【天下繚乱】蒼穹無限・新たなる英傑たち
さていよいよ今週末に発売が迫った『蒼穹無限』について紹介をしていこう。まずはサンプルキャラクターと追加クラスについての解説だ。
■サンプルキャラクター①:未来少女
霧の中をずっと歩く夢を見ていた。いや、それは夢だったのだろうか?
気が付くとキミは、時代劇のセットのような町にいた。確かに日本、そして東京の町だが、何百年も昔の遠い過去。そう、江戸時代にタイムスリップしてしまったのだ。
武術の心得もなければ超能力が使えるわけでもない。あるものといえば、タイムスリップの時になぜか手に装着されていた不思議な手甲ば
かり。そして驚くべきことに、妖異と呼ばれる怪物たちが、キミを“黄龍”と呼び、その力を手にいれるべく襲いかかって来た。
絶体絶命かと思われたその時、手甲が黄金色に光り輝き、妖異を打ち倒した。はたして、キミに宿る力とは? 現代に戻る手段とは? 頼れる仲間たちとともに、キミは一歩歩き出す。村雨丸を手にいれ、懐かしい我が家に帰るために。
“未来少女”は新たなる客人クラス、すなわち我々の住んでいる令和時代(あるいは平成や昭和)からタイムスリップしてきたキャラクターをあらわすクラス、“未来人”のサンプルキャラクターだ。
“未来人”は妖異たちの予言する絶望の未来“明治”からではなく、光輝く希望の時代からやってきた。そしてその希望の力によって悪を叩き潰すことができる。「時代劇はプレイしたいが江戸時代のことは詳しくないし、現代人の感覚でプレイしたい」そんなキミにぴったりのクラスといえるだろう。
■サンプルキャラクター②:隻眼の柳生
江戸柳生一族の総帥、柳生宗矩の一子として産まれる――それは将軍家に仕える剣として生きることであり、公儀刺客人の後継者として、徳川の表に出せぬ仕事を請け負う覚悟をする、ということである。
そのお役目の重大さはわかっている。柳生の剣が持つ重みも理解している。だが今のキミは放浪の旅の途上にある――そのきっかけはなんだったか――人に語るようなことではないのは確かだ。あるいは、キミの喪われた片眼だけが知っていることであるのかもしれない。
親父殿がそれを許してくれている理由は明確だ――それが柳生の利益になるからだ。英傑として戦い、村雨丸を手にいれる。それは柳生の剣名を千年の後にも高らかにすることだろう。まあ、そんな思惑はどうでもいい。キミが柳生の秘剣を示す時、それは正義を成す時なのだから――
柳生、である。もはやこのサンプルキャラクター、どう見てもただひとりの柳生を想定している、いや柳生とはあの男、柳生十兵衛である――というのは見ればおわかりと思うが、もちろん他の柳生一族でも構わない。
この男が手にしているクラスは“秘剣使い”。ただ唯一、ただ自分だけが使うことが出来る“秘剣”を修めた異形の剣客である。剣客や新選組に比べれば、出来ることの幅はおそろしく狭く、潰しも効かない。ただ、その内に秘めた自分だけの秘剣を用いる時、“秘剣使い”を止められるものはいない。世界にただひとりの剣術、それのみをもって悪に立ち向かいたいのなら、これこそキミのためのクラスだ。
■サンプルキャラクター③:葉隠の狼
九州・鍋島藩。『葉隠』の精神を尊び、常に武士道のためならば命を投げ出す覚悟をしているキミの故郷だ。
鍋島の武士には今ひとつの秘密がある。それは、かつて天によって与えられた使命、妖異を滅ぼす人狼の血が流れていることだ。もとより、その秘密を容易なことで明かすことはできない。
只人が人狼のことを知れば、その狼の血故に追われることになるだろう。人狼のいくさは名誉を求めるためのものではない。ただただ前に進み、天下万民のために死ぬためのものだ。
だが今、キミは鍋島の群れを離れ、ひとり放浪の途上にある。表向きは浪人として、その実は鍋島藩の密偵として。旅の理由はただひとつ。時空破断をもたらした妖異をその牙で討ち滅ぼし、村雨丸を見いだすことだ。そのためにならキミの命などは、捨てたものに等しい。
人狼――蘭学でいうウェアウルフ、アポカリプスを告げる魔狼である。
