TRPGガイダンス:シナリオの作り方(1)

■シナリオを作ろう

 多くのTRPGをプレイするためにはシナリオが必要だ(注1)。

 しかし、遊び続けていけばシナリオはすぐに足りなくなってしまうことだろう。

 どうすればよいか。

 もちろんGMが作るしかないのだ(注2)。

 大変ではないか。

 大変である。

 鼻歌交じりに出来る作業である、というつもりはない。シナリオを作るのは、もうひとつのゲーム、というほどには大変な仕事だ。

 脅かしたいわけではない。

 これからあなたがTRPGを遊ぶに当たって、そのコツを紹介したいのである。

●はじまって、終わる

 物語というものは、始まって終わらねばならない。たとえば、孤独だったナルトという少年は周囲に認められたいがために、そそのかされて禁断の巻物を盗み出し、それが故に恩師を危機に追い込み、みずからの罪を贖うために内に秘められた力を発揮して悪を倒す。

 これがいわゆる「起承転結」だ。もちろん、ナルトの物語はこの後も続いていく(注3)。だが、シナリオとして考えれば、とりあえず終わっているわけだ。

 つまり、物語を作る、というのは、「始めて終わる」ことなのである。

 これは、このような要素に分割できる。

・導入
・障害
・達成

 導入というのは、つまり舞台に主人公が出てくる理由である。『アリアンロッド』や『D&D』のようなファンタジーRPGなら依頼人からの依頼、『異界戦記カオスフレア』なら所属組織からの発注……あなたが思いつくものでいい。多くの導入は次のようなパターンに分類される。

・金のために誰かから依頼を受ける
・大切なもの(あるいは人物)が奪われ、PCは奪回を誓う
・名誉/家族/生命が傷つけられた結果、PCは復讐を誓う
・所属する組織からPCに命令が与えられる
・たまたま事件の発生した場所にやってきて、好奇心から興味を持つ
・知人が事件に巻き込まれ、PCが解決に乗り出す
・とにかくPCたちのいるところに怪物が攻めてくる

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▼導入

 導入は、オープニングフェイズで提示されるのが一般的である。これによってPCには外在的な動機が付与される。「なぜそうしなければならないのか」の社会的な理由である。

 導入には内在的動機が絡んでいることが望ましい。先ほどの例であれば、「金がいる」「大切な人を取り返す」「好奇心をもった」……などなど、それがポジティブなものでもネガティブなものでも、PCの(そしてプレイヤーの)内在的な動機が、外在的な動機を果たすための動線となっていなければならない。

 つまり、「金のためにしか動かない」キャラクターは「復讐のために動け」と言われても大変だし、「復讐鬼でオークを殺すことにしか興味がない」キャラクターに「金はいくらでも払うから館の掃除をしてくれ」と言われても困るだろう。

 もちろんそうしたドラマも成立する。金のためにしか動かないはずのキャラクターが復讐心を抱いたり、オークへの復讐鬼が生きるために館の掃除をしたりするのである。だが、ここで誤解してはならないのは、そのドラマは「金のためにしか働かないはずの傭兵の復讐心」「生きるために不承不承金を稼ぐ復讐鬼」という内在的動機なのであって、実は最初に提示した「金のためにしか動かない」「オークを殺すことにしか興味がない」キャラクターとは動機が違うのだ。

 何を言っているのかわからないかもしれないが、要するにPCの内在的な動機、モチベーションと外在的な動機、すなわち依頼の内容をブラさないほうが最初は導入がしやすい、ということである。

 むずかしいことではない。要するにハンドアウトにちゃんと今回のシナリオのモチベーションが書いてあれば、それに沿ったPCをプレイヤーは作成してくるはずだからである。その上で、GMはPCのライフパスなどを見て、うまくその内在的動機をシーンの演出に乗せてやれるとさらによい。

▼障害

 障害とは、導入で与えられた目的を阻害する何かである。科学特捜隊基地を破壊しようとするゼットン、ひとつの指輪を捨てに行く過程で立ちふさがる冥王の軍勢、アクシズに迫るロンド・ベルを迎え撃つシャア・アズナブルである。
 基本的には、この障害を排除することで導入の目的が達成されることになる(注4)。

