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奥行きの短いコンパクトATXケース「XPG VALOR AIR」はどこまで詰め込めるのか?

全世界305*244億人のATXマザーボードユーザの皆様こんにちは。たぶん地球上では居住地域が足りないので、月の裏側に移住することになりそうです。ガンダム? 私はエヴァ派です。香月です。

というわけで、またケースを調達しましたよってな具合に今回も重箱の隅をドライバーでつつくが如く、色々と見ていきながら組み立てをした内容からレビューをお送りします。

そもそもなんでケース増やしたよ:内部パーツのサイズ的制限が出ちゃった

CoolerMasterの変態小型ケース。未だにレビュー記事が人気です

元々はVR向けに使用していたPCでしたが、VRの使用頻度が大幅に低下した事、ちょうどそのタイミングでレースシムやラリーシムに復帰した事もあり、ソフト・ハード両面でそのまんまレースシム用に再配置したPC。ATX対応のクセにMicroATXケースとまんま同じ寸法で使えるという小型ケースを使用していました。以前のレビューにも記載した通り、中はそれなりに変態的な構造になっており、「ATXボードを無理やり押し込みました」的なケースなのですが、とにかく小型なのが正義と言わんばかり。そういう変態ちっくな製品が大好きな私としてはガンガン使っていました。

ただ、今後のアップグレード予定を計画した所、問題が発生。このケースはATX電源、もしくはSFX電源を前面パネル側に固定するタイプのものなのですが、SFXなら問題ないながら、ATX電源ではグラフィックボードの長さに制限があり、現状でRadeon RX5700XTのリファレンスでギリギリ。当然ベンダーモデルの3連ファンや巨大なヒートシンク系のボードは物理的に入らない、というネガティブが発生してしまいました。

最初のうちは「レースシムったってぼちぼち年代物のゲームだし、5700XTで十分動くでしょ」と思っていたのですが、主にプレイしている「WRC」シリーズが新作の「WRC Generations」で重量級に。ディスプレイの標準解像度となるWQHD+(21:9のウルトラワイド)では、FPSが50を切ることもしばしば出てきてしまった為、とりあえず解像度を下げて対応しつつ、グラフィックボードの差し替え検討が必要な状態になってしまいました。

とはいっても、メインマシンで使っている6700XTをお下がりで入れる予定で、そのメインマシンはもうちょっと良いボードにしようかと指を咥えて見て回っているのですが、試しに差し替えてみようと思って実際に現物で差し替えを行った所、案の定PSUに当って入らない、という事態に。6700XT側はASRockの「Radeon RX 6700XT Phantom Gaming」で、3連ファンに大型ヒートシンクということでリファレンスより大型化しており、どうあがいても入りません、という非常に残念な状態になっていたのでした。

そんなわけで、もうどうしようもないのでケース交換という事になったのですが、ただ単に変えてサイズが大きくなるのはイヤだったので、なんとかコンパクトなケースを探していたのでした。

本編ここから:ATXながら「奥行きが短い」タイプのコンパクトケース。果たしてボードは入るのか?:XPG VALOR AIR


縦にノッポに見えるのは奥行きが短いから

結構いろんなケースを検討して、場合によってはM/BをMicroATXに落とすことも考えたのですが、時期がちょうどAM5移行期。もはや店頭にAM4系のM/Bはほぼ並んでおらず、ITX系は当然ながらMicroATXも絶滅危惧種に。どのみちM/Bまで交換すると出費がかさむ上、今後AM5に移行することを考えると、いま時点でAM4のM/Bを追加するのもあまり賢い選択とは言えない、とかなんとか考えた結果、やっぱりケース側にコンパクトさを求める事になりました。そんな中で見つけたのが今回の主役、「XPG VALOR AIR」でした。

お値段もぼちぼちお安い感じで、サイドパネルはアクリルではなくガラスタイプ。全体的に給排気孔が多く、エアフローも期待できそうなケースという事で優先度高めに検討していたのですが、問題が一点。

