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【特集】『ぶらどらぶ』血祭血比呂役・朴璐美インタビュー「自分のDNAとはいったい何なのか。」

Amazon Prime Videoほかにて現在配信中の押井守氏が総監督・原作・シリーズ構成を手がけた新作アニメ『ぶらどらぶ』。本作は、献血マニアの女子高生・絆播貢(ばんば・みつぐ/CV:佐倉綾音)が、美少女吸血鬼のマイ(CV:日高里菜)に血液をあたえるため学内に献血部を設立する学園コメディ。

KOE NOTEでは、『ぶらどらぶ』(全12話)の配信を記念し、混乱と騒動に血が騒ぐモラルなき保険医、血祭血比呂(ちまつり・ちひろ)役を演じる朴璐美さんにインタビューを実施した。

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“闇”を持つ役者の魅力

ーー 『ぶらどらぶ』の全話配信が開始され私も拝見したのですが、どこか昭和の香りがするような懐かしさを覚えました。朴さんにとって本作はどのような印象の作品でしたか。

『ぶらどらぶ』は、知識を持った大人たちが思う存分に自分の趣味をさらけ出して遊んでいるような印象でした。押井守さんの独特なノリやテンポ感もあり、言っている内容は昭和っぽくも“普遍性”をテーマにした作品だと思うので、途中からは古さを感じることはありませんでした。

ーー 朴さんが演じられている血祭血比呂をはじめ、キャラクターの個性が全員尖っていて、役者さんのお芝居を聴いていても面白いなと感じたのですが、押井総監督からアフレコ時に何かディレクションはあったのですか。

この現場は出演するキャストがみんなしっかりしていて、かつお芝居に貪欲な子ばかりだったので、割と「お好きにどうぞ」という感じだったんです。だからみんな「マイク前で開放していいならやっちゃいます!」みたいな雰囲気があったと思います(笑)。

ーー いち段リミッターを外した舞台演劇のような感じもしました。朴さんは舞台でもご活躍されていますが、アニメと舞台のお芝居の違いをどのように考えられていますか。

アニメーションや吹き替えのお仕事は、画面の対象に合わせてその情報を加味しながらお芝居を組み立てるのですが、舞台では合わせる対象や尺がなく、タイミングも自分の間で勝負ができるので、そのぶんお芝居も開放的になれるのかなと。

何よりも大きな違いは、舞台ではお客様が目の前にいて、どのように感じているのかが空気感で伝わってくるんです。そのお客様と一緒になりながら、作品の世界へ誘う役割に徹することができるというか。

ーー お客様が目の前にいることで、お芝居のアプローチも変わってくるのですね。

そうですね。舞台では「お客様と一緒にその瞬間を完結させる」。アニメでは「お客様に私たちがやっていることを届け、それを見ていただくことで完結させる」という時間的な違いがあるのかなと思います。

ーー その違いはたしかに大きいですよね。あとは以前に別作品の取材で朴さんにお話を伺った際、「闇深い役者が好き」と仰っていたのを『ぶらどらぶ』を見ながら思い出して。今回あらためてその役者が持つ“闇”について深掘りしてお聞きしたいなと思っていたんです(笑)。

本当ですか(笑)。私は「自分は“闇”を抱えています」という役者さんが、そのスイッチを押した瞬間に吐き出す“毒”のようなお芝居に色気や魅力を感じるんです。「一般的な社会の横のルールからははみ出してしまうけれど、縦にあるフィールドは駆け回れる」という人の方が信じられるし、素直で面白い。

もちろん“闇”を持つ役者さんで横のルールも守れる人はたくさんいるのですが、本音では「縦に進みたい」という想いを持っていて、その縦を掘り下げた時に出てくるものを見たいと思うんです。『ぶらどらぶ』のキャスト陣もみんな良い“闇”や“毒”を持っていて、私の大好きな役者さんばかりでした。

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コロナ禍のリモート稽古で見えてきた面白さ

ーー 『ぶらどらぶ』のアフレコはコロナ禍前に行われたかと思うのですが、現在のお仕事の状況と比較したときどのような変化を感じますか。

私は以前から一人で収録する機会が多かったこともあり、コロナ禍で分散収録になってからもやりづらさを感じたことはなかったのですが、スタッフさんたちは本当に大変で。これまでスタジオに30人ほど集めて収録できていたものが、1〜2人ずつに絞ってやらなければいけないので、その労力は相当なものに感じます。

