100日後に死ぬけどその8日後に生き返るババア

【1日目】

「ははっ!」

ババアのしゃがれた笑い声が、テレビの中の観客とシンクロナイズする。
すきま風の絶えない平屋の居間。染みだらけの座椅子。毛羽立ったひざ掛け。不安定なちゃぶ台。果物ナイフ。茶色いリンゴ。ヒビの入った湯飲み。ボタンの印字が掠れたリモコン。

「……」

喪失と孤独を嘆いていたのは、とうの昔。
隣家のオカヨに誘われ、渋々通い始じめたカルチャースクール。
結婚よりも勇気を出して飛び込んだ、女性限定の健康体操教室。
観劇の趣味もできた。もちろん、親しい仲間も。

「……ふふっ」

不要不急の外出自粛が呼びかけられたこの週末。
花見の約束は残念だったが、予報によれば翌週もまだ見ごろ。

「はははっ!」

ババアはのんきに笑い、宵越しの茶を啜った。

―死まであと99日―


【続かない】

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