
「フリーランスは売上1000万超えたら法人化したほうがいい」は本当か?
はじめに
※本記事は、ファイナンシャルプランニング技能士(FP)の資格を有する著者によるものです。仮定の金額における一般的な税額について計算したもので、個別具体的な税額についてこれを保証するものではありません。
売り上げ1000万円は法人化?
こんにちは、FP2級エンジニアのかじひろきと申します。私は10年ほど個人事業主として仕事を続けた後、インボイス制度や妻の仕事など色々な理由があって2023年に法人化をしました。まだ1期目を終えたばかりではありますが、結果的に法人化してよかったなと思っています。
法人化するかどうか考えたり調べる中で「売上1000万円を超えたなら法人化した方が良い」という噂のようなものをよく目にしました。ただ、これ本当かなぁ??と疑問が湧いたので、ここで自分なりにまとめてみることにします。
法人化のラインは1000万円より低い説
結論から言いますと、1000万円という売上は「あまり」関係が無いと感じました。むしろ安定した所得が4~500万円くらいあり、事業を長く続けていく予定なら、すぐに法人化しても良いのでは?と思います。
まずこの売上1000万円という数字はどこから来ているのか。おそらく「消費税の課税事業者」となるボーダーラインからでしょう。個人・法人にかかわらず、売上が1000万円を超えた事業者はその年の2年後、消費税の課税事業者となり、課税売上に対して消費税を納める必要があります。
この2年という猶予期間のうちに法人化すれば、個人とは別の新たな事業者となり、消費税の課税事業者という判定がリセットされるされるような形になります。このリセット期間を最大限活かすということ、事業規模的にも売上1000万円なら法人化してちゃんと経理業務をするべき、という点から「1000万円は法人化」という言説が生まれたと予想できます。
しかし、1000万円以上売り上げがあれば法人でも結局3年でまた課税業者になりますし、インボイス制度によって課税事業者を選択する場合はそもそも初年度から免税事業者とはなりません。
売り上げ1000万円を超えたら確かに法人化した方が良い。ただし、超えないうちは法人化すべきではない、というわけではなく、「所得」を軸に見ていくともっと低い売り上げのうちから法人化しても良いのでは?というのが私の見解です。
所得税の視点から
1000万円の売り上げというのを一旦忘れて、所得がどれくらいなのかを考えてみると、別の景色が見えてきます。はじめに所得500万円で個人・法人それぞれの所得税額を計算してみましょう。法人の場合は、利益を全て個人の給与とした場合(法人の利益は0)で考えます。
まず所得税の課税対象となる、課税所得金額を計算します。共通して差し引かれる基礎控除を引き、法人は給与所得控除、個人は青色申告をしていると仮定して、青色申告特別控除がそれぞれ引かれます。

この金額から所得税額を計算すると、個人事業主は34万円、法人成りした一人社長には21万円の所得税がかかります。年間10万円以上差が出てくる計算です。実際は家族構成に応じた扶養控除や社会保険料控除、生命保険料控除などが適用されるため実際はもう少し金額の差は縮まってきますが、毎年出てくる差としてはそこそこ大きい金額ではないでしょうか。
所得金額がもう少し低い場合の所得税額は、それぞれ下の表のようになります。400万円を下回ってくると所得税の差も5万円を割ってくるので、そうなると所得税の観点からは法人化するうまみも減っていきます。

この差は毎年、所得税という制度がある限り続きます。業種によっては消費税の3年というタイミングを意識するよりも、毎年かかってくる所得税の差を考えた方が、トータルで見た時に負担が軽減されるかもしれません。
結論まとめ
売り上げが1000万円を越えなら、確かに法人化した方が良い。ただ、1000万円を越えなくても、所得がコンスタントに4〜500万あるなら法人化しても良いのでは?というのが私の結論です。
良いのでは?としたのは、他にも比較検討するべき要素が色々あるからです。それらを踏まえると色々なケースが生まれて複雑になるためここでは割愛しましたが、以下に簡単ですが触れておきます。
その他の比較対象について
社会保険料
法人化すると、一人法人でも国民年金・国民健康保険から厚生年金・健康保険へと加入する社会保険が変わります。一般的に後者の方が高いため、法人化すると負担は増えます。
ただし、当然保障は手厚くなりますので、ここはそれぞれのリスク許容度に応じた判断が必要となるでしょう。年金は老後だけじゃなく、障害を負った際なども保障されます。以下に国民年金と厚生年金の比較などを記した記事を書いていますので、参考にしてみてください。
個人事業税と法人税・法人事業税
上では個人の所得税について試算しましたが、年間で290万円を超える事業所得がある場合、個人事業税がかかってきます。下記のシミュレーターで計算することができます。
一般的な職種で、事業所得と不動産所得の5%が個人事業税として課税されます。
一方、法人は利益を会社に残した場合、法人税や法人事業税などがかかってきます。これらはおおよそ30%程度が実効税率でかかってくるので重く感じますが、個人事業税は自身の生活費なども含めた事業所得に課税されるのに対し、法人税は黒字分(正確には益金)にのみ課税されます。
退職金
法人であれば、仕事を引退する時、会社から退職金という形でお金を引き出すことができます。この時のお金は退職所得といって勤続年数に応じた所得控除(20年までは40万円、20年以降は70万円)が適用されます。
将来退職金をよりお得に積み立てたいのであれば、早めの法人化は大きなメリットとなります。
個人事業主であれば近い制度としてiDeCoがありますが、積み立ての限度額が月6万8千円と決まっていること、途中で引き出したり解約することができない事を考えるとキャッシュの機動性に難ありと言えるでしょう。
結局人それぞれ!
法人と個人事業主のメリット・デメリットはそれぞれ多岐に渡り複雑がゆえ「1000万円は法人化」という分かりやすいフレーズがあるとみんな安心できるのだなと感じました。私自身、なんとなくでこのボーダーを信じていた時期もあります。結局のところ、皆さんそれぞれの人生フェーズや事業形態によって各要素の重み付けは変わってきます。本当にしっかりとした結論を出したい方は、一度税理士さんに相談してみるのが良いでしょう。