日本における人狼族は、そのほとんどが武士団として社会の陰に潜んできた。鍋島藩の死を恐れぬ武士たち、海に跋扈する海賊たち――それこそが人狼なのだ。そしてはるかアイヌモシリ(北海道)には、アイヌ諸族の精霊たち、冬告げるカムイに選び出された人狼の戦士たちがいるという。
“葉隠の狼”はこの“人狼”クラスを持つキャラクターだ。狼の姿に変身し、血に飢えた牙と手にした刀で悪を切り裂く。一旦その暴力性が開放されれば悪が滅びるまで止まることはなく、死を恐れるという心を知らない。攻撃に特化した、世界の怒りそのものである種族。それが“人狼”。キミが演じるクラスだ。
だが心せよ。人狼は神仏によって生み出された存在だが、人にとっては荒ぶる神、ともすれば鬼と変わらぬ。血を求め、妖異の肉を喰らうその姿を見て、恐れぬ者はいない。しかし人狼が血を残し生きていくには、どうしても人間族との関わりが必要なのだ――。
■サンプルキャラクター④:闇を討つ炎
キミは物心ついた時には、八葉衆の総本山、獅子窟寺に預けられていた。それを辛いと思ったことはないし、恨んだこともない。確かに修業は厳しかったが、少なくとも飢えることはなかったし、師の愛と御仏の加護が確かにキミの側にあったからだ。
成長したキミは退魔僧の中でもぬきんでた存在となっていた。若くして様々な法術を修め、退魔の真言を自在に使いこなすキミの姿は誰からも尊敬されるものになった。
だがある時キミは知る。キミの記憶には欠落があることを。まだ幼かった時、キミを確かに妖異と呼んで殺そうとした者たちがいたこと、そしてそれが他ならぬ八葉衆だったことを。キミの過去に何があったのか? キミは何者なのか? その答えは、村雨丸だけが知っているだろう――。
日本を守護する最強の呪術体系、それが仏教だ。
真言の密法と修験道の秘術を用いて邪を打ち砕くこのサンプルキャラクターは、攻撃型の魔法戦士として最前線で前に出てアクションするキャラクターだ。剣によってではなく呪力によって妖異を叩き潰したいと考えているのなら、これこそまさにキミが選ぶべきサンプルキャラクターだ。
このサンプルキャラクターが持つ新クラスはふたつ。ひとつは仏教をあらわす“退魔僧”。そして今ひとつは、山岳修行によって秘術を身につける魔法戦士“山伏”だ。古いファンの方には名前に記憶がある人もいるだろう――そう、旧版基本ルールブックで実装を予告していながら書かれなかった最後のクラス、それが山伏である。
山伏は生活に密着した呪法を用いる。呪い、失せ物探し、人間関係の改善――それは神道や仏法の修行者から見れば外道の技、拝み屋と呼ばれる類いのものかもしれないが、それだけに冒険においては強力な価値を持つ。そして彼らは山岳に住まう、仏教とも神道ともつかぬ秘められた神々の力を呼び起こすことで、神職や退魔僧に匹敵する力を発揮することができるのだ。
■サンプルキャラクター⑤:一本刀土俵入
世の中にはたとえ千両万両積んだとて、決して買うことのできぬ人情というものがある。キミにとってそれは若き日に出逢ったある酌婦から受けた施しだった。相撲部屋でいじめられ、死を決意したその時に、多くはない稼ぎの中から金と櫛とを渡して、もう一度頑張れと励ましてくれたその人のことを、キミは忘れたことはない。
時は流れ、キミはもうあの頃の弱い少年ではなくなった。体は筋肉の塊になり、相撲の技の数々を極めた。だが八百長を拒んだそのために、キミはまた土俵を追われて放浪の旅に出ることになった。なんのことはない、やくざの渡世だ。だがキミの懐にはあの時の櫛がある。あの人からもらった人の心がある。あの人への恩を返すのだ。あの時差し伸べてもらったように、自分
も手を差し伸べるのだ。今日もキミは力士として、弱者のために盾となる。いつか、あの人と再会するために。
力士。それはもっともこの地上で神に近い存在である。その巨大な体は脂肪に覆われた筋肉の塊であり、いかなる暴力も彼らに土をつけることはできない。古くから帝も貴族も武士たちもこぞって力士を召し抱え、その偉大な力が自分たちに迫る見えない鬼や悪霊を打ち払ってくれると信じた。そして化政時代において、力士には本当にその力がある。
