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福井県福井市の鳥焼肉

 福井、浄土真宗の栄えた土地として永平寺等の有名な寺院が多く県立されている越前を通る山々と、面した日本海の幸で栄える北陸三県のうちの一県。東尋坊や恐竜で有名な土地柄でもあるが、酒場好きとしてはレベルの高い日本酒が作られる酒蔵が軒を連ねる水処の土地でもある。
 
 中でも有名なのは何と言っても黒龍酒造が醸している銘柄「黒龍」。日本を代表する品目と言っても過言ではない知名度を誇る酒である。そんな福井へと酒探しと、観光を兼ねて訪れた10月。

 日曜の夕方、観光物産館のあるビルで日本酒を仕入れた後、外に出る。福井の自然、恐竜の迫力、海鮮を味わった旅の最後、しとりしとりと降る雨の中の福井駅前。
 
親子連れは商業施設の中の飲食店に入ったり、軒並み連なる居酒屋は既に観光客や地元の若い人でごった返すか、休みかの二択。
 
 そうか、もうそんな時間か。お目当ての物は見つけたし、店を探そう。海鮮はがっつり食べた。ならば肉が良い。脳が肉を欲している。今いる西口は一通り見てそれらしい店はほぼなかった、なら東口を攻めよう。意気揚々と考えを整理して足を東口方面へと向ける。
 
 工事中の駅の中を抜けて東口の路地に出る。西口の賑わいとは違い東口はバスが停まらないエリアの為、流れが静かだ。そのまま表通りを市内を流れる足羽川方面へと進んでいく。

 しかし、住宅街方面だぞ、こっちに店はあるのか。約10分ほど歩き、だんだんと住宅が増えてきたように感じた頃、雨夜の闇の中にぼんやりと浮かぶ黄色の看板を見つけた。
 
 あれは、焼肉の文字。やった!そのまま入口まで直行すると店の軒先にはデカい狸の焼き物と青い暖簾に赤くデカい文字の焼肉と店名「とよしま」、脇のスタミナ料理っていう文字面に心が奪われる。勝負はここで決まり。入店即決で暖簾をくぐる。
 
 なかなか広めの店内、上がり席は畳式のテーブルが7~8。どこも埋まっている。そしてカウンター席が長めで10人以上は座れそうだが2人組のお客がそれぞれのロースターで肉を焼いている。なんとか入口直ぐの席が空いていたので案内してもらうことが出来た。
 
 少し他の卓を見てみるとロースターが網ではなく鉄板、という珍しいものだった。鉄板焼肉、これもこれで乙なものだ。さて、メニューを確認するとしよう。ずらりと並んだ肉のラインナップ、基本的に牛、豚、鶏…全種類あるパターンか。
 
珍しい部位もあるが何と言っても鶏のメニューが多い、なるほど推しは鶏か。そうと決まれば狙いは一本、その声にお応えして勝負を受けて立とうじゃないか。カウンター越しに声をかけ、選んだ品をぶつけていく。
 


 「若鶏と、せせり、かしわ、あと豚のほほをください。それと卵スープとライスを」1人焼肉は迷いを振り切ったら一気に攻め立てるのが正統法だ、声を止めると思考が別なものに引っ張られる。こうして鶏にアクセントの豚のほほの布陣を一気に組み立てる、それを祝してちゃっかりと頼んでいたビールで喉を湿らせる。臨戦態勢完了。
 
 店員さんが秋のロースターに鉄板を置き、火をつける。鉄板が熱くなる頃、銀皿に載せられた対戦相手がどんと供される、まず最初に目に飛び込んでくるのはまさかの野菜盛り。それの下には隠れた肉があった。これはお得だ、うれしい誤算。
 


 野菜たちを脇に敷き、まずは若鶏から並べていく。
 
タレが鉄に焼き付き登る煙が鼻をくすぐる。しっかりと火を通して、迎え撃つ。
柔らかい、肉質のジューシーさが舌で弾む。このパンチ、若々しさを感じる力強さだ。タレの良さもしっかりタレと負けていない、しっかりとしているのにサッパリとしているバランスのいい味だ、これは当たりの一発だった。そこに飯、飛び立てそうな程美味い。
 


最初に焼いた一巡目から2巡目はかしわとせせりだ。かしわとは日本古来からの鶏肉の呼び方で軍鶏などをイメージの通り茶色の毛並みの鶏だそうだ。肉食を隠すための隠語が方言で残り続けるのだから食の歴史は面白いものだ。せせりは首根っこの肉のことだ。
 
より濃い色のかしわ肉とせせりは塩。じっくりと向き合いながら合間の野菜を挟む、しかし、野菜のタイミングは肉と違って難しい。1人焼肉の難しさ、個人的には野菜の焼き加減は一番の難題に感じる。火が通り切っていないもやし、焦げた玉ねぎとキャベツ!どうやらここ一番の勝負どころが見えていないのだろうか。そんなことを思うなら進むまでだ。
 
焼きあがったかしわを齧り付く、若鳥とは全く違う濃縮度、味ががつんと濃い。それでいて小気味よい弾力で噛めば噛むだけ鶏の味が広がっていく。若々しさとは違うどっしりとした老獪感だ。鶏の魅力の再発見、実に面白いじゃないか。鉄板焼きのせせり、やはりうまい、バランス感、脂と味のアベレージが高い位置で拮抗するバイプレイヤー、塩でこその強みがある。
 
忘れていた、ここで卵スープ。この落ち着いた味、気づけば親子会談じゃないか。スープの息継ぎで3ローテ―目はほほ肉とせせり。
 


珍しい部位の鶏豚合戦に相対しよう。ほほ肉、独特の柔らかさときめの細かい旨味と脂が特徴の部位だ。イタリア料理とかでは昔食べた記憶があるが焼肉で迎え撃つのは初めてだ。

うん、これだ。この細やかさ。豚肉のどしっとした感じとはちょっと方向性の違う、細やかさの肉質。それで飯を迎え撃つ幸福。何といいものだ。
 
海の幸の福井で、鉄板焼肉、鶏マシマシ。実に擦れているが僕はこれでいい、ただ鉄板と向かい合う場所がどこでもいいじゃないか。
 
鉄板焼きの匂いが服に染み込んでいる気がする。店から出るといつの間に上がった雨で下がった気温に身震いしながら黄色の看板を見上げる。海鮮の街のひっそりとたたずむ鉄板焼肉、またいつか。
 
とよしま焼肉店
住所 福井県福井市豊島1-6-14
お問い合わせ番号 0776-23-4184-
定休日 第1.3.5.週 日曜
営業時間 17時~1時
 

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