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多く引用される論文を書くにはどうしたら良いのか?

つい先日、心理学のトップジャーナル「Psychological Science」の30周年を記念して、Robert Sternbergが「インパクトのある論文はどのような論文か?」についてのアドバイスを記してたので、ここでシェアします。Sternberg自身も知能や創造性の研究の第一人者で、この30年の間に、最も多く引用された著者たちが(無意識にしろ意識的にしろ)実践している方法について彼が実際にインタビューをして考察している内容なので、非常に有効かと思います。

実際にSternbergは1996年に、研究者たちを対象に調査をして分析した論文で以下の6つの要素を特定しています。(重要度の高かった順に並べ替えておきます)

Theoretical significanceー理論的な貢献があるか、新しい理論か、既知の現象を今までよりもうまく説明できているか、すでにある理論を覆すものであるか、など
Value for future researchー将来の研究に繋がるか、研究方法を良い方向に変える示唆に富んでいるか、既存の理論に新しい要素を加えるか、など
Quality of presentationー論理的な文章であるか、力強い文章であるか、うまく整理されて構成されているか、など
Substantive interestー読者の興味を引くか、トピック自体が興味深いか、人が認知できる適切な時代のタイミングであるかどうか、など
Methodological interestー新しいパラダイムかどうか、クレバーな方法の実験設計を提供できるかどうか、新しい測定法かどうか、など
Practical significanceー実用的な優位性はあるか(社会的なインパクト)、心理学(対象の分野)の広い分野で通用するかどうか、など

そして2016年に、Sternbergは次の新たな要素を提案します。

Visibilityー「現在」起きている、研究者(と社会全般)の間で注目されている現象に合っているかどうか

そして2018年の今、彼はさらに次の事を付け加えます。インパクトのある研究の特徴とは:

既存の分野を大きく前進させる
今まで進んでいた分野の方向を転換させる (例えばカーネマン・トベルスキーによる人間の非合理性の実証など) 
新しい分野を一度最初から再開させる
異なる2つ(以上の)の研究分野を統合させる

そして、これからインパクトのある研究に必要であろう要素は

Wisdomー倫理的にも正しい、人類に対してポジティブな影響を与えるかどうか。特にこの要素に優れている研究は、学術理論を超えて社会を前進させる。

実際の論文も2ページと非常に短いので、一読をオススメします。

Sternberg, R. (2018). Which articles make a difference? Introduction to the special 30th APS anniversary issue of Perspectives on Psychological Science. Perspectives on Psychological Science, 13(2), 127-129.


Kodaiのあとがき・感想

研究者として悲しいことは、一生懸命時間とコストを費やした研究についてせっかく書き上げた論文が、リジェクトされるか、またアクセプトされたとしても、多くの人に読まれないことです。どうせ書くなら、多くの人に読んでもらいたいものです。しかし実際には、統計や理論、論文の書き方をしっかりと教わることはあっても、その先を見据えた議論をする機会は自分の今までの教育の中ではほとんどありませんでした。

Sternbergの研究結果や考察は、ヤフー安宅さんの「イシューからはじめよー知的生産の「シンプルな本質」」で書いてあった事を、もう少し具体的に、かつ学者向きに整理してくれたと思います。まず研究に取り掛かる前に、「果たして、この研究を行ったとして、その先にインパクトはあるのだろうか?」を自分自身に常に問いたいところです。

やはり研究者としては、研究者に認められる事が先決です。Pracrical significanceは学者の調査の中では最下位でした。より多く読まれる論文を書くためには、まずはその分野に貢献する研究をし、多くの学者に読まれるような内容にするべきでしょう。

けれど特筆すべきは、Sternbergも文中で強調している通り、Quality of presentationが意外にも重視されていたという事です。仮説が支持された/されなかったなどの科学的な検証には運も少なからず影響します。また、どのトピックが流行るのかなどは、様々な要素が影響してくるのでなかなか予測がしづらいかもしれません。しかし、Quality of presentationに関しては、100%著者である自分がコントロールできます。Sternbergによると、これといった黄金ルールは存在しなく、良い書き手は、自分の研究の長所と短所を正しく理解しながらプレゼンするのが上手いといいます。このテクニックは、一朝一夕には身につくものではないので、コツコツと練習し続けるのが大事なのかもしれません。しかしこの点は、意外にも過小評価している人は多いのではないかと思いました。

もう少し踏み込んで見ると、実はSternbergの言う要素について見通すスキルを身につけるのは相当難しいものだと分かります。特に自分のような院生には経験も知識もないので、時間がかかります。じゃあどうすれば良いのか?と考え、大学院生もしくは若手研究者が今からできそうな現実的な方法を以下に挙げます。(ただの思いつきです)

とにかく先行研究を読みまくるーこれができないとTheoretical significanceやValue for future researchがなんなのかすらわからない。何がなんなのかすらわからない。とにかく論文を読む事しかない。以前、「学習(暗記)にはアウトプットだけで良い」と言うブログを書いたが、研究という行為に関しては圧倒的なインプットが不可欠だとわかる。
学会大会に積極的に参加するーこれはSubstantive interestやVisibilityに繋がる。学会大会だと、論文として世にでる前の話題について発表している事が多い。
自分の興味のある分野の第一人者と会う/会うための最善の努力をするー第一人者と一緒に研究をする事は、Theoretical significanceやValue for future researchを見極める最速の方法のように思う。一緒に働きたい人の大学院にいくなり、ポスドクをするなり、認めてもらえるような論文をまずは作って読んでもらうなりして、なんとしてでも近くのが現実的。彼らは、15分も自分に時間を割くのも惜しいくらい忙しいはずだから、その瞬間を目指して最善の努力をするしかない。(また第一人者を見極める方法も、先行研究についての知識量にかかっている)

またSternbergの提案するこれからのWisdomのある研究に関しては、見つけ方が全くわからないです。とりあえず、理論的にも貢献するもので、かつ社会にとって役に立つちょうど良い研究が見つかればいいな〜と思える程度です。おそらく、幸福研究などの価値は、そういった事にあるのだと思います。







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