フィールドワークで出会った長田の方たちと訪れた場所——共創プロジェクト「多彩な文化のむすびかた」(3)
こんにちは、KOELのUIデザイナー 徐 聖喬です。
前回では、今回ビジョンデザインプロジェクトのテーマ「多彩な文化のむすびかた」とフィールドワークの事前準備についてお話しさせていただきました。
この記事では兵庫県神戸市長田区で出会った方々のお話と、長田の多文化共生を支える拠点施設や場所についてご紹介したいと思います。
2023年5月と7月の二度にわたり、私たちは今回のテーマについて考えるヒントを得るため、神戸市長田区でフィールドワークを行いました。合計4日間の日程の中で、長田で活動する団体「多文化・多言語コミュニティ放送局 - FMわぃわぃ」代表理事の金 千秋(きむ ちあき)さんのコーディネートのもと、株式会社リ・パブリックのメンバーとともに長田の土地に触れ、歴史を知り、そして生活をしている人々にお会いしました。
長田で出会った方々
外国人を受け入れ続けてきた歴史を持つここ長田では、異なる時期に様々な国から日本に移住してきた方々がこの地に定住し、もとより住んでいた日本人との間で生活の中で関わりを持ちながら、深い関係性を築いてきました。
移住した背景やステータス、長田での暮らしを始めた時期は実にさまざまですが、私たちは海外からの移住者とその家族や子孫の方々、それから長田の土地で移住者を受け入れる現場に携わってきた方々の両方にお話を聞きました。
フィールドワークで出会った人たちは、「日本人」と「外国人」のような括りではなく、共に同じ土地で暮らし関わり合う人間として、大きくこの3つのグループに分けることができました。
1. 海外からの移住者や外国にルーツを持つ人の生活を支援している人
公益財団法人神戸国際コミュニティセンター(KICC)や「地域とともに進める多文化共生の拠点施設」を理念に掲げるふたば国際プラザなど、長田に拠点を置く外国人支援団体では、日本語の学習支援や外国人留学生への食糧支援、子育て支援などを含めた、初めての土地で暮らし始めた外国人に、生活のあらゆる側面でのサポートを行っていました。
海外からの移住者が日本での生活に馴染んでいけるよう、最低限必要な日本語や生活のルールを学べる機会の提供や、受け入れる側との交流を生むための場づくりは、日本人も含めた地域全体がより暮らしやすくなるための活動や支援と捉えることができます。
ただ「支援」だけで終わってしまうと、支援を「する側」と「される側」の一方通行的な関係に留まってしまいます。そこで、支援から一歩進んだそれぞれの方が考える理想の多文化共生の姿についても伺いました。具体的には、地域のコミュニティの中で行政が関与しなくとも、海外からの移住者たちが孤立しにくい環境があること。そして意思決定をする場に日本人だけではなく、外国人が関わっている状態であること。
日本の中でも多文化共生が特に進んでいると思い込んでいた長田の方々から出た、目指すべき姿に向けてまだまだ道半ばであるという言葉にはとても驚かされました。
長田に拠点を置く数々の団体の中には、1980年代以降に様々な経緯によって来日した中国人やベトナム人などに対しての支援を行っている団体もあれば、それ以前に朝鮮半島から日本に移住してきたコリアンルーツの方々とその家族や子孫の社会的な支援を行ってきた団体もあります。
どちらにも共通しているのが、海外からの移住者たちが日本で暮らしを営んでいく上で、社会からこぼれ落ちないよう、一人ひとりに歩み寄った支援を行っているということです。
海外からの移住者1世の場合、言葉の壁やビザの取得問題など生活に直結した課題に直面する一方で、2世や3世の場合は社会的な差別や自身のアイデンティティに悩むなど、親世代とは異なるレイヤーの問題に直面してきました。
生まれた時代背景や置かれた状況が千差万別の中で、移住者の方々が立ちはだかった苦境は容易に図り知れるものではないということを、同時に知らされました。そんな中で長田にあるいくつもの市民団体は、必ずしも日本人が外国人を支援する団体だけではなく、一部は当事者団体として、日本で生活をすると決めた海外からの移住者の暮らしを支えてきたのです。
多文化共生の目指す姿について伺ったところ、日本人側の意識改革が必要という意見だったり、ゴールはそもそもなく、不断の努力をしている状態が多文化共生という言葉を耳にしたときは、日本に暮らす誰しもが向き合い続け、考えていくべき課題なのだと深く感じさせられました。
2. 長田で暮らす海外からの移住者や外国にルーツを持つ人
今回のフィールドワークでは、長田に居住する海外からの移住者や、日本以外の国にルーツを持つ方々にもお話を聞くことができました。ここ長田はもともとゴムなどの製造業が盛んな地域で、1980年以降は特にケミカルシューズ(神戸シューズ)産業の労働力を補うために、ベトナムを含む海外からの移住者を受け入れてきました。「ボートピープル」と呼ばれるベトナム戦争難民の子孫や技能実習生など、日本に来た時期や背景は人によって実に様々ですが、彼らがどのようにして「地域との接点」を作り出してきたのか、ベトナムの方々を中心に探りました。そこで、2つの「接点」に気づくことができました。