VGAは305mmまで、ときた

奥行きの短いケースなので、当然内部空間も狭くなるのですが、305mmまでの対応だとちょっと心もとない感じもしていました。現在メインマシンで使用している6700XTPGが公称305mmなのですが、ギチギチの状態で搭載となると、エアフローもさることながら、そもそも取り付け時点でかなり苦労するかもしれない、PCI電源のケーブル取り回しも厳しいかも……と悩みに悩んでしたのでした。ところが、色々と見ていると「フロントパネル側にファンを取り付けなければ335mmまで確保可能」という情報を発見。バッサリ前面パネルは負圧吸気にしてやることを考えれば、かなり余裕ができると判断し……た時には気を失っていて、気づいたら注文完了のメールが届いていました。
その後中一日で製品は到着したのですが、ちょうど旅行の予定に被ってしまい、結局開梱、内部移植を行ったのは3~4日経過してから。しかも「眠れねぇからやっちまうか」という勢い100%の状態で組み換えを開始したのでした。

とにかく軽いケース。鉄板の厚みは……まぁ案の定


茶箱にケース分解図がプリントされた、まぁまぁシンプルな梱包

さて、そんなわけでサクッと開封してガンガン移植していくわけなのですが、梱包状態でとにかく軽い。ガラスパネル採用のケースとは思えない軽さです。なんせ片手で余裕で持てちゃうんですもの。安価なケースという事もあって、そのへんは多少予想していたのですが、予想以上に軽量でした。
ここからはざっくり開梱直後の写真をいくつか。

左パネル。ガラスパネルです。
フロントはがっちり吸気孔だらけ。120mmファン3つが搭載可能
右パネル側とリアパネル。ごくごく一般的なケースの構成です
わずかにスモークがかかったガラスパネル。目隠し能力はほぼ無し
コンパクトなだけあって、フロント方向にも何もありません。

メインの材質である鉄板は結構薄い感じですが、ペコペコと歪んだりは今のところしていません。ただ、あまりガリガリいじるとどこかしら歪みが出そうな感じがするのはお値段相当といった感じです。右パネルは全面取り外しが可能ですが、左パネルはガラス部分のみとなり、PSU向けのシュラウド部分からフロント方向に向けては取り外しが考慮されていない設計。ご多分に漏れずシュラウド内でPSUやケーブル類と、3.5インチベイが共存する形なのですが、後ほど見ていただくとある意味絶望的。

付属品はペーパー、ビス類、結束バンド数本、3.5インチフレーム

付属品は最小限で、3.5インチフレームは外された状態で梱包されています。余計なものは一切入れない、そんな潔いコストカットが見て取れます。

フルタワーのFractal Torrentとの比較。バックパネル揃え


大人と子ども……まではいかないものの、サイズは全く異なります

メインマシンのケースことFractalDesign Torrentとの比較。Torrent側を動かすことが出来なかったので、強引に机上にスペースを作って撮影しました。E-ATXやそれ以上のサイズも収められるTorrentと比較すれば、明らかに小型なケースです。天板側にラジエター搭載を兼ねた排気孔があるのも、このクラスのケースとしてはおなじみな構造。ちなみにPSUは最下段配置のこれまた最近のオーソドックスなスタイルです。

Q500Lとの比較。全高は明らかに違いますが……


横幅はVALOR AIRのほうがスリム。右パネル側の裏配線スペースの関係でしょう

ケースの外形寸法としては、
・VALOR AIR:高さ460*幅210*奥行き371mm
・Q500L:高さ381*幅230*奥行き386mm

という事で、高さ以外はVALOR AIRのほうが小型という結果に。設置位置にもよるのなんとも言えませんが、上空に余裕があるなら高さは気にならない事にくわえ、フットプリントも小さいので、結果としてよりコンパクトなケースに乗り換える事が出来たようです。これは思わぬ誤算でした。

コストダウンの結果があちこちに見られるフレーム部、組み慣れていればなんてことはないのですが……

ケーブルガイド? そんなもんありませんよ

さて、一通りサイズを見比べた所で、中身をチェック。とりあえず右パネルを開いて、裏配線スペースの確認。最近のケースだとレールがついていたり、最初から面ファスナーでケーブリングされている事が多いのですが、本製品にはそういったものは一切ありません。面ファスナーや結束バンドを通すスリットは各所に空いているので、これを活用しつつ配線を引いていくことになります。価格帯的には自作初心者の方向けにも思えそうですが、このスペースを見る限りでは初心者の方にはちょっとキツそうな印象もあります。