声の仕事はまだそれでもやれているのですが、舞台の方ではこれまで必要なかったPCR検査や感染対策のほか、稽古中もマスクをしながら行うので相手の表情もわからないんです。私の旦那さん(山路和弘さん)も今ミュージカルの稽古で8時間以上マスクをしたまま歌っていて。

私も1月末まで朗読劇が続いていたのですが、ZOOMで一度稽古をしていきなり本番という作品もあったり、席数を半分に絞って公演しなければならなかったりと、とにかく大きな影響を受けています。

ーー 朴さんが主宰されているボイススクール「studioCambria」でのレッスンも現在リモートで行われているんですよね。

「studioCambria」では声優を目指すことよりも、「人としっかり目を見て会話ができるようになることが役者になる一番近道である」と提唱してきたので、私自身もこれまで「対面以外のセッションはありえない」と思っていたんです。

そこからZOOMでやらざるを得ない状況になり、とりあえずやってみたところ、画面に全員の顔が並ぶので、これまで対面稽古で前に出るタイプではなかった生徒の顔までよく見えるようになって。

逆に対面の場合はテンションや声の大きさでごまかせていたものが、ちゃんとやらないと嘘がばれるようになったんです。たとえば、呼吸をひとつ「ふう……」と吐けていたのかどうかもわかるんですよ。

そうしてこれまで目立っていた生徒の足りないものが見えてきたり、対面ではコミュニケーションがうまくできなかった生徒がいきいきと自分のやりたいものを持ってきたり。このことは私の中で大発見でした。

対面ではどうしても舞台に寄ったセッションになるのですが、リモートになってからはその枠組みがなくなり、与えた課題に対してみんながそれぞれの手段を駆使して答えを持ってくるので、鬱屈した彼らの日常が見えてきて、逆にこの環境のおかげですごく面白くなったという実感があります。

ーー リモート環境が生徒のみなさんにとってある種の実験場として機能したのですね。

そうですね。リモートであればマスクをする必要もないですし、今となっては対面でやれることの方が限られていたのかなと思うようになりました。たとえば、対面の発表となると「エチュード(即興劇)をする」くらいしか選択肢がなかったのが、自分が考えてきた作品を演じたり、切り絵や漫画にしてみたり、落語にしてみたりと多様性が生まれて。私自身も表現の方法はひとつではないのだと学ばせてもらっています。

ーー 鬱屈とした状況だからこそ、役者としての良い“闇”が育まれているというか。

本当にそう思います。コロナが変えた日常の景色を役者として今感じるべきであり、それが与えてくれたものが同時にあるのだと。プロ・アマ関係なく自分たちで発信していくことができる時代なので、彼らのする表現をこれからも応援していきたいなとすごく思います。

自分のDNAとはいったい何なのか。

ーー 以前朴さんのTwitterで『「好き」「憧れ」と「ここでしか生きられない」はだいぶ根っこが違うという』という言葉を拝見して、その考えにすごく共感したんです。その仕事で生きていくことへの覚悟の差というか。

特に表現の分野においては、伝えるべきことがあるからやるもので。私も役を演じる際に「これは私が今やるべき役だ」とか「こういうことを伝えたいからやるんだ」と考えるんです。

好きだからやりたいことは自分で好きなようにやればいいし、重心の置き方も片足で立ったりと自分で比重を決められる。だけど「ここでしか生きられない」という人は、そこに根付いて両足で体を支えないと立っていられない。

だから畠中祐さんや梶裕貴さんや宮野真守さんを見ていると、本当にここで魂を燃やすことでしか生きられないんだなと思いますし、オーディションなどでお芝居を見たときにもその圧倒的な差を感じます。

ーー 視聴者目線から見ていても、やはりそういった役者さんのお芝居は率直に面白いなと感じます。

逆にここでしか生きられないから、不憫な生き物でもあるんですけどね(笑)。

ーー すごくわかります(笑)。私のようなインタビューを生業にしているライターも、昨年コロナ禍になった直後は取材ができない状況になり、今のようにリモートで行うという発想もなかったので、これから表現活動ができなくなったら何を生きがいにしていこうか……と悩んだ時期もあって。