 たとえ、障害が「隣のコンビニまで眠いのをこらえて歩いて行く」(注5)であったとしても、とにかくそれは障害として成立しているのである。本当だ。もちろん、「それじゃつまらないな」と思ったら、じゃあどうするといいのか考えればいい。そこからあなたのオリジナリティが始まるのだ。

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▼達成

 そしてそれらを乗り越えた先に、目的が達成されねばならない。実験映画なら「障害を打破したがなぜか目的は果たされなかった」というオチもありえるが、娯楽作品では基本的に目的は達成されるべきなのである。これがエンディングフェイズだ。

 極端な話、この三要素をすべて埋めれば、とりあえずシナリオは出来上がる。ボスのデータは、付属シナリオのデータの使い回しでも構わないくらいだ。

 では、どのようにして埋めればよいか、その実例を見ていこう。

●オープニングフェイズ

 オープニングフェイズでは、それぞれのPCに事件に関わるべき動機が提示される。

 このとき、渡すハンドアウトは全員共通でもよいが、基本的には違うほうが望ましい。なぜならば、オープニングフェイズを通してPCは演出されるべきものだからである。

 オープニングフェイズではそれぞれのPCにカメラがあたり、担当するプレイヤーは自分のPCを演出できる。これによって、GMと他のプレイヤーはそのキャラクターを理解することができるし、またプレイヤーも“自分の物語”としてドラマを認識することができるからだ。

 また、ヒロインなどが登場する場合、全員が同じヒロインに殺到するようなシナリオはあまりにあまりだ(注6)。

 とはいえ、全員のオープニングを思いつかない場合もあるだろうし、依頼は同一だが導入は違う、という話にしたい場合もあるだろう。そうした場合は、まずそれぞれのPCの日常だけでも演出してから、全員が集合して依頼を受けるシーンを別途に設けるとよい。

▼キミたちは酒場にいる~

 「PC全員はすでに仲間であり、酒場で安酒を飲んでいると向こうからうさんくさそうな依頼人がやってきた」という伝統的なオープニングもある。ハンドアウトなどを採用していないTRPGでは、先ほどの解説についてはすかっと忘れてこれで始めて構わない。

 もちろん、『D&D』や『ソードワールド2.5』でも、PC個別のオープニングから入って、酒場に全員が揃っているところにフレームインするような遊び方もできる。

●ミドルフェイズ

 ミドルフェイズでは、先ほど述べた動機をより掘り下げていく作業が行なわれる。たとえば悪漢の悪事を目の当たりにしたり、ヒロインと交流したり、ヒロインがさらわれたり、龍のねぐらが判明したりするわけだ。物語世界の中で発生する出来事が、キャラクターの動機とリンクしていくことで、より深く物語を自分自身のものとして捕らえることができるのである。

 ミドルフェイズの終了条件とはすなわち、クライマックスフェイズへ移行するための条件が満たされることだ。

 すなわち情報収集やダンジョンの探索を通して、「いかにすればこの事件が完全に解決するのか」がPCたちの目の前に露わになる(注7)ことで、ミドルフェイズは終了する。

 GMは「何をやったらBOSSと戦えるのか?」を考え、そこをまずは埋めるような形にするといい。

●クライマックスフェイズ

 クライマックスフェイズでは最大の障害、すなわちBOSSとの戦いが繰り広げられることになる。

 難しく考えることはない。

 戦闘が始まってしまえば人間、アドレナリンが出て細かいことは考えなくなる。「調査の結果BOSSの居場所がわかった」「よし殴り込もう」という伝統的な時代劇のスタイルで何ひとつ問題はない。考えすぎるほうがよほど問題である。

 困ったら、BOSSの側から「ぐはははは、貴様らが私のことを調べておるのはわかっておる。よくもザコどもを殺してくれたな。我みずから成敗してくれよう」と言って歩いてきてしまっても構わないほどだ。

 『ドラゴンクエスト ダイの大冒険』を見よ。敵の幹部は次から次へと主人公たちの前にやってきてあらゆる動機を解説してくれるが、それによってPCたちは何も困らないのである。

