デジタルの入り口となるものは何か? デスクリサーチから見えたもの
こんにちは、KOELの徐です。
今年の3月からKOELに参加し、UIデザイナーとしてNTTコミュニケーションズが提供するWebサービスやスマホアプリのUIデザイン、新規サービスのロゴやイベントのキービジュアルなどのビジュアルコミュニケーションデザインに関わるプロジェクトに携わっています。先日のnoteではNTT Designer Meetupのメインビジュアルの制作過程をご紹介しました。
プロジェクトによっては担当領域を超えて、リサーチやコンセプト策定などにも関わることもあります。
「デジタルの入り口」をリサーチする
NTTコミュニケーションズでは、インフラをデザインすることが多く、社会とデジタルの関係性について考えることが多いです。インフラである以上、デジタルに苦手意識があるような人々が取り残されるようなことがあってはいけないと思っています。
DXが当たり前になった未来の社会において、通信インフラを支えてきたNTTグループとして、すべての人がデジタル社会に参画するための「デジタルの入り口」を創り出すために何が必要なのか。どうすれば社会の隅々に存在するデジタルデバイドをいかに解消し、すべての人がデジタル化によってもたらされた恩恵を享受することができるのか——
KOELがこの問いに対する示唆を得るために、まずは「デジタル社会インフラ」に関する既存の事例を通じてインサイトを得るべく、クイックに2週間で、国内外問わずに幅広く事例を集めるデスクリサーチを実施しました。
成功する「デジタル社会インフラ」に備わっている要素と、その中でも特に世の中で成功している事例が兼ね備えている条件を抽出し、世界各国の事例を選定してドキュメントに落とし込みました。グローバルに視野を広げ、さまざまな人がデジタル世界に参画できるようにするために必要なことを確認できるレポートが完成しました。
ここからリサーチの結果とプロセスのふたつについてご紹介します。まずは結果についてです。
デジタル社会インフラに必要な5つの要素
リサーチでは、国内外15件の事例を集めて分析を行いました。すると、デジタル社会インフラに必要な、5つの要素が見えてきました。
成功するデジタル社会インフラに必要な要素
国のガバナンス
インセンティブと便益
データの自由な流通と利活用
官民の相互連携
信頼の獲得
これらの要素について、事例を1件ずつピックアップしながらご紹介します。
1. 国のガバナンス
国家の「デジタルファースト意識」はもちろん、先陣を切って国をあげてのデジタル化が迫られる中、必要に応じて規制改革を効果的に実施するなど、時代に相応しい姿にガバナンスの仕組みをアップデートしていく必要がある。
2. インセンティブと便益
個々がインフラを通して得られるインセンティブを十分に獲得できるかが、普及のためのドライバーとなるかに繋がる。社会的メリットだけ強調するのではなく、個人が知覚する便益そのものが成功の鍵となる。
3. データの自由な流通と利活用
国や行政が保有するデータを民間でも利活用できるようにしていくことで、オープンデータの公開によって、デジタルなプラットフォームへの入り口を創出するきっかけとなっている。
4. 官民の相互連携
行政起点での施策にとどまらず、民間の知恵や既存サービス、保有データを活用することで、トップダウン式・ボトムアップ式を問わず、官民双方の利益を最大化し価値を共創していく取り組みが重要になってくる。
5. 信頼の獲得
デジタル利用に対する信頼感(トラスト)が、結果としてインフラ利用の広がりに直結する。利用者の「不信感」をいかに払拭し、情報セキュリティ体制や安心して利用できる環境を全体で醸成していくのかが求められる。
リサーチのプロセスで重要な3つの意識
ここからは今回のリサーチを行うにあたってどのようなプロセスを踏んだか簡単にご紹介します。このような結果を得るに至ったリサーチの特に事例収集のプロセスで、重要だったことが3つあります。
一つ目は、テーマを常に見返すこと。
リサーチの初期の頃に特に意識していたのが、とにかく情報の「量」を確保することでした。少しでも役に立ちそうな情報だと思ったものは、とりあえずmiroのボードに貼り付けていきます。とはいえ様々な情報が溢れている現在、その情報が今回のリサーチに必要なものなのかを見極めるために、常に原点であるテーマに立ち返ることも重要です。
そのため意識したのは、短い時間の中で情報を読み解き、それを選定した理由を自分の口で説明できるレベルまでインプットを行うことでした。事例自体のインパクトや面白さに流されず、リサーチのテーマにふさわしい情報を選択することが重要です。
二つ目は、信頼できる情報源を探ること。
