
学校現場で活用が進まないなか、デジタル教科書が正式な教科書へーデジタル教科書の現状
令和7年2月、文部科学省がデジタル教科書の普及状況と課題についての中間まとめを発表しました。この発表によって、遅くても次に学習指導要領の改訂が実施される2030年度(令和12年度)までにはデジタル教科書を紙と同じように正式な教科書に位置付ける方針が示されました。
デジタル教科書は、紙の教科書に変えて使用できる教材として令和元年度から制度化されています。その後、令和3年度から実証事業として、令和6年度からはすべての小学5年生から中学3年生に対して英語、一部の小学校・中学校に対して算数・数学のデジタル教科書が導入されています。
デジタル教科書の現状
文部科学省は、デジタル教科書の導入において「主体的・対話的で深い学び」や「個別最適な学びと協働的な学び」を重視し、GIGAスクール構想の一環として推進しています。
現在のデジタル教科書は、紙の教科書の内容をそのままデジタル化したものを「教科書代替教材」として位置付けています。あくまでも代替教材のため、使用義務や検定義務、無償給与等の対象外で、紙と併用して使用されています。
教科書のページ数は年々増加しており、それが学校現場の負担のひとつとなっています。そのため、文部科学省はデジタル教科書を導入するにあたり、デジタル学習基盤を前提とした新たな学びにふさわしい教科書の内容・分量が論点だと考えています。
ところで、デジタル教科書のメリットにはどのようなものがあるのでしょうか。たとえば次のようなことが挙げられます。
英語の発音を自分のペースで何度も確認できる
算数の図形やグラフを動かして試行錯誤できる
教科書に繰り返し書き込める
瞬時に共有できる
こうしたメリットがあることから、学校現場からはこれまではできなかった個別最適な学びや協働的な学び、授業改善や資質・能力の育成につながったという声も挙がっています。
さらに、デジタル教科書は文字の拡大、色の変更、音声読み上げ、ルビを表示できるなどアクセシビリティ機能が充実しています。そのため学習上の困難さが低減され、文字を読むことが困難な障害であるディスレクシアの子どもや色覚障害の子ども、外国籍の子どもなども学習の理解を深めやすくなっています。
その一方で、環境面の課題としてアカウント設定やフリーズ対応、活用面の課題としては効果的な活用方法に関する情報不足が指摘されています。
また多くの保護者が心配している健康への影響については、専門家は紙かデジタルかを問わず長時間継続して近距離で注視することは避けるべきとしています。
これからの「デジタル教科書」のあり方は?
文部科学省は、新たな学びの実現には教育現場の創意工夫を最大限生み出す環境が重要だと考えています。そのためデジタル教科書を導入するにあたり、基本的な方向性として社会の急速な変化やさまざまな教育ニーズに対しても柔軟に対応できる制度を設計する必要があると考えています。
また、「紙」もしくは「デジタル」といった二項対立に陥ることなく、教育の質を向上するために児童生徒の実態等に応じて、紙とデジタルの両方の良さを適切に取り入れ、生かしていくべきだと考えています。
さらに活用状況や学校・学年、教科の違い等も踏まえたうえで、全国一律の対応ではなく、さまざまな選択肢を用意し、一部が紙、一部がデジタルで作られたハイブリッドな形態の教科書も認める方針としています。
進まないデジタル教科書の活用
文部科学省がデジタル教科書を正式な教科書として導入する方針を進めている一方で、学校現場ではデジタル教科書の活用が思うように進んでいません。
財務省の調査によると、令和6年3月の段階で、デジタル教科書を「毎授業で使用」と回答した教員の割合は、英語で18%、算数で13%、数学で8%に留まっています。

また同調査によると、「デジタル教科書のみ」を使用していると回答した教員は英語、算数・数学いずれにおいても3%から4%に留まっています。その一方で、いずれの教科においても合計して6割から7割が「紙のみ」および「デジタル・紙を併用しているが、紙が多い」と回答していることが分かりました。

財務省(最終閲覧日:2025.2.28)
では、どのような理由でデジタル教科書を使用していないのでしょうか?
この調査では、「デジタル教科書を毎授業で使用しない理由」を複数回答可能な質問で尋ねています。その結果、「デジタル教科書の機能を使わない場合は、紙の方が使いやすいため」と回答した教員がもっとも多いことが分かりました。そのほかにも「デジタルを使うと児童生徒が授業に集中できなくなるため」「紙もデジタルも内容が同じであるため」といった回答も一定数いることが判明しました。

さらにデジタル教科書をよく使うと回答した教員に対し、その使用感を複数回答可能な質問をしたところ、「デジタル教科書を使うことで資料作成等の授業準備が短縮した」という回答や、「プリント配布等の作業負担の軽減につながった」という回答が多く見られました。

デジタル教科書の方が理解が深まる?
令和5年11月、文部科学省が全国の小学校中高学年および中学生を対象にデジタル教科書の効果・影響を調査しています。 この調査で、学習者用デジタル教科書を使用した児童生徒に対し、使用頻度と授業内容の理解との関連を質問したところ、「いつも使う」グループはほかのグループに比べて、授業内容の理解について「当てはまる」と回答した割合がもっとも多いことが分かりました。

アビームコンサルティング株式会社(最終閲覧日:2025.2.28)
ただこの調査では、「どの教科で、どれくらいの時間、どのように活用したのか」という視点での調査は行われていません。また、実証実験を行ったわけではなく、児童生徒に対して印象を尋ねたにすぎません。
こうしたことから、デジタル教科書の導入に対して「いかに導入するか」に主点が置かれ、「デジタル教科書を導入することによる弊害やリスクはないのか」という視点がおざなりになっていると考えている専門家もいます。
さいごに
文部科学省は、次の学習指導要領の改訂が行われる令和12年度をめどに、デジタル教科書を正式な教科書として採用する方針を固めたことを発表しました。
デジタル教科書には、英語の発音を自分のペースで何度も確認できたり、算数の図形やグラフを動かして試行錯誤できたりするといったメリットがあります。また、文字の拡大や音声の読み上げができるなど、配慮が必要な児童生徒の困難が軽減できるというメリットもあります。
教育現場におけるテクノロジーの使用について、特定の学習が改善されたことをユネスコも認めています。しかし一方で、国際学習到達度調査 (PISA) などの大規模な国際評価データでは、ICT の過度な使用と生徒の成績の間に負の関連があることを示唆しているなど、悪影響を及ぼす可能性があることも示しています。
koedoでは、教育現場にどのようにテクノロジーが浸透していくのか、引き続き定点観測を続けていこうと考えています。
【参考】
デジタル教科書推進ワーキンググループ 中間まとめ/中央教育審議会初等中等教育分科会 デジタル学習基盤特別委員会
デジタル教科書推進WG中間まとめ(概要)/文部科学省
大規模アンケート調査等の実施による 学習者用デジタル教科書の効果・影響等の 把握・分析等に関する実証研究事業 成果報告書/アビームコンサルティング株式会社
IT先進国のスウェーデンが脱デジタル教科書、ICT機器の利用は「適切に」/株式会社TERADA.LENON
![「教育×IT]を定点観測するwebサイト【koedo】](https://assets.st-note.com/img/1740722128-ZKyveu1sTNDJMwYEV6IP4Umd.jpg?width=1200)