●エンディングフェイズ

 シナリオの幕引きである。できれば、個別にエンディングを演出することで、しっかりとロールプレイを締めくくってあげたい。終わりがしっかりしていれば、ちゃんと面白く終わった気がするものである。

 こちらも、それぞれのPCごとにエンディングをきちんと演出する形にしたい。ミドルフェイズやクライマックスフェイズで発言出来なかった人でも、オープニングとエンディングで見せ場をもらえれば、満足感が得られるものだからだ(注8)。

■シナリオ作成のコツ

 シナリオを最初に作るときのコツは、短くなることを恐れないことである。別にオフィシャルのシナリオのように丁寧な書式である必要はない。

 筆者が先日プレイした『異界戦記カオスフレアSecond Chapter』(注9)のシナリオはこのようなものである。

* * * *

■セッショントレーラー
 はるか地球から召喚された勇者フォーリナー。
 光輝く絶対武器マーキュリーを手に、勇者はダスクフレアを打ち倒した。
 だが物語はそれで終わりはしなかった。
 勇者が地球に戻るその日に、地球への門は謎の崩壊を遂げてしまう。
 終わるはずだった物語が奏で始める、あるはずのなかったエピローグ。
 異界戦記カオスフレアSecond Chapter『ロンゲスト・エピローグ』
 人よ、未来を侵略せよ!

===PC①用ハンドアウト
シナリオパス:
シャレードへの戸惑い
サンプルキャラクター:界渡りの戦士 推奨ミーム:フォーリナー
 キミはオリジンに召喚されたフォーリナーだ。右も左もわからぬ中、キミはオリジンの小王国ファドーラを襲ったダスクフレアの龍ジャルディスをマーキュリーによって滅ぼした。だが、キミが帰還する夜、共に戦ったPC②の妹、魔法使いシャレードはキミに恋をしている、本当は戻したくないのだ、と告げた……!

===PC②用ハンドアウト
シナリオパス:
シャレードへの家族愛
サンプルキャラクター:剣の聖女 推奨ミーム:特になし
 キミは小王国ファドーラの王族だ。妹であるシャレードとともに、召喚された勇者PC①を助け、悪龍ジャルディスを打ち倒すことに成功した。だが、PC①を帰還させるその日、シャレードの管理する魔法の門は崩壊し、妹は姿を消してしまう。キミはこの謎を解くため、PC①とともに、ふたたび冒険に出ることを決意した。

●オープニング

シーン1:ジャルディスと戦う

シーン2:シャレードがPC①に告白する

シーン3:PC②が魔法の門の中で、門の中に眠る魔王ドゥカニスの声を聞く

シーン4:魔法の門が吹っ飛ぶ

●ミドルフェイズ

シーン1:王から門の話を聞く
シーン2:シャレードの日記をPC②が目撃する
シーン3:PCたち調査を開始する

 ・光の門について(難易度15)
・魔王ドゥカニスについて(難易度21)

シーン4:ドゥカニスについて調べると、ドゥカニスの影が顕現する
シーン5:ドゥカニスのところに至る手段を調べる(難易度30)
シーン6:それは、PC②の心の中を通して進むことになる。ここでPC②の心の中に入る過程でPC②の想いがPC①に露わになる……というところでメロドラマにしたい。
シーン7:PC②の心を通って、PC①とPC②がドゥカニスの居城を発見する。クライマックスへ。ダスクフレアのデータはダスクフレアテンプレートを流用。エンディングは出たとこ勝負。

●情報(この内容を適当にアドリブでくばること)
 ドゥカニスは造物主(デミウルゴス)に背いた天使の一柱で、コキュートスに封印されている。彼はオリジンに影響を及ぼし、その力で復活を遂げようとした。その最初の契約者が、ファドーラの建国王である。
 建国王はドゥカニスと契約し、国の繁栄を望んだ。その対価として、「いつか来る災厄に対し、ドゥカニスが協力し、災厄に立ち向かう子孫たちに助力する」ことを認めさせた。それがなぜ対価になるのか建国王にはわからなかったが、彼はそれを承諾した。
 そして、災厄、すなわちダスクフレアは訪れた。ドゥカニスは力を貸し、PC①(剣)を呼び出した。そしてドゥカニスは、この国のフレアを奪う足がかりを得たのである……

