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【天下繚乱】閻羅王

 閻羅王。

 それは歴史の敗者の怨念が形を取り、世に仇なす存在である。

 かつて、長い歴史の中で何人もの閻羅王が現れ、英傑たちの決死の努力によって闇へと封印されていった。

 だが、坂本龍馬の死によって産まれた時空の歪みは、閻羅王たちを結集させ、世界そのものをひずませ、化政時代を産み出した。

 このままなら、妖異たちの勢力は増し、化政時代は魔界へと飲み込まれてしまうだろう。

 閻羅王こそ、あなたたちが打ち倒すべき脅威であり、時空修復の鍵である村雨丸を手にいれるための最大の障害なのだ。

01上様

“上様”

 閻羅王を率いるとされる人物。閻羅王を除いては、妖異の中でも土方歳三と数名の腹心以外、その姿を見たこともないと言う。

 彼の正体は、後の世に徳川十四代将軍と呼ばれ、公武合体の希望をかけられながら夭折した男、徳川家茂である。

 彼は死の床で、みずからの死によって日本が明治維新という美名の元に壮絶な骨肉相食む内戦に突入すること、そしてその後に最終戦争に突入して日本が滅亡することを幻視し、その悲劇を止めるために妖異の力に魂を売ったのである。

 徳川将軍自身が妖異となったことは、時空間を激しく歪ませ、坂本龍馬の死と共鳴し、因果を崩壊させた。そして時空破断が生じ、英傑と閻羅王がこの時代に集結したのである。彼こそすべてのはじまりなのだ。

 家茂は妖異の力とそれがもたらす狂気にあらがっているが、日に日にみずからを見捨てた日本への恨みが強くなっている。彼の望みは、正気を保っているうちに、日本を救える英傑を育てることだ。

02菅原道真

菅原道真(すがわらのみちざね)

 閻羅王筆頭。平安の御代、崩壊の兆しを見せ始めていた財政を立て直すべく中央集権制への移行を目論むも、改革を望まない藤原氏によって太宰府に左遷させられ憤死した不世出の大政治家にして弓の達人。

 朝廷への怒りに燃え、山上でひたすらつま先立ちで雷神に祈りを捧げて死んだ彼は、その苦行が梵天に認められて、大自在天、天竺で言うシヴァ神の雷“ピナーカ”を授かって閻羅王のひとり“ヤマ”を殺し、みずから閻羅王となった。それ故に彼は冥王殺害者(ヤマーンタカ、大威徳天)と呼ばれる。

 生前は温厚な文化人であった道真だが、復活してよりは人類の愚行に絶望しており、閻羅王の力によって世界そのものを崩壊させ、選ばれた善男善女のみによる理想郷を築くという妄念にとらわれている。時空破断時に発生した火山噴火とそれにともなう飢饉は、道真のおそるべき妖力によるものだ。

 ヤマの治めていた魔界を束ねており、無数の鬼たちを従えている。冥府から逃れた鬼にとってはもっとも畏るべき敵だ。

03白面の君

白面の君(はくめんのきみ)

 年を経た狐は妖怪となり、その尾が分かれて増えるという。その中でも最高位に属する金毛九尾の狐。

 本来九尾の狐は神霊であり、その最高位が荼枳尼天の権現とも天照大神の化身とも言われる稲荷明神なのだが、この狐のみはいかなる理由か人を堕落させ大乱を呼ぶことに喜びを覚えている。

 殷王朝を滅ぼした妲己、天竺に大乱を呼んだ華陽夫人、そして玉藻前はすべて彼女だ。長らく殺生石に封じられていたが、時空破断によって覚醒、みずからにしたがう妖怪や邪神、鬼たちと共に活動を開始した。