Webを使ったリサーチでは、膨大な記事の海から見つけたものが信頼できる情報元によって提供されたものかを常に判別する必要がありました。
基本的には経済産業省や総務省など官公庁のオフィシャルな一次情報を参照することを主として、補助的に先行調査をされているコンサルティング会社や総合商社による事例集やニュースサイトなどの二次情報によって情報を補完しながら収集することを心がけました。時には中国語や英語のサイトも参照しながら、情報の信憑性や中立性を確認できた事例を中心にピックアップします。
三つ目は、国や地域の偏りをなくすこと。
デジタルの入り口を新たに作り出すアプローチを模索する際に、日本の枠組みを超えて、海外のデジタル化の事例をリサーチしヒントを探る必要がありました。
「デジタル化の成功事例が存在する地域」というとどうしても先進国を想起してしまいがちですが、新興国や発展途上国にも素晴らしい事例が多数存在しています。コロナ禍でのデジタル推進は世界中のどこの国にでも起こりうることであるからこそ、地域の偏りをなくして取り上げていく必要性を感じていました。
その国や地域の歴史的背景や政治情勢、地政学など、複雑でクリティカルな要因によってデジタル化が進んだ例など、事例を通してその国を垣間見ることができたのも今回のテーマならではの収穫でした。
そしてこれらのポイント全体で気を付けていたのが、自分の中でバイアスをかけてしまわないようにすることです。一定の仮説を持ち、的を絞って検索していくことももちろん必要ですが、リサーチの序盤から思い込みや知的好奇心が影響して事例の方向性が偏りすぎてしまうことを避ける必要がありました。
そんな時にとても心強かったのが、メンバーによる定期的なフィードバックです。KOELのHead of Experience Designの田中さん・デザインリサーチャーの山本さん・UXデザイナーの高見さんに毎日レビューしてもらい、常に軌道修正を行いました。
その中でも「PEST分析」の目線を取り入れるアドバイスは有用でした。事例ごとに「Politics(政治)、Economy(経済)、Society(社会)、Technology(技術)」の4つでカテゴライズを行い、それぞれどのような背景要因があってデジタル化が進んだのか、マクロ環境から事例を見つめることで情報の偏りを防ぐことができました。
このようにリサーチ全体を通して発散と収束を繰り返し行うことで、よりテーマに沿ったインサイトを導き出すための最適な事例を見つけることができました。
分析では、身分証明書にICチップを導入するなど国が主導してデジタル化が推し進められたものや、一方で民間の技術を活かしてボトムアップ式にデジタル化が進んだものなど、施策が打たれたきっかけや背景要因を俯瞰的に見つめ直しました。施策の共通項を見出すなかで、まったく想像がつかなかった国同士が点と点でつながっていったり、新型コロナウイルスの世界的なパンデミックの最中で国家ごとの対応の違いが見えてきたりと、新しい発見の連続でした。
また、メンバーと議論を重ねる中で、一つのサマリーに対して一番相応しい事例が提示できていなければ追加で事例を探したりと、より説得力のあるレポートにするプロセスをチームで推進できたことが嬉しかったです。
こうして幅広く偏りなく得られた事例たちを分析して得られたのが冒頭のアウトプット、「デジタルの入り口に必要な5つの要素」です。
今回のリサーチは、組織再編をきっかけに人とデジタル社会の接点を考える重要性がさらに高まったKOELやNTTコミュニケーションズにとって、非常に価値のあるものになったと考えています。
KOELが提供するデザインは「強引に使わせるのではなく、進んで使われる」ことを常に意識して行われています。今後もデジタル社会インフラを支えていくNTTコミュニケーションズの一員として、様々なプロダクトやサービスとユーザーの接点を考える上で、「デジタルの入り口」がある種の "約束" となるようなものに位置付けることができるのではと感じました。
領域を果敢に超える、KOELの仕事の幅広さと楽しさ
一般的にUIデザイナーの担当領域をイメージすると、主にUXデザイン5段階モデルの「表層」から「骨格」あたりを担うことが多いと思います。しかしKOELでは、プロジェクトによってUIデザイナーが上流の工程から参画することも多くあり、案件の性質やメンバーの伸ばしたい領域によって、今回のように得意領域を超えて仕事に挑戦する機会が多数存在しています。
ここまでデジタル社会インフラについて考えるきっかけとなったリサーチについてご紹介してきましたが、この記事を通して少しでもデスクリサーチのプロセスやKOELが関わるプロジェクトの内容に興味を持っていただけたら幸いです。