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薬局運営相談実例③ ~新卒採用~

薬学部6年制への以降により新卒薬剤師が誕生しない「空白の2年」がありました。コロナ禍を経て、現在は薬剤師が充足しているという地域も多く聞きましたが、2010年代後半一番多かったご相談内容が、「薬剤師採用」の採用についてです。コロナ禍でオンラインによるコミュニケーションが急速に進み、現在は違うスキームでの採用戦略を各社取っていますが、変わらない部分もあると思っています。当社では2016年から2020年にかけ、15社ほどの新卒採用をお手伝いしてきました。色々なご縁もあり、結果として50名近い新卒薬剤師の入社支援をしてきました。今回はそんなお話を少ししてみたいと思います。

採用の基本的戦略

新卒採用に限らず、採用をする上で重要になることは「入口」を多く用意するということです。基本的な採用方法は

①大学の合同企業説明会
②企業主催の合同企業説明会
③実務実習生
④大学からの紹介
⑤SNSや薬局見学からの一本釣り
⑥奨学金返済制度

このような感じになると思います。中途採用の場合は、紹介会社に依頼をするのがほとんどだと思いますが、1社にお願いをしたから案件が来るという訳ではありません。薬剤師という有資格者の市場は少し特殊ですので、求職者が複数紹介会社に登録し、紹介会社から同一人物を紹介されるということが意外に多くありますが、どれだけ案件に巡り合うために入り口を用意するかが重要になります。
有資格者の新卒採用の方法として、「①大学の合同企業説明会」の開催は、サービス業などのいわゆる一般業種と比べて少し特殊な方法なのかなと思います。

①大学の合同企業説明会
地元企業を中心に、まず狙うポイントですが、激戦区です。大学によっては、OB・OGがいることが要件であったり、新規の企業を募集していないという大学もあります。
2月の後半から3月にかけて開催をされ、参加者の多くが5年生です。
しかしながら昨今では奨学金などの支給により既に内々定先が決まっている学生も多く、開催自体が目的になってしまっていることもあります。

②企業主催の合同企業説明会
大手人材紹介会社等を中心に年に数回あちこちで開催されています。基本的にはどの企業でも有料ですが参加は可能です。課題としては、「参加者はQUOカード○○○円贈呈」の特典目当ての学生が多い、小規模事業者が開催する説明会の場合、コアになる学生を中心に「一人呼ぶと○○○円バック」といったビジネスとして開催されるケースが多いことです。また大手企業が参加しないことには集客性が上がらないことから、大手(知名度の高い)企業よりも中小の方が参加費用が高いケースもあります。

③実務実習生
「囲い込み」と呼ばれることも多いですが、中小薬局ではこのケースからの入社が一番多いのではないでしょうか。逆に、実習中の印象から所属大学の学生に悪印象となる情報が流れているケースもあります。実習生確保を狙い、指導薬剤師を取得を目指す方が増えましたが、ワークショップになかなか参加できないなどの課題が多くあります。ま

④大学からの紹介
大学によっては国家試験終了後から就職活動を始めるという大学もあります。決して数は多くありませんが、教授から直々に連絡があり、研究室の学生を採用してほしいという話もあります。ただし、当時は特にですが、1週間あれば就職先を決めれるという時代でした。そのように話が来ることには何らかの「お話」もついてくることが多いです。

⑤SNSや薬局見学からの一本釣り
中小薬局の戦略として「一本釣り」は非常に有効的ですが、SNSをやればいいという訳ではありません。薬局見学まで、誘導していくための話題性や取組、また発信者のカリスマ性などが問われます。自社と他社との差別化、アピール力などは、コロナ禍における採用戦略でも非常に必要な能力です。

