僕の目の前にネコが現れた
何度寝返りしても、音楽やラジオを聞いても、眠れない夜もある。
頭の中には明日やらなきゃいけないこと、ずっと前にあいつにかけた言葉。ぐるぐると反省と後悔が渦巻く。
そんなとき、僕は屋根にのぼる。
母さんがみていたら怒るだろう。学習机に足をかけ、机の正面にある窓から月明かりに照らされている屋根にひょいと出る。
満天の星空とはいかないけれど、チラチラと見える星。聞こえる音はわずかな車の音と虫の音だけ。淡い月明かりに照らされて、住宅街に連なる屋根もいつもと違う色。
屋根にのぼった時だけの、いつもの世界。
きょうはいつもと違うらしい。
僕の目の前にネコが現れた。
ふわふわの、掌にのるような白い子猫が、いつのまにか僕の家の屋根の先にいる。
こちらには気付いていないのか、キョロキョロと動く顔。
ぴょんと隣の家の屋根に飛び移ったのをみて、僕はそのあとをついていくことにした。
ネコは身軽に進んでいく。
屋根の上を進んでいたと思ったら、誰もいない道の真ん中へ。真っ暗な海に行ったかと思ったらうっそうとした森の中。じっとみてくる蛇やふくろう。気にせずネコは進む。あちこち寄って、いろいろ食べて、なんだか懐かしい人たちに出会って。その中に笑っているあいつもいて。まだまだネコは進んでいく。
広い草原に出たら青空に虹がかかっていた。ようやくネコが立ち止まって、振り向いて、鳴いた。にゃー。
あれ、そういえば今何時だっけ。
ふと頭をよぎった考えは、足の下に突然現れた穴の底に吸い込まれていった。
音楽が聞こえる。あいつも好きだって言っていた歌。目覚ましがなっている。
きょうは久しぶりにあいつに会う日。
昨夜とは違う、なんだかすっきりとした気分で、僕はベッドを出た。