 * * *

 いかがであろうか。

 まったく内容がわからなかったのではあるまいか。

 これなら私の書いたシナリオのほうがマシだと思ったのではないか。

 そのとおりである。

 
 こんなものでも自分しかマスタリングしないのなら回せてしまう。メモ書き上等だ。

・オープニング:フィクサーから指令を受けて●●地方のサイバーギャング殲滅に出撃する。
・ミドル:サイバーギャングについての情報収集を行なう。
・クライマックス:サイバーギャングと戦う。
・エンディング:バーに帰還して報酬を受け取り大いに酒を飲む。

 というシナリオ(注10)でも、ちゃんとやればプレイ時間は2~4時間はかかるものだし、これで十分満足できるはずである。時間が余ったらもう一本同じような短いゲームを遊んでもいい。

 最初はこの程度のシナリオで構わない。オープニングは合同でもよいし、ハンドアウトを用意せずにアドリブで始めてしまってすら構わない(オープニングチャートなどが用意されているゲームも多い)

 そして物足りなくなったら、既存のシナリオやリプレイ、動画などを参考にして肉付けしてみるとよいだろう。まずはやってみることだ。

 よいゲームを! よいTRPGを!

■本記事について
 この記事は「なんとなくnoteに慣れてみよう」という新年の書き初め的なものであると御理解いただければ幸いである。

 初出は『ゲーマーズ・フィールド』誌に『フルメタル・パニック! TRPG』用に執筆したものだが、内容を同作に限定しないものとして改稿し、これを修正した。

 なお、本記事が想定しているシステムは『異界戦記カオスフレア Second Chapter』や『天下繚乱RPG』のような、オープニングフェイズ、ミドルフェイズ(リサーチフェイズ)、クライマックスフェイズ、エンディングフェイズ、の型式(フェイズプロセッション)を有するものである。

 もちろんそうでないシステム、たとえば『ウォーハンマーFRP』や『ダーク・コンスピラシー』などにも容易に援用可能であると筆者は信じるが、そうでないTRPGもあろう。それについてはご容赦いただきたい――TRPGは多様なのだ。


注1:もちろん、シナリオクラフトのようにシナリオレスでプレイするよりナラティブ的な遊び方も存在するし、GMとプレイヤーの語りによってシナリオを生成するTRPG、GMとプレイヤーの即興によるアドリブセッションなども存在する。筆者はどれも好きなのだが、ひとまずここでは“シナリオは必要なのだ”ということで押し通したい。それらについては後日触れる。

注2:文章のテンポを重視してこうしたが、実際にはそのようなことはない。市販のシナリオを購入してもよいし、無料でインディーズ配布されているシナリオを使ってもよいだろう。

注3:『Vジャンプ』で好評連載中である。

注4:『ファー・ローズ・トゥ・ロード』や『ゆうやけこやけ』などで、単に架空世界の日常を楽しむだけのセッションの場合、障害が一切ないという物語構造も考えられることを付記しておく。

注5:それ障害なのか、と思うかも知れないが、『Aの魔法陣』や『蓬莱学園の冒険!!』でやると抱腹絶倒の展開が待ち受けている。『PARANOIA』あたりでもよい。

注6:無論、そういうコメディもありえる。

注7:あるいはもはやPCたちが万策尽き、ドラゴンの胃袋に収まるべき命運が明らかになる。

注8:もちろんミドルやクライマックスで発言できたほうがいいのは間違いない。この点のTIPSについてはまた別項で触れる。

注9:固有名詞がよくわからない人や、面白そうだと思った人は、大好評発売中なので是非手に取っていただきたい。

注10:『サイバーパンク2077』のサイドジョブはこうした短時間シナリオの作り方の勉強になるので一度触れることをオススメする。

■参考資料
ウルトラマン(バンダイビジュアル)
機動戦士ガンダム 逆襲のシャア(バンダイビジュアル)
指輪物語(J.R.R.トールキン/評論社)

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