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弁当箱に詰まっているのは、ちょっぴり苦い罪とほんのり優しい愛 /『邪神の弁当屋さん』(著:イシコ)レビュー

昼休みに物価高を感じることがある。コンビニのおにぎりも飲食店のランチも値上がりしている。そのため昨年末から弁当を持ってくることが増えた。今、筆者の中で弁当の価値が高まっている。

そのようななか、2024年10月、コミックDAYSで『邪神の弁当屋さん』(イシコ)の連載配信がスタートした。本作は、1月20日の第1巻発売直後に大重版され、今月開設されたばかりの公式Xアカウントのフォロワーは8000を超えた(1/31時点)。派手な作品ではないが、すでに多くの読者を摑みつつあるのが嬉しい。

『邪神の弁当屋さん(1)』(イシコ)

タイトルに弁当とあるものの、グルメマンガや飯テロマンガではない。『邪神の弁当屋さん』はドラマに重点が置かれた、心に沁みる弁当ファンタジーマンガである。

『邪神の弁当屋さん』あらすじ
神の世界で謹慎処分を受けた、実りと死を司る神・ソランジュが、謹慎期間中に人間に姿を変え、一日一善をモットーに弁当屋を始める物語。ソランジュは人間世界ではレイニーと名乗っている。かつて邪神と呼ばれた彼女が生きる理由は今のところ‥‥『明日の弁当のおかずを考える事』である。


第1話、冒頭数ページを読んでいただきたい。

とはいえ、ファンタジーとひとことでは語れない魅力が本作にはある。

背景には痛みや喪失があることを感じさせつつも、それを心温まるやり取りやかわいい絵柄、詩的なセリフが中和する。そして作品全体には懐かしさが漂う。このような作品に出会えることはそうそうない。

登場人物は、主人公のレイニー、弁当を買いに来る城勤めのライラック、ライラックの弟にして王様のナタリオ、相棒ニワトリのチュンちゃん。みな、素直で誠実なキャラクターだ。

ほかにレイニーの同居人にして歌手を目指すダリアもいる。

レイニーが作る弁当は、玉子焼き、せせりの揚げ物、鮭の塩焼き……、なぜか和風のメニューが続く。筆者の弁当とあまり変わらない。この先、洋風のメニューが出てくることはあるのだろうか? 個人的に注目している。

さらに、レイニーが神であった時のことやライラックの幼少期など、過去と現在を巧みに交錯させる構成がいい。そしてなによりも表情だ。感情を抑えつつも、何層にも重なっているであろう心情が感じられる。思わず1コマ1コマ、立ち止まって見入ってしまう。

レイニーは、第1話で「人間はとても単純で」「誰にでも隙間が存在する」と語る。

登場人物の隙間が、自らのものと重なる読者もいるだろう。

弁当を詰めることで心の隙間を埋めるレイニー。この先、弁当を通して生まれる交流で彼女が何を感じていくのか? 楽しみだ。


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