⑥奨学金返済支援制度
2016年代くらいから採用市場をにぎわせたのが、奨学金返済支援制度です。現在も地方部では検討すべき事項の一つだと思います。ただし、都市部で働きたい学生も多く、昨今では少し下火になっています。奨学金返済支援の説明は割愛しますが、返済支援制度を活用する新卒者と活用しない新卒者では年60万円ちかい(一般的な制度)メリットの差が出ます。また国試浪人となった際の対応も難しく、結果として企業の採用コスト増になるというデメリットもあります。

採用ビジュアルの強化

採用に向けた入口が多いことを説明しました。しかしながらコストの問題や、大学の合同企業説明会などは参加することが困難であるなどの問題があり、どういったツールを活用すべきかは企業に合わせてとなります。
採用で気をつけなければいけないのが、「ビジュアル強化」です。求職者にとって「入りたい」と思わせるようなビジュアルは非常に大事です。
「第一印象で○○決まる」
みたいな話がありますが、その通りだと思います。大学や企業の合同説明会ではブースを設営し、パンフレット等を利用して企業説明をします。そのブースが裸なのか、それとも華やかなのか。この印象は非常に大きいです。
勝手に人が集まる大手企業はネームバリューが違います。
ホームページも非常に重要なツールです。あればいいというものではないです。Z世代以降、デジタルネイティブと言われる世代は様々なホームページやデザインに触れています。「ダサっ」「古っ」って思われてしまうと結局そこでも印象ダウンです。

「大手と張り合えるところは張り合うことが、採用のスタート」

私はこのように考えています。ブース作り、ホームぺ―ジの見た目、名刺のデザイン、パンフレット作成、これらは費用を掛ければ作成できます。大手企業は当然ながら中身が濃いかもしれませんが、工夫で見た目は何とかできます。

当然ながら学生は「いい企業に入りたい」という思いを持ち、探しにきます。そこに企業の財政的・規模的な理由は関係ありません。店舗規模は同じにできなくても、見た目やツールなら同じレベルにも上がれます。そうして初めて同じ土俵に上がれます。

メリットとデメリットを理解する

私のお手伝い先は、なぜか地方企業が多いです。薬学部もないところが多いです。そういう中で、数少ない学生をスカウトしなければいけません。公表は出来ませんが、「○年入学、○○県出身、○○大学所属」このような情報を駆使し、目星の大学へアプローチをするのですが、残念ながら出身都道府県はほんとうにバラバラで色々な要件で、そもそもの学生が少ない地域もあります。帰省希望の学生に出会えるとは限りませんし、そもそも地元の学生がいないこともざらにあります。逆に、勤務地を限定しない、または趣味のために移住したいなど各々の理由を持つ学生もいます。

よく「最新機器導入」などのWordを聞きますが、その最新は何をもって最新なのかを知ることは非常に重要です。経営者よりも学生の方が色々と知っていることも多いです。「在宅○○人」みたいな売り文句も、数千軒レベル取り組んでいる企業に見学を言った学生には刺さりません。

自社のメリットはどこにあるのか。他社と違う点は何なのか、このようなメリット、デメリットを理解した上でアピールポイントの設定、トークの構築をしていく必要があります。

採用は企業と学生との出会い

中小企業の採用戦略は行きつくところ「出会い」という考えに該当します。決して大手企業の戦略を卑下するわけではありませんが、大手企業は「大量採用」からの「精鋭づくり」という戦略です。中小企業にはそれに耐えられるだけのコストはないです。一度、入社した人材には長く勤めてほしいのは当然ですので、採用時に「ウソ」はつけません。

短期的な「一本釣り」戦略を展開しながら、どうやって継続的な採用「育てる戦略」を作っていくのかが非常に重要になります。

その場しのぎの採用は、結果として企業にとってより大きなコストとなることも多くあります。

コロナ禍で採用戦略もまた大きく変わろうとしている中、自社のポジションをきちんと理解し、出来ることやるという「インフラ作り」、そして自社を見つめなおし「アピールポイント」を的確に伝えていく。

戦略は十社十色ではありますが、柱となる部分は変わりません。

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