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『僕の親友』 #架空ヶ崎高校卒業文集

1996年
3年E組 是田 紅丸

 架空ヶ崎高校で過ごした僕の四年間を振り返ると、牧くんのことばかり頭に浮かびます。

 一年生のときに同じクラスになった牧くんは、サイババみたいな髪型で、骨川筋衛門みたいにガリガリで、昼飯は必ず煎餅か食パンで、根暗な感じで、休み時間は寝るという変わり者だったので、はじめの何ヶ月かは挨拶すら交わしませんでした。

 そんな牧くんと仲良くなったのは、一年目の虚像祭でした。不良を気取っていた須田、道半、僕の三人が後夜祭をサボって河原に行くと、牧くんが草の上で寝ていました。彼はウラヌスガスをやったらしく、寝ゲロで呼吸が止まっていました。僕の救急対応で助かって、それから一緒に遊ぶようになりました。

 僕らの絆が深まったのは、忘れもしない弁当事件です。一年生の終わりが近づいていた雪の日の昼、いつもは煎餅か食パンしか持ってこない牧くんがホクホク顔で鞄から取り出したのは、コンビニの牛カルビ丼でした。彼はひと口目で「冷めててもうめぇや」と嬉しそうに笑った直後、うっかり手を滑らせて、教室の床に弁当を全部ぶちまけてしまったのです。牧くんはうつむいて、米とカルビを手で拾いはじめました。彼が泣くのをはじめて見た僕は慌てて手伝って、これまで言い出せなかったけど今日こそはと、自分のおかずをわけようとしました。するとクラスのみんなが悟空の元気玉みたいにおかずを集めはじめました。牧くんは「大丈夫」とおかずを断って、「ありがとう」と言いました。

 二年、三年とクラスはわかれましたが、共通の趣味だった漫画朗読を非公認部活として発足したり、本を貸し借りしたりして、牧くんは僕の一番の親友になっていました。彼の朗読はまるでアニメみたいで、キャラごとの声の使い分けや雰囲気が凄くて、映像が目に浮かぶのです。

 ひと足先に卒業していった牧くんは、声優を夢見て東京に行きました。彼ならきっと将来、すごい声優になれるはずです。落ち着いたら手紙をくれると言っていましたが、まだ届きません。僕はいま、牧くんがカセットテープに吹き込んだ伊藤潤二氏の『ファッションモデル』を聴きながらこれを書いています。僕は牧くんのファン一号です。



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