本当に昨年の今頃はどうなるのかわからなかったですからね。だからこそ「エンタメとは何か」ということを深く考える機会にもなりましたよね。

ーー 『ぶらどらぶ』は“血”がテーマとなっていますが、どのような状況でも心臓の鼓動を止めずに表現に向き合うことが生きていくためには不可欠で、先人が積み上げてきたエンタメという文化を今絶やすことなく繋いでいかなければと。

そうですね。緊急事態宣言下にエンタメは必要ないのかもしれないけれど、生き続けるためには不可欠なもので。何より表現をすると、自分の血が騒ぐんですよね。朗読劇を一緒にやっている劇作家の藤沢文翁さんにも「朴さんのその声は“血”だからね。」と言われるんです。

自分のDNAとはいったい何なのか。『ぶらどらぶ』には押井守さんのそんなメッセージが含まれているのかなと思います。

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インタビュー・文:吉野庫之介

アニメ『ぶらどらぶ』作品情報

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■見放題配信
ABEMA / Amazon Prime Video / dアニメストア / dアニメストア ニコニコ支店/ dアニメストア for Prime Video / FOD / Hulu / J:COMオンデマンド / milplus/ TELASA / TSUTAYA TV / U-NEXT / あにてれ / アニメ放題 / バンダイチャンネル/ ひかりTV / ふらっと動画

■レンタル配信
Amazon Prime Video / DMM.com / FOD / GYAO!ストア / Google Play/ HAPPY!動画/ J:COMオンデマンド / milplus / music.jp / Rakuten TV / TELASA/ TSUTAYA TV/ VIDEX / YouTube(レンタル)/ ゲオTV / ニコニコチャンネル/ バンダイチャンネル / ひかりTV / ビデオマーケット / ムービーフルPlus

■ストーリー
重度の献血マニアの女子高生・絆播 貢(ばんば みつぐ)。
足繁く献血車に通っては、看護師に邪険に扱われる日々……。
そんなある日、献血車で外人(?)の美少女と遭遇する。
青白く今にも倒れそうな彼女は、血を抜かれそうになった瞬間、豹変し献血車を破壊!
貢は、意識を失った少女を、なんとなくの勢いで保護し、家に連れ帰ることに……。

■キャスト
絆播 貢役:佐倉 綾音
マイ・ヴラド・トランシルヴァニア役:日高 里菜
血祭 血比呂役:朴 璐美
渡部 マキ役:早見 沙織
墨田 仁子役:日笠 陽子
雲天 那美役:小林 ゆう
紺野 カオル役:高槻 かなこ
勝野 真澄役:三宅 健太
岡田役:石川 界人
神原役:綿貫 竜之介
堀田役:木内 太郎
マイのパパ役:岩崎 ひろし
貢のとーちゃん役:中田 譲治

■スタッフ
製作:いちごアニメーション
総監督・原作・シリーズ構成:押井 守
監督:西村 純二
脚本:押井 守・山邑 圭
ビジュアルデザイン:水野 歌
キャラクターデザイン:新垣 一成
色彩設計:梅崎 ひろこ
美術設定:加藤 靖忠
美術監督:小幡 和寛
美術:smartile
音響監督:若林 和弘
音響効果:山田 香織
録音調整:今泉 武
音響制作:Production I.G
音楽制作:AUBE
音楽:川井 憲次
アニメーション制作:Drive
アニメーション制作協力:Production I.G
制作:コミックアニメーション

■ オープニング主題歌(貢Ver)
アーティスト名:BlooDye
楽曲名「Where you are」
作詞:Daisuke “DAIS” Miyachi、LITTLE
作曲:Daisuke “DAIS” Miyachi
編曲:Yuichi Ohno
RAP:LITTLE (KICK THE CAN CREW)

■ オープニング主題歌(マイVer)
アーティスト名:LOVEBITES
楽曲名「Winds Of Transylvania」
作詞:asami
作曲:asami & Mao
編曲:LOVEBITES & Mao

■ エンディング主題歌(血比呂Ver)日本国内配信版
アーティスト名:alan & Ayasa
楽曲名「赤い雨」
作詞:川村 サイコ
作曲・編曲:ZENTA

■ エンディング主題歌 (Ayasaインスト)海外配信版
アーティスト名:Ayasa
楽曲名「新月」
作曲・編曲:井上 泰久

(C)2020 押井守/いちごアニメーション


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