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【デビルハンター】ジュディ婆さんの事件簿 #2(第1話:2/4)

楽しい楽しいハンティング・タイム。
-ジュディ-


<前回のジュディ>
アメリカ、コロラド州。
ゴードン(FBI特別捜査官)の要請を受け、事件現場に到着したジュディ。退屈な事件と思われたが、 "能力" を使い死体のババアに喋らせてみると ”奴ら” の仕業と判明し、テンションアップ。 
#1(第1話:1/4)はこちら
目次

…………
■#2


胴体から斬り離されたゴードンの頭部がきりもみしながら宙を舞い、トサッ、と小さな音を立てて薄雪の上に転がった。

え? 俺は……?
一瞬のことでゴードンの思考は追いつかない。
しきりに降り注ぐ何かしらの液体が目に入って視界が悪い。目を何度も瞬き、上下左右がわからないまま視線を泳がせる。
……ジュディが見えた。
手斧を持ったジュディが誰かに突進…… いや、頭部を失って首からビュービューと血を噴いて立つ ”俺の胴体” に向かって突進する姿が見えた。


遡ること15分

「トミーの小屋まで直線距離で西に1.5マイル。この森を徒歩で抜けると早いが…… 冬夜のロッキー山脈を甘く見ないほうがいいな。車で迂回して応援を待とう」
端末の地図情報を読み上げていたゴードンが「オーケー?」という表情で顔をあげると、ジュディの姿はそこになかった。
「……おい、ここにいた婆さんは」
「え? ああ、急ぎ足でそこに入って行きましたよ。小便ですかね」
尋ねられた市警の男が薄ら笑いを浮かべて指した先には暗黒色の森が広がっていた。


ちょ、待て!
待てって!
クソッ、なんてババアだ!
フラッシュライトの光を頼りに森を走るゴードンは、先をゆくジュディの背中に内心毒づいた。かれこれ10分は走っているが一向に距離が縮まらない。雪や木の根に何度も足をとられ、呼吸が乱れる。
しかし数ヤード前方、木々の間に見え隠れするジュディは背筋を伸ばしたまま足早に、いや、足なんて生えていない幽霊のように…… 暗く険しい森の中をすいすいと進んでゆく。
俺だってシジュウとはいえ毎日欠かさずトレーニングしてるってのに!
「ジュディ! おいジュディ!」
100歳も遠くないであろう老婆に「待ってくれ」とは言いたくない。
枯れた喉を振り絞りながら名前を呼ぶのはこれで何度目だろうか…… 少し歩こう…… ババアに完敗…… そう思った矢先、ジュディはピタリと歩みを止めた。

「はぁ、はぁ… まったく!」
追いついたゴードンが膝に手を突き、喘ぎながらジュディを見上げると、彼女は「シーッ」と人差し指を立てながら前方を睨んでいた。
その視線の先を追うと、視界のひらけた場所にぽつんと一軒の小屋があった。わずかな月光に照らされたそれは、家と呼ぶには小さすぎる粗末な木造の建物。端末を取り出し地図を確認する。
……間違いない。トミーの狩猟小屋だ。すりガラスの窓から微かな光が漏れている。

「この事件、”奴ら” の仕業なのか? さっきの死体…… トミーなのにトミーじゃないって言ったよな」
「ああ、間違いないね。状況からして1匹だろう」
ジュディは小屋から視線を外さず頷いた。彼女は相変わらず奴らを ”ひとり” とは数えない。
「中に…… いるのか?」
「いるね。小屋に。気配を感じる」
「監禁していた女が逃げたってのに小屋でのんびりするか? 普通」
「バカなんだろ」
「そうか…… じゃあ、応援の到着を待とう」
「必要ないよ。死人が増えるだけ」
「しかしジュディ、俺たちは警察と違って…」
「わかってる」
ジュディが諭すような目を向けながらゴードンの言葉を遮り、言葉を継いだ。
「わかっているさ。お前たちは州警察や市警察より役に立つ。奴らのこともよく知っている。戦力って意味でも悪くない」
「じゃあ――」
「ダメだね。ここは視界も足場も悪い。場所も。どんな奴なのかすら掴めていない。もし仕留め損ねて森の中に逃げ込まれたらどうする? お前たちは闇と木々に分断され…… じわじわと一人ずつ処理されるだろう。山の肥やしになりなくないならここで待ってな」
厳しい口調で諭され、返す言葉がでてこない。
「わかったね?」と念押しするような表情で睨まれたゴードンは、小屋へと歩み寄る彼女の背中を見守るしかなかった。


今回は一人でやらせてもらうよ。
3ヶ月ぶりの獲物を前に、ジュディの心は弾んでいた。
小屋との距離を静かに詰めながら、外套の下に右手を伸ばす。
パチン。
アックスホルスターのロックを外す小さな音。
手に馴染んだ一挺のトマホーク…… ”フロストブリンガー” を懐から抜き、複数の急襲プランを頭に浮かべる。

扉をバーンとやって、アーッ! ズン! YES!

これだね。
相手がどんな能力を持っているか知らんけど何とかなるだろう。

小屋まで10ヤード。
ゴードンは大人しく隠れているだろうか。上半身を捻り後方を確認したジュディは己の目を疑った。
こちらを見つめるゴードンの背後に… 異様にでかい男が立っている。
アンドレ・ザ・ジャイアント? いやアイツは心不全で死んだ。トミーとかいう息子か? ゴードンの後頭部を見下ろす大男が振ろうとしているのは巨大な鉈――
ツッ! 伏せろゴードン!
ジュディが声を発する前にゴードンの首が宙を舞った。

「外がウルセーとオモッタラ。ババアとシチサン野郎… なんだコレ? ココの地図? ばれテル? コイツ、コップ? アノおんな… クソ寒いナカ生きて森をヌケタのか?」
首なしゴードンの胸倉を片手で掴み軽々と持ち上げた大男は、もう片方の手で拾い上げた端末をまじまじと見つめ呟いている。

この人間山脈野郎が小屋から出てくるのは見えなかった。
しかし…… 私が小屋から目をそらし振り返ったらゴードンの背後にいた。
私より後ろにいたゴードンの背後に。
最初から外にいたのか? 小屋の気配はダミー?
小屋の様子を一瞥すると… さっきまで閉じられていた扉が開いている…!?

「マアいい。ババアも殺っテ、後のコトはソレからダ」
大男は端末を放り投げ、ジュディに向かって薄気味悪い笑みを浮かべた。

「調子こきやがって。殺られるのはお前だよ!」
フロストブリンガーを水平に構えたジュディが地を蹴り、弾丸のごとく突進する!

【#3に続く】

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ジョン久作
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