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漢方処方のシャドーボクシング【67歳女性、34歳男性、動悸と下痢に悩む】

医薬品登録販売者の資格取得までの間、漢方処方の臨床書籍を参考に臨床記録から自分ならどのような漢方薬を処方するのか勉強もかねて取り組んでみようと思います。
の2ケース目。

参考書籍:臨床に役立つ五行理論-慢性病の漢方治療-
著者:土方康世
出版:東洋学術出版社

患者の情報については一部抜粋。
2つの臨床記録はかなり簡易的に記載されており、細かい分析は出来ませんが、シャドーボクシングを通して心と脾についての学びが深まりました。

まず、心とは

「心」

  「素問」霊蘭秘典論篇より「心は神志をつかさどる」「心とは君主の官、神明ここより出ず」とあり、心が精神活動の中心になっていることが昔から述べられている。現代においても「心臓移植をした人に、心臓を提供した人の記憶が伝達されていることがある」といった体験があるようです。
-心臓の記憶(Cardiac memory)―

皆さんのこれまでの人生経験からもお分かりの通り、脳と心は少なからずつながっているということです。

そして心には主に2つの働きがあり、それは血液循環作用と精神活動です。
 血液循環作用
 
肝に貯蔵された血を全身に循環させるポンプ機能。血の栄養分を身体のすみずみにまで送り出す。
 精神活動
 
思考、記憶、意思など、人間の精神状態は心が統制している(東洋医学では)。心と脳、心と肝の精神的結びつきは強いと言われている。

その心に不調が生じた場合、大方3つに分けられる。
 「心血虚
  心を養う血が不足した状態。脾の不調が原因で心血が作られず、結果的に心の循環機能不全となる。心陽で熱を帯び、動悸や息切れ、胸苦しさなどが生じる。

 「心陰虚
  心の陰液の不足により、精神不安、動悸、息切れ、胸のつかえなど主要な心血虚の症状の他、のぼせ、イライラ、手足裏のほてり、口渇、寝汗など様々な熱症が現れる。

 「心気虚
  心の気の働きが衰えた状態。情志の失調、心の先天的な虚弱、久病、老化があげられる。心の循環作用が衰え、動悸や息切れも生じる。精神衰弱も心気虚が関係することも。

「脾」

  中国歴代の医学書に記された脾の形状や位置は「形は刃鎌の如し、胃と膜を同じくしてその上の左に附す。(類経図翼)」とある。
脾の働きは4つあり、
①胃の作用補助
 体の基本物質である気血や津液の原材料を供給。
②運化作用
 食べ物の中から体にとって必要なもの(水穀の精微)を取り込むこと。
③昇清作用
 小腸から胸中へと水穀の気や津液を上へ持ち上げる作用のこと。内臓や器官へ下垂を防ぐ役割も含まれる。
④統血作用
 血が脈の外へ漏れ出るのを防ぐ作用のこと。血が体内において脈から漏れ出て内出血状態にならないのは脾の働きによるものとされている。

脾に不調が生じた場合、体に以下の症状が発生する。
運化作用に不調が生じると消化や吸収に異常が生じ、食欲不振や腹痛、食欲低下といった状態が発生する。
 血を推動させる気が不足すると、血の運行も停滞し全身を滋養できなくなり、脾気虚となったり、津液が不足すると津液の停滞やむくみが生じるようになり、脾胃湿熱という状態になってしまう。
昇清作用が衰えると、気血などの栄養分が上焦へ送られなくなる。眠気や胃下垂、下痢がその症状に該当する。
統血作用が低下すると体外に血が漏れ出すようになり、血便、血尿、月経過多などが生じる。