見るからに狭いPSU/3.5インチベイ共用スペース

ケース下部のシュラウド内にはそれなりの空間はありますが、そもそもが奥行きの短いケースなので、パッと見ただけでも「あ、これ3.5インチ無理だわ」となった部分。ちなみにここ以外に3.5インチドライブの搭載箇所が無い為、よっぽどケーブル処理をがっちりやらないと(あるいはやっても)3.5インチドライブベイの搭載は絶望的。特に大容量電源でケーブルの本数が多かったりするといよいよダメです。というか実際にダメでした。

左がフロント、電源部分にはフィルターあり

ひっくり返して底面を見てみると、実にシンプルな構成です。写真左がフロントパネル側で、フロント下部中央にある手回しネジを外すとフロントパネルが脱着可能になります。コンポーネントを考えてもそこまで重たくはならず、特にフロント側はほとんど実装部品がないので問題は無いのでしょうが、フロントパネルを開くために底面のネジを外さないといけないのはなんとなく不便。と、いうのも……。

しっかりフィルターは入っていました

フロントパネルを外すと、ファン部分を全面的に覆っているフィルターが入っています。固定はマグネット式。メンテナンスが行いやすい構造なのですが、先の底面にあるネジがちょっと面倒。ここは上側スライドやマグネット固定等、取り外しが簡単な構造になってくれればよかったなぁと。

コンポーネント組み込みはごくごく一般的な手順でOK、ラジエターは一番最後に取り付けましょう

組み込みそのものは非常にスムース。工作精度もバッチリ

さて、なにやらネガティブな部分ばかりに目が行きがちでしたが、実際に組込作業に入ると、評価が少し変わってきます。M/Bを搭載しても歪みやズレなどは一切なく、一発でスパッと位置決めが出来ます。拡張スロットも安価なケースにありがちな打抜きではなく、ビス止めで一枚ずつ外せるタイプ。拡張ボードのネジ止めはケース外側なので、ケース内を最大限に活用できる設計です。安価なケースだと、だいたいVGAを装着するタイミングでフレームのズレが出てきたりして、出てはいけない場所から端子が顔を出してしまう事なんかが頻繁に発生しますが、本製品は一発OKでした。鉄板が薄く全体が軽いケースだったので心配だったのですが、いい意味で期待を裏切られました。

一部のソケットは未装着の為、個別に付属品で対応。ドライバーさえあれば装着は簡単

案外イケるVGA、モノによってはファン搭載状態でも使用可能?

さて、ここまで組み上げた所で、試しにと6700XTを持ってきて装着してみました。クリアランスの状態やいかに。

公称305mmのASRock Radeon RX 6700XT PG
4cm弱のクリアランスが確保可能。上位グレードの更に大型なヒートシンク系はキツイかも
このボードに関して言えば、一部ファンを取り付けた状態でも装着可能な様子

6700XTだとキツキツかな、と思っていたのですが、思いの外クリアランスがありました。なんなら120mmファンも入ります。VGAを載せ替えた際にはフロントファンを外して負圧運用しようかと思っていたのですが、これならフロントからしっかり吸気できそうです。ある程度調べていたとはいえ、改めて安心しました。フロントファンを外した状態であれば、実測値で330mmのボードもギチギチながら入る……かもしれません。

最終的には5700XTのリファレンスで稼働させるので、暫くは心配のない部分ですが、今後のアップグレードで気になっていた部分がとりあえずクリアしたようで一安心でした。

ちなみに、VGAサポーターに関してですが、以下のような残念現象が。

ここまでは留まっているように見えるものの……
外部カバーを取り付けると完全に干渉

PCIスロットのビスを流用して装着するタイプのVGAサポーターだと、外側にあるビス部分をカバーするパーツに干渉してしまい、正しい装着が行えませんでした。構造上これはやむを得ないのかなという点ですがちょっと残念。結局、長尾製作所のマグネット式VGAサポーターに置き換えて支えることにしました。

ちなみに……シュラウド内のPSU周りですが、こんなんなりました。

これでもかなり整理したほうです

こちらは850Wの電源を搭載、プラグインタイプなので最低限のケーブルのみ出した状態。こんな状態なので3.5インチベイを搭載するのはかなり厳しそうです。PSUがSFXあたりならなんとかなりそうですが、SFX使うならもっと小さいケース使いますよね……。

