見出し画像

1人酒場飯ーその28「牛タンを愛する貴方たちへ」

 「時は巡り また夏が来て」このサビの歌い出しで仙台という街は全国に名を轟かせた。

 1978年にリリースされたさとう宗幸氏の「青葉城恋唄」のことである。

 仙台市の情景が散りばめられたご当地ソングであり、多くの歌手に歌われているだけでなく、仙台がらみの場面でよくBGMで使用されている。また、「杜の都」という雅称はとても有名であるが、それも「青葉城恋唄」によって広まった雅称であるそうだ。


「 杜の都」と言われているが、確かに仙台は緑の数が多いと思う。街を歩いても緑の多さが目立っており、他の都市にはない魅力がある。


 福島生まれの僕からすると遠出でイメージするのが仙台であり、東京よりも身近な憧れの街でもあったわけだ。だが、大人になってから訪れると、自由になった分、楽しみの矛先を娯楽から食に向けることが多くなった。


 一人で昔に訪れた街を店を探して歩くのもまた別な魅力があるものだ。名物と呼ばれる王道を行くか、それともちょっと外れた味を探すか。それもまた乙なものだ。だが、仙台ならば牛タンを行きたいものだ。


 仙台には多くの牛タン屋があるが、店ごとに特徴がある。

 牛タン自体が焼き方や部分によって変わるため、店によって多くのバリエーションが楽しめるわけだ。そんな牛タンだが仙台名物となったのにはやはり理由がある。それは牛タン焼きは仙台発祥であるからである。

 その原点、「焼く」事を始めたのが牛タン焼きの元祖と呼ばれる「旨味太助」さんと言う仙台一の歓楽街である国分町に店を構える老舗であり、そこから仙台、全国へと広まっていった。そんな発祥の地で僕が見つけたお気に入りのお店がある。


 そのお店は仙台の中心部を通る広瀬通にある。

 広瀬通のビルの1つにイタリア料理店の看板の隣に黄色の灯りで「牛たんの一仙」と言う店名がある。

 他に目立つのは地下への下り口の横に書かれた牛タンと黄色バックで赤文字で「牛たん」と書かれた上の看板に偽りなしを指す看板。注意しなければ見つけにくい表示だが、下り口を見るとメニューや絵が書かれており、目的地はこの下だと言うことが分かる。

 木の札に書かれたメニューの数が多いのも魅力的だ。

 そう、ここが今回のお店である。


 地下まで降り、お店の扉を開くと小上がり席にテーブル席、カウンター席の3つの形があり、どのジャンルのお客に対しても窓口が広く作られている。さらにキッチンはオープンになっており、調理する様子を見ることも出来る。やはりオープンキッチンは何気に嬉しい。


vさて、僕がこのお店を気に入っている理由はタン料理の種類と宮城の名産を置き、居酒屋としての一面もあるからが1つにある。

 魚介の刺身には王道の盛り合わせを始め、名物のホヤや生牡蠣、鯨などのらしい品がラインナップされている。さらにご当地の日本酒も揃え、日本酒好きも抑えている。

 あまり呑めない僕ではあるが、日本酒は意外に好きなため、僕好みでもある。初めてホヤを食したのもここだった。

 合わせて呑んだのは日高見。生臭いイメージの強いホヤだが、新鮮なうちはとても甘味があり、海の旨味も感じる。そこに合わせるのが、超辛口ですっきりとした飲み口で後味もスッと心地よく解ける日高見。ホヤとも相性が良く、前としてはかなり上々だ。


 他の日本酒も呑みたいところだが、今回の目的は牛タン料理である。メニューと再び向かい合っていこう。


さて、牛タン料理は大まかに3種ある。「牛たん焼き」と「ゆで牛たん」、「タンシチュー」。

だが面白いのは焼きに「真とろたん」なる限定品が存在するのだ。だが、通常のたん焼きにも真とろたんがミックスされているので通常を頼んで食べ比べをするか、真とろたんだけを選ぶと言う贅沢をするのかを選ぶことができる。さらに焼き加減も調整してくれて、いたせりつくせりだ。


僕が選んだのは最初は通常の牛たん焼き定食と気になったゆで牛たん。ゆでたタンと言うのがどうしても引っかかった。どんな形で出てくるのか、とにかく気になったら頼むのが一番だ。そんな事を考えながら、日高見を呑みゆっくり待つ。まず先に到着したのはゆで牛たんだ。

 煮込まれたトロトロで厚切りのタンがスープの中にどんと構えており、赤いペッパーとネギがタンに華を持たせる。

 ああ、何とも絵になる美しさだ。このタンを小皿に取り分け、スープをかける。まずはたんだけを行く。

 やはり思った通り、厚切りのタンがふんわりとろりとほどけていく。スープの旨味とタンが共鳴しているのだ。次はスープ。このスープも素晴らしい。ゆで牛タンと言うシンプルなメニューだが、この美味さは複雑な旨味の連鎖である。こうなるときっとタンシチューも美味しいに決まっている。


 ゆで牛たんを堪能していると、本命がやって来た。たん焼きだ。牛たんの皿には浅漬けと南蛮味噌。これも定番だが欠かせない。今回は定食で頼んでいるため、麦飯に、テールスープも付いている。

 厚い牛タンをまずは1枚。しっかりとしたタンの噛みごたえが、奥にある牛の味を引き立たせる。牛タンは薄くとも存在感があるが、この厚切りが醸し出す本来のタンの美味さは計り知れない。

 浅漬けも、南蛮味噌もいい塩梅だ。次の牛タンを口に運ぶと先ほどとは違う味だ。先ほどよりも柔らかく、ゆで牛たんで味わった旨味が強い。これが真とろたんか!確かに「真」と名乗るに相応しい牛タンの真打だ。部位が違うだけでこうも変わるのは奥が深い世界だ。麦飯とテールスープも美味い。この定食を食べるだけで、真摯にタンと向かい合っているのが分かる気がする。


 広瀬通の地下にある牛たん屋は仙台に来る理由になってしまうと思いながら、定食を平らげた僕はタンシチューと言う次に来た時のお楽しみをしっかりとインプットし、店を出る。でも、ゆで牛たんの美味さも忘れられない。ああ、悩しい。

今回のお店 牛たんの一仙
住所 宮城県仙台市青葉区一番街4-3-3金富士ビルB1F
問い合わせ番号 022-265-1935
営業時間
平日 11時〜15時
17時〜24時(ラストオーダー)
土、祝日 11時〜24時(ラストオーダー)
日 11時〜22時(ラストオーダー)
定休日 無休


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?