大物探偵Mの王国
「さすがM! あいつらの悔しそうな顔ったら」
「いい運動になったよ。君のスリーポイントショットも見事だった」
Mは微笑み、駆け寄ってきた青年と拳を合わせる。ほぼ同時に手首のスマートデバイスが振動した。
「おっと、行かなければ」
「事件? 頼むぜ! ロンドンのために」
Mは片手で応えながらコートを出て、路肩に停めておいたクルーザーに跨る。エンジンを始動し、一気にコマーシャル通りへ。多くの人間が運転をやめて久しいが、Mは自らハンドルを握ることに拘っていた。
ロンドン・ウォールに沿って10分ほど走り、先着していたポリスカーの横に愛車を停める。ヘルメットを脱いで手櫛を入れ、中折れ帽を被る。
「あら、Mさんが担当?」
野次馬がMに気付き、声を掛ける。
「やあ婦人。その通りです」
「Mさん! 最近とんと顔を見せてくれませんな」
「また一杯やりに伺いますよ」
街中はもちろん刑務所の中であろうとこのロンドンで “大物探偵M” を知らぬ者はいない。
「M、早いな」
テープを跨いで現場に入ると、四角い顔のハリソン警部が待っていた。
「ええ。近くで助っ人を。その女性は?」
Mは警部の横、中年の女性警官を見下ろす。
「ああ、紹介しよう。捜査用アンドロイドのオリビアだ」
「これが例の?」
「うむ。ワシも人間と見分けがつかん。オリビア、こちらはM」
「ミスターM。探偵。ロンドン市警察のコンサルタント。主に連続殺人事件を担当し、この5年間の解決率は92パーセント。表彰8回」
「こりゃ参ったな」
「上がしつこくてな。すまんがしばらく付き合ってくれ」
「構いませんよ。で、また奴らですか」
警部は眉をひそめて頷く。
「ああ、磔兄弟の手口だ」
「とは限りません」
オリビアの唐突な一言に、二人の会話が止まる。
「2メートル5センチ以上の身長かつ死体と十字架を同時に担げる筋力があれば単独で犯行が可能です。例えばミスターMのような体格」
無感情な瞳を向けられたMは、目を細めて微笑んだ。
【続く…いや続かない】
逆噴射小説大賞2019の5本目として何となく構想していたけど、結果アレしたもの。放置せずプラクティスして書き切ってみました。