裏配線スペースの配線処理。なんだかんだでこれが限界でした

裏配線スペースに関してもレールやガイドが無いので、手持ちの面ファスナーを使いつつ頑張ってまとめました。できるだけスマートにするつもりでしたが、これが限界でした……。

久々に「光るPC」を組んだのですが……割とまとまった感じで組み上がってくれました


一式組み込み完了。ガラスパネル側下部にARGBタイプのLEDストラップを仕込みました
フロントはこんな感じ。パパッと組んだ割にはそれなりの見栄え

そんなわけでダーッとガーッと組み上げたわけなのですが、いざ電源を入れて光らせてみると、思いの外しっかりした感じになっています。ガラスパネル側はともかく、フロントパネル側は吸気口のデザインも相まって、なかなかにいい感じ。この後色を変えたり色々してみたのですが、割と見栄えのするPCになりました。ケース内部は奥行きは狭いものの、それなりに空間もある為、置き物をするにも程よい感じかもしれません。

色を変えてみた所。ショーケースらしいいい感じの見栄えになりました

ちなみに……このPCに使っていたPSUはLEDリングが内蔵されているのですが……。

後ろからしか見えない……

ケース側のビス穴の関係で向きが固定(下面吸気)の為、せっかくのLEDリングが全く機能していません。どうしようもないので、PSUのLEDに関しては消灯する事にしました。

ここまで来ると「CPUとM/B以外はXPG製品で揃えたい」という妙なワクワク感

実はフロントファンはLianLi製



現状、簡易水冷とケースがXPG製品なのですが、XPGブランドからは冷却ファン、電源、メモリ、SSDあたりはしっかり販売されています。となると、CPUとM/B以外は全てXPG製品で揃えて組むことも可能。基本的に私は単一ブランドでPCを組むことは無いのですが、せっかくここまで来たなら一回くらい揃えて組んでみてもいいかな、とか思ったりしています。今回のケースもそうですが、価格帯の割には作り自体はしっかりしているので、「とりあえず安物で組んじゃえ」と思ったら意外としっかりしたの出来ちゃった、みたいな感じになるかもしれません。元々メモリ製品が強いADATAからのゲーミングブランドなので、SSDやメモリは心配なく使用出来ますし、無理に揃えたしわ寄せのようなネガティブもそこまで多くは無いだろうとは思います。

ミドルハイクラスの構成なら充分に許容範囲、ネックとなりそうなのはやはりVGAか

XPGロゴも控えめながらいい感じ

そんなわけで、今回はXPG製品から「VALOR AIR」にレースシム用PCを組み込む感じでお届けしましたが、いかがでしたでしょうか。 エアフローもしっかりしており、ファンの回転数を多少落としてもしっかり動作してくれるので、穴だらけに見えながらそこそこ静音で使用することも可能。ケース単体が軽量でコンパクトな事もあって、何らかの理由で室内で設置場所を変更したり、机上、あるいは机下に設置しても圧迫感のないケースに仕上がっています。コンパクトであるトレードオフとしてVGAのサイズ制限がありますが、ハイエンド構成というよりはミドルレンジ構成であれば充分に対応できる製品です。水冷ラジエターもフロントなら360mm、トップにも240mmが搭載可能なので、構成次第で様々なレイアウトが構築できます。価格もお手頃なので、「ハイエンドまではいらないけれど、ガラスパネルで魅せる系のPCが組みたい」という方にはちょうどよい製品だなと実感しました。VGA周りのサイズや、CPUを大型クーラーで空冷したい方はサイズ面で注意が必要になりそうですが、AIO水冷や低発熱のCPUでの空冷などであれば、充分に対応できる包容力があります。給排気もしっかり考えられているので、CPUやVGA単体のみならず、システム全体をしっかり冷却しながら安定稼働させるにはちょうどよいのかもしれません。
自作に慣れてきた中級者で、少しコンパクトなPCを組んでみたい、という方は、検討してみても良いかもしれませんね。現物を一度確認して、行けそう! と思った方は是非チャレンジしてみれはいかがでしょうか。カラーバリエーションもあるので、「白いPC組みたい!」「桜色でほんわかしたい!」という方にもオススメできそうです。
個人的にはなかなかスッキリした構成で組み立てることが出来て、結構楽しかったです。