まず一つ目は、「職」を通じた接点です。スキルや労働力を提供することで、製造業や漁業など地域に根付いた産業に自ら働き手として貢献しているパターンです。特徴的だったのは、一つの産業や業界だけに従事するのではなく、複数の「職」を身につける柔軟な働き方を通して、地域との接点を増やしていることでした。
二つ目は、「場」を通じた接点です。日本語とベトナム語の本が置かれた小さな図書館を自宅の前に設置したり、ベトナム料理に使う野菜を栽培した「多文化共生ガーデン」を住宅地の中で運営するなど、地域に溶け込んだ形で、国籍や人種関係なく集まれる場所を提供していました。移住者が周囲に何かを「与える」立場になっていたことで、地域との接点を見つけられていたのかもしれません。
3. 長田での暮らしの中で、海外からの移住者や外国にルーツを持つ人と関わりを持っている人
長田でのフィールドワークでは、外国人を雇用している日本人の方々にもお話を伺うことができました。どれも共通して見えてきたのが、「国籍」ではなく、「できること」に目を向けて、共に働いているということです。
お話をしていく中で「たまたま」という言葉をよく耳にしましたが、偶然出会った人が外国籍であっても、能力や人間性が求められるポジションとマッチしていれば、日本人か外国人かは関係なく、働く仲間として雇用していました。
さらに深掘りをしていくと、人口が減り続ける日本で労働人口として外国人を受け入れていく必要があるという意識と、自分が住む地域全体をよりよくしていきたいという思いが、彼らの根底に存在するようでした。
一方、前述のような雇用関係ではなく、共に地域づくりをしていく仲間として、海外にルーツをもった人と関わりを持つ方たちもいました。
話を聞いていくと、国際交流活動のような取り組みを行っているのかと思いきや、普段の伝え方や考え方を少し変えることで、「共生」に向けた努力を絶え間なく続けているように見えました。例えば外国人が「ご近所さん」という距離感にまで達した時に、暮らしの伴走者として、頭ごなしに日本のルールを説明するのではなく、例えばゴミを分別するルールは環境汚染を防ぐためや資源のリサイクルを行うためにあるのだという、ルールの背景にある「なぜ?」を丁寧に伝えることや、誰しもが共に暮らす社会の一員として受け入れてもらえた実感が持てる環境を作ることが挙げられます。
そのような環境を作るためには、一人ひとりが自己と他者の生まれ持った違いを認識し、その人の背景について考え、関わりを持つこと、それが共生への第一歩だと感じました。
根底にあるのは、海に面した長田が海外からの移住者を受け入れてきた歴史と、阪神・淡路大震災を経験した長田の人々がもつ強い精神性があるように思いました。
長田の多文化共生を支える拠点施設や場所
ここまで長田で出会った方々をご紹介しましたが、今回の旅の中で訪れた、長田の多文化共生を支えてきた拠点施設や場所について、いくつかご紹介したいと思います。
外国人の割合が2023年に人口の8%に達するなど、兵庫県神戸市の中でも中央区についで高い長田区では、公益財団法人の「神戸国際コミュニティセンター(KICC)」や多文化共生の拠点施設「ふたば国際プラザ」など多数の団体が存在し、海外から来られた方々が日本で安心して暮らしていくための行政サービスや生活ガイダンス、交流の場を提供しています。
民間の市民団体も数多く存在する長田では、阪神・淡路大震災を機に設立された「たかとりコミュニティセンター」や「神戸定住外国人支援センター(KFC)」など、地域に住む様々な文化背景をもった人たちが共生し、よりきめ細かいサポートや生活に根ざした取り組みを行っています。中には「多文化共生ガーデン」などといった、移住者の有志によって自発的に立ち上げられたスポットもありました。
長田でのフィールドワークを終えて
長田でのフィールドワークを終えたあと、私たちは一つひとつの出会いを振り返り、人口減少が進んだ日本の未来像を考えるための材料を拾い集め、整理していきました。歴史や文化、政治など、複雑な要素が絡み合うテーマではありましたが、互いの違いを認め、「個」を大切にするということは、どのコミュニティにいても必要なことではないでしょうか。
多文化共生にゴールはなく、個々の自分らしさを大切にしながらも、絶え間なく議論を重ねお互いの心を通い合わせる必要があるということを、このフィールドワークを通して何より深く思い知らされました。そして旅の中でお話をしてくださった方々、お会いできた方々に、感謝の意を表したいと思います。
次の記事では、今回のフィールドワークを通して見えてきた「多彩な文化のむすびかた」の気づきについて、ご紹介したいと思います。
ぜひ、続けてお読みいただけると嬉しいです。
撮影協力:岩本 順平(一般社団法人DOR)
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