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栗原康×田中馨 対談 第1回 一丸となってバラバラなおれたち

劇伴などをフィールドに活動する音楽家の田中馨。個性溢れる文で多くの評伝を書いているアナキズム研究の栗原康。お互いのことを知らず、異なる分野でそれぞれつくってきたものが、なぜか響き合っています。予期せぬものを世に送り出している二人の、初めての対談。      写真=三田村 亮

栗原 プロフ

栗原康(くりはら・やすし)
1979年埼玉県生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科博士後期課程満期退学。東北芸術工科大学非常勤講師。専門はアナキズム研究。近著に『アナキスト本をよむ』(新評論)ほか著書多数。

自分で立ててしまった尺度すら壊れて行く瞬間

田中 アルバムの特設サイト(http://kakubarhythm.com/special/bornbonebomb/)にコメントを寄せていただいて、ありがとうございました。最高な文章をいただいて。それで、いつかお話ししてみたいなと思っていて。

栗原 光栄です。

田中 僕が栗原さんの本を初めて読んだのは、ちょうどアルバム制作の最中だった2018年の秋なんです。自分がバンドの主体になってはいつつ、メンバーを巻き込んでやっていることに、自信というか確信はあるんですけど、バンドで音楽をやるって一体なんなんだろうな? ってあらためて模索していた部分もあって。そんなとき、『死してなお踊れ 一遍上人伝』を読んですごく衝撃だったんです。「そう! そう! そう!」って。背中を押してもらえたようで。しかも、作る前に出会ったわけじゃなくて、ほんとに最中だったので、うわーっ! って思っちゃって。

一遍上人伝

栗原 うれしいですね。僕もアルバムを聴かせてもらって、タイトルを見た瞬間に、「一遍じゃん!」と思いました。だって、「ぼ~ん」ですからね。爆発してんじゃん、と。僕はアナキストの評伝を多く書いているんですけど、例えば大正時代の大杉栄という人とか、そのパートナーだった伊藤野枝とか。

田中 『村に火をつけ、白痴になれ 伊藤野枝伝』、読みました。

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栗原 わあ、ありがとうございます! 『死してなお踊れ』は元祖アナキストとして一遍を扱ったんですけど、アナキストの生のイメージって、爆弾なんですよね。例えば、この資本主義社会ではカネを稼げるようになりましょうとか、そのために役立つことをしていきましょうとか、初めから正しい生き方や尺度があって、ああしなきゃいけない、こうしなきゃいけないといわれてしまう。窮屈です。だから、そういう “役立つための尺度”から逃れるために爆発しちゃおう、爆発してカラッポになっちゃおうと。好きなことをガンガン勝手にやっていく。生きる力を爆発させる。そういう力を大事にしようという発想なんですね。それを「生の拡充」っていうんですけど。

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