見は「関係性の中で役割を見出すことが、仕事の重要な意義になる」ということだった、と田中は語ります。
田中:「我々が発見したのは、人々が年齢を重ねることによって働き方が変わるというよりも、人口減少や価値観の変化によって社会的な変化が起こり、その結果として仕事のあり方が変わっていくということでした。その変化とは、人々が仕事を通じて社会における自らの役割を見つけ、社会の中での関係性を仕事によって作り出していくようになるということです」
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2年目のプロジェクトである『豊かな街のはじめかた』は、人口減少・高齢化が進んだ地域でどのように「豊かさ」や「人と人との関係性」が形作られていくのかを探索したプロジェクトです。
『豊かな街のはじめかた』のフィールドワークでは、移住者が地域活性化に関わる取り組みが盛んな長崎県雲仙市の小浜町と秋田県の五城目町の2つの地域を訪れました。
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古くからの温泉地として知られている小浜町でデザイン事務所「景色デザイン室」を営み、地域内のお店や会社のデザインを通して地域と関わる古庄さんは「移住者と古くからの住人が混じり合うことで、地域のコミュニティが活性化している」と感じており、自らも自身のデザイン室の1階をカフェにして地域の住民や旅行者、移住者が自然と交わる場を提供しています。
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再生可能エネルギーの研究者である山東さんは、収入が少なかった移住当初でも、無料の湧水を飲み、釣った魚と近隣の住民に分けてもらった野菜を無料で使える地域の温泉蒸し釜で蒸し、自分のお金で買うのはワインだけという、お金では買えない豊かな生活を過ごせていたといいます。
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日本海側で厳しい自然に囲まれた秋田県南秋田郡五城目町は、農業・林業が盛んであるとともに、町の中心地で500年以上続く露天朝市が行われている町です。そんな五城目町では、「ドチャベン(土着ベンチャー)」という地域に活力をもたらす人材の誘致を目指す取り組みが行われています。
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五城目でも、実家の酒造を継ぐために大学卒業後すぐにUターンし、先人から継承した五城目に息づく文化を活かしたサステナブルな酒造を通じて五城目の魅力を発信している渡邉さんをはじめ、さまざまな方のお話を伺いました。
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田中は、小浜と五城目でのフィールドワークを通じて「持続可能な町には人々の関係性が築かれる仕組み・構造がある」という未来のきざしを発見したといいます。
田中:「小浜と五城目でお聞きしたさまざまなお話を通じて、町の豊かさは自然発生的に生み出されているものではなく、むしろその町に人々の関係性を紡ぐような仕組みがあることがわかりました。このような構築された人々と地域の関係性は、町が持つ仕組みによって持続可能で継続的なものとなっています」
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2年間のプロジェクトの中で人口減少・高齢化が進む社会と向き合い、「人口が減りゆくこれからの日本社会では、外から人を迎えていく必要がある」という現実を実感しました。そこで、3年目のビジョンデザインのプロジェクトとして、「これからの多文化共生」を探索した『多彩な文化のむすびかた』が行われました。
この『多彩な文化のむすびかた』で訪れたのは、多文化共生の歴史が長い兵庫県神戸市長田区です。長田は古くはマッチ産業やゴム産業、戦後はケミカルシューズ産業で栄えた街で、それらの産業の働き手として朝鮮半島にルーツがある人々が多く住んでいた街です。現在では朝鮮半島にルーツがある方は減り、ベトナム・ネパール・ミャンマーなど、アジアの様々な場所にルーツがある方が多く住んでいます。
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長きにわたって、様々な国から外国人を受け入れ続けてきた長田では、生活の中で移住者と元から住んでいた日本人との間に関係性が生まれているといいます。公共施設の案内板には日本語に併せて、中国語、韓国語、ベトナム語などの様々な言語が書かれています。日本以外にルーツがある住民も、案内板の自分の母国語を見ると「自分たちの文化が受け入れられている」と感じるそうです。
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長田でのリサーチを踏まえてKOELが発見した未来のきざしは、「共存・共生にはさまざまなレベルがある」ということです。
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田中は「国籍の違いを乗り越えることに限らず、多様な価値観や背景の人たちが関わることにおいても適用できる」とも語ります。
田中:「未来の社会においては、これまでよりも共存を受け入れていく態度が必要になります。違いを乗り越えてそれぞれが互いの暮らしを豊かにしていくために、共存・共生には様々なレベルがあることを意識していくことが必要になっていくと感じました」
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なお、『みらいのしごと after50』『豊かな街のはじめかた』『多彩な文化のむすびかた』でのリサーチのプロセスについては、以下のnote記事で詳しく触れています。
3年間で見つけた3つの「未来のきざし」
このように、KOELでは、人口減少高齢化を迎える日本の未来について、3つのプロジェクトを行ってきました。
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これらのリサーチを通じて発見したことの一つが「人口減少・高齢化で変わるものは、社会構造そのものと、人々の価値観である」ということです。
田中:「リサーチを始める前は、人口減少・高齢化という問題のうち、高齢化という部分に目が向いていたように思います。しかし、リサーチの中でわかったのは、高齢化によって直接人々の生き方が変わるというよりは、社会構造そのものが大きく変化し、それによって人々の価値観が大きく変化していくということ。そして、その価値観の変化によって人々が暮らしに求めるものが変わっていくということです」
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また、田中は人口減少・高齢化によって小さくなる社会において、豊かさをもたらすものもこれまでの社会とは変わっていくと語ります。
田中:「安定的な経済成長が終わり、徐々に縮小していくこれからの日本の社会における豊かさとは、金銭的なものではなく、地域や人との関係性であることがわかりました。これからの時代では、より多く、より多様な関係性が、より強いセーフティーネットを作り、より自分らしい暮らしを築く土台となっていくと考えています」
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未来の日本においてインフラが果たすべき役割についても見つけることができました。これは、KOELが取り組む「愛される社会インフラのデザイン」においても、大きな示唆を与えてくれました。
田中:「これからのインフラには、暮らしの基盤となる人や社会との多様な関係性を整えるために、利便性だけに注力するのではなく『関係性を育てる仕掛け』を意識できると良いのではないかと思っています」
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ビジョンデザインでは、デザインリサーチの手法を活用し、未来のきざしを集め、これからの社会の姿を洞察することができました。田中はこれらのプロジェクト・知見が事業にもつながっていくといいます。
田中:「3つのビジョンデザインのプロジェクトで得た知見は、社会インフラを支えるNTTコミュニケーションズの一員として、人口減少高齢化が進む社会に向けたデザインに活かしていきたいと思います」
実際に講演を行ったDesign Mattersでは、国内外のデザイナーからKOELの取り組みについてさまざまな反響がありました。
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特に、NTTコミュニケーションズのような大企業のインハウス組織として、事業を見据えながら行っている取り組みへの反響は大きいものでした。事業会社の中でビジョンデザインを継続的に行うような活動について、田中をはじめとするKOELのデザイナーと、国内外のデザイナーとの間でディスカッションを行い、私たち自身も多くの刺激を受けることができました。