 彼女自身は手を下すことを好まない。色香や権力、富を使って人間たちが自分の意志で邪悪な行為を喜ぶようになることが、白面の君の最大の娯楽である。

 きわめて悪趣味な神格で、人倫を理解せぬことから他の閻羅王たちからも疎まれているが、天海の結界の中で妖異の勢力を広めるには、堕落を武器とする彼女の戦略が有効であることも事実であるため、忌み嫌われながらも活動を容認されている。

04由井正雪

由井正雪(ゆい・しょうせつ)

 慶安の昔、三代将軍の死をきっかけにして浪人たちを集め、幕府を転覆させようとした男。軍学、武芸、兵法に通じ、世が世なら天下を狙えた器であったという。

 時空破断によって最初に“上様”と出逢った閻羅王で、彼の望む歴史改変を成し遂げるため、時を超えて閻羅王たちを復活させるという壮大な策を献上し、彼の軍師となった。

 彼自身はほとんど事を起こすことがなく、もっぱら他の閻羅王や妖異に知恵を貸す、という形で望む世界を実現させようとしているようだ。何をたくらんでいるのか、そもそもいかなる理由で閻羅王になったのかも定かでなく、警戒心を露わにする者も多い。

 天海の結界内でも活動する力を身につけており、浪人三浦正辰と名乗って、尾張侯など反主流派の有力大名の江戸屋敷にたびたび出入りしている。

 現在の彼の行動目的は、さらなる閻羅王をこの時代に呼び込むことらしく、歴史の敗者を祭った塚や寺院を破壊することを目的として、各地で暗躍している。

05天草四郎

天草四郎時貞(あまくさ・しろう・ときさだ)

 大坂城落城の折り、九州に落ち延びた豊臣秀頼の一子。小西行長の家臣、益田甚兵衛に育てられ、長じてイスパニアと結んで天草の乱を起こして果てた。

 復活後は、江戸湾に満月の晩のみ幻影のごとく現われる原城を本拠とし、天海の結界を破壊すべく江戸での破壊活動を指揮している。彼の力の源は遙か西域の孔雀神メレクタウス、両性具有の孔雀明王、すなわち暁の堕天使ルシファーその人であるという。

 彼は人間を深く愛している。愛しているが故に、人を苦しめずにはおかない。苦しみの中で人が神への信仰に目覚め、信仰の中でもだえ苦しんで死ねば必ずや天国に導かれると考えているのである。すなわち、残酷と苦悶と悲劇こそ、彼の望む愛である。

 天草の元には、無数の鬼たちが集っている。鬼たちが背負う現世での罪業のすべてを天草は愛する。そして、鬼たちを肯定し、それを解き放つ救世主こそ、鬼の王にして天使の王である彼の使命なのだ。今日も哀しい魂が、彼の洗礼で鬼へと堕ちる――。

06織田信長

織田信長(おだ・のぶなが)

 古墳時代より宮廷の祭祀を司った忌部氏の末裔。スサノオの尊の神剣をご神体とする織田劔神社の一族から出て、尾張の大名を称するようになった、戦国期有数の呪術者である。特に天候操作を得意としている。

 第六天、すなわち天上界の至高天を統べる存在と合一することを目指し、日本の呪術と西洋の異端魔術を融合させて、神への門(バブ・イル)たる安土城を築き、第六天魔王デーミウルゴスたることを望んだ。が、腹心であった明智光秀、すなわち天海僧正によって討たれ、長い眠りにつくことになった。

 蘇った彼は、同様に時空破断によってこの時代に呼び込まれた戦国の武将、豪傑たちを琵琶湖の底に沈む裏安土城に呼び集め、着々とふたたびの天下取り、ひいては世界征服を目的として動き出した。

 その中には、公儀に冷や飯を食わされている毛利や島津のような外様大名、豊臣残党はおろか、清朝に追われた明の遺臣、果ては故郷を追われたインカの王族やマオリの首長たちすら味方しているという。


●次回予告

 次回ははるか北方、アイヌモシリ(蝦夷地)よりやってきた“異邦人”について紹介しよう!


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