心と脾についての基礎を知っていただいたうえで患者さんを見ていきましょう。
なお、今回は特に臨床情報が少ないため、ざっくり見ていきます。

【主訴】
 67歳の女性。安静にしているが、動悸や下痢が続いたため、病院に来院。
 34歳の男性。動き初めに動悸が発生するということで来院。

【病状】
 両名とも上記の通り。67歳女性は心機能良好。両側腹直筋攣急あり。
 34歳男性は胃腸が弱い、心電図問題なし。腹直筋攣急あり。
 
【既往歴】【家族歴】【舌所見】
 特になし。

【著者の弁証】
 脾が心の気を盗んだ結果、動悸が出現したものと考えられ、
 脾気虚→心気虚につながった。よって補脾作用のある小建中湯を処方。
 小健中湯の補脾作用が効率的に脾が補われ、脾が心の気を盗まなくなったことにより、両名とも動悸が消失した。

小健中湯
 
腹痛をやわらげ、胃腸の調子をよくします。また、体力をつけ、体を丈夫にする働きがあります。胃腸が弱く疲れやすい人、ことに虚弱な子供の体質改善に向きます。
〇構成生薬〇
 桂皮(ケイヒ)
 芍薬(シャクヤク)
 生姜(ショウキョウ)
 大棗(タイソウ)
 甘草(カンゾウ)
 膠飴(コウイ)

【私の弁証】
 まず、腹直筋攣急について調べてみた。
腹直筋攣急とは腹直筋が棒状に過緊張するもの。
筋肉の収縮活動時に良く起こる。
また、虚弱・虚労の所見でみられる。
参考図:

両名とも健常者ではあるが心当たりある行動や持病等なく動悸が生じるようになったことから、心気虚の可能性があると考えました。
また67歳女性は下痢、34歳男性は胃腸が弱いとのことから胃腸の状態もよくないことが伺えます。
WEBで色々と調べてみたところ、下記WEBサイトの情報も参考になりました。
動悸と聞いたら心下しんか(胃)をたずねる。
漢方坂本

東洋医学では古くから動悸と胃腸の関係に着目していたようです。
胃腸が動かなければいけない状態においては心臓の活動を一定程度制御する必要があるようです。

皆さんも実体験として以下の状態を経験したことがありませんか?
食べ物や飲み物を十分にとった後、走るなど激しい運動を行うと胃腸が痛くなる or 空腹時に激しい運動を行うと普段以上に疲れる、持久力が持たない。
これは心臓と胃腸が密接に関係している証拠です。
どちらかに異常状態が続いていると時期に、そうでないもう一方にも影響が出てくるのです。

このことから私は心と胃腸の状態を改善する漢方薬、
半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)
を処方します。(胃の調子が良くなれば脾も良くなるだろうとの考えも相まっている)

半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)
胃腸の働きをよくします。
食欲不振や胃もたれ、吐き気や嘔吐、下痢などを治します。また、口内炎や神経症にも適応します。体力が中くらいの人で、みぞおちが張りつかえ感のあるときに向きます。
人参が入っているので滋養強壮効果も期待できます。
〇構成生薬〇
 半夏(ハンゲ)
 黄ごん(オウゴン)
 黄連(オウレン)
 人参(ニンジン)
 乾姜(カンキョウ)
 大棗(タイソウ)
 甘草(カンゾウ)

【結論】
著者は小建中湯を処方し、私は半夏瀉心湯を処方する結果となりました。
半夏瀉心湯が2名の患者さんに効果あるか真意を確かめることはできませんが、漢方薬治療はオーダーメイド治療という通り、診る人によって処方する漢方薬が異なることを実感しています。
とは言いつつも、処方する漢方薬が先生方とピタリと一致しないことはある意味歯がゆさも感じています。( ´∀` )

これからも精進していきます!

なお、小建中湯と半夏瀉心湯の違いですが、
小建中湯は体力が虚弱でも使えるので子どもにも処方されてます。また泌尿系の病気持ちの方や冷え性の方にも処方されます。
半夏瀉心湯は体力が中程度ある方向けで、二日酔いや口内炎にも効果があり、また下熱作用があります。


※漢方薬治療はオーダーメイド治療であり、この人に効いたからあの人にも効くとは必ずしも限りません。その人の心や身体の状態に応じて選定されるのが本来あるべき漢方薬治療です。正しい漢方薬を服用するためにも医師・薬剤師・登録販売者といった専門家に相談しましょう。

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