俺の家
俺の家に聖火が一時的に安置されることになって半年が過ぎた。
ここは聖火リレーのスタート地点だったサッカー施設『J・V』。電力会社が田舎に寄贈した巨大施設。築13年。災害時には事故対応拠点としても活躍した。めでたく営業再開したのは去年の春。レストランやホテル、アリーナもある。
J・Vは俺の家だ。
ここの管理を任されて丸10年。
聞こえはいいが、何でも屋。施工や電気関係の資格もたくさん取った。仕事は大して忙しくないが、1年の大半はここで寝泊りしている。芝生の上に寝転がってする読書が贅沢で、施設の食事も悪くない。
俺にとって、ここは家なんだ。
俺は我が家から旅立つ聖火を見送るはずだった。それが1年も保留されるなんて誰が予想できた? ひとつの病が世界中に広がるだなんて。
聖火は展示された。展示。危険すぎる。ここはフェンスに囲まれた駐屯地じゃない。50ヘクタールのスポーツ施設だ。いくら厳重に警備しようが侵入経路はごまんとある。海も近い。狙う組織が出てくることは容易に想像できた。
また銃声。
警備員はあらかた始末された。休館日の深夜だが、従業員のイガラシが巻き添えを食った。
この半年は平和だった。
酔っぱらったガキどもや反対団体が騒ぐ程度。
警備はすっかり油断していた。
明らかに訓練された武装集団。外国人。見事な手際。ちっとも応援が来ない。俺の助言を受け入れていればもう少しまともに対処できたろう。
警備のプロに任せろ? 素人は黙ってろ?
笑わせるな。
俺はここのプロだ。
ここは俺の庭。隅から隅まで熟知している。
俺は俺の家を守る。
奴らが血眼になって探してるこのランタンもついでに守ってやる。プールに放り捨てたいところだが、おびき寄せるにはいい餌だ。
預り所のスマホは無事かどうか。
この死体は服を剥いで通路に飾っておく。敵の服は使わず捨てる。裏の裏。攪乱。メッセージも添えておく。宣戦布告だ。
『管理責任者 ロバート・マッコールより』