“一本刀土俵入”はそんな力士のサンプルキャラクターだ。土俵を離れてしまってはいるが、心に秘めた力士の誇りを捨ててはいない。義理のため、人情のため、裸一貫で立ち向かう時、その破壊力は誰にも止められない。そうだ、力士こそが世界の希望なのだ。
■サンプルキャラクター⑥:大天狗の孫
妖怪は夢物語だし、天狗などは存在しない。世間の人々はそう思っているし、その誤解を訂正するつもりも特にない。だが、幼い頃のキミにとって、それらの不思議は日常だった。なぜならキミの祖父は、天下に名の知れた大天狗であったからだ。
だが、平和な日々は長くは続かなかった。富士の大噴火に伴う飢饉で、故郷の人々は飢え、それにも関わらず代官は悪徳商人とつるんで私腹を肥やすばかりだった。度重なる嘆願は黙殺され、もはや土を喰っても生きられないとなったその時、キミは天狗の力を振るい、代官を斬って蔵を開放した。
だが、そうなった以上もはや故郷にはとどまれない。とどまれば、懐かしい人々までが罪人として追われることになってしまう。こうしてキミは、あてどない放浪の旅に出た。虐げられた人々を救う希望、村雨丸を求めて。
“天狗”。それは人狼が妖異を狩る種族であるように、妖異を監視するため作り出された存在、蘭学に言うワーレイヴンである。天狗はその機動性において他に比類無く、天を自在に駆け、その守護者たる太陽の力をもって悪霊を打ち払う。
“大天狗の孫”はただ妖異を監視するという天狗の禁を破り、山を下りて妖異と戦うことを決めた異端の天狗だ。天狗の姿をあらわにすることで出現する翼の機動性は、地を這う人間や人狼のおよぶところではない。スピードを生かして戦うトリッキーな戦士を演じたいなら、まさに天狗こそがキミの選ぶべき生き方なのだ。
■サンプルキャラクター⑦:風来の渡世人
キミのことを英傑と呼ぶ者たちがいる。お門違いもいいところだ。そんなことはご大層な侍どもにくれてやればいい。あるいは坊主たちに好きなだけ念仏を唱えさせればいい。
そんなありがたいものはどこにもない。キミは寒村に産まれ、口減らしのために間引かれるところを姉によって救われた。その姉ももういない。喰うためには渡世の道に入ってやくざ者になるしかなかった。恩のある親分の罪を被って島送り、ようやく戻ってみれば、その親分にしてからが最初からキミを使い捨てるために拾ったのだと聞かされた。
妖異など持ち出すまでもない。世の中で頼めるのは自分だけだ。吹きすさぶ風の中をキミはひとり旅していく。それでも関わってしまった人々のため、やむを得ず剣を振るいながら。あるいはこの地獄のような渡世を、村雨丸だけが終わらせてくれるのかもしれない――。
光があれば影がある。天下泰平の化政時代、その繁栄からはじき出され、裏街道を生きるしかなかった人々が“渡世人”である。
その戦いには武士のような誇りはない。ただただ、金のため、縄張りのために野良犬のように戦うばかりである。彼らが信じるものは維持であり、なけなしの魂である。技術も魔法も奇跡もない。ただただ野良犬のように泥にまみれて殺すだけだ。
そんな生き方の中に、光輝く人間性の欠片を見つけることができるなら、“風来の渡世人”はキミが選ぶべきサンプルキャラクターだ。
■サンプルキャラクター⑧:隠れ里の聖女
五島列島の小さな島で、キミたちはずっとデウス(主)の教えを守り続けてきた。はるか昔、信仰を守るためにキミたちの父祖は島原の地で戦い、そして敗れ去った。
だがその日常は不意に終わりを告げた。恐れていた幕府の弾圧ではなく、妖異の攻撃があなたの村を滅ぼしたのだ。敵の名は、天草四郎。かつて切支丹の救いの星と呼ばれた御子。
なぜと問うた。ゆえにと答えた。
だがその問いに何の意味があろう。破壊と暴虐の炎の中、キミはただひとり、デウスの加護を得て村から脱出することができた。外に広がる世界は、すべてがあなたの教えを否定し、あなたの素性を知れば牙を剥く人々ばかり。だがそれでもキミは、希望を信じてさすらう。デウスの示した救い、村雨丸を見いだし、天草四郎の野望を止めるために。
“隠れ里の聖女”は“切支丹”と呼ばれるクラスを持つサンプルキャラクターである。
戦国時代に日本につたわったローマ・カトリックが変化した教えである切支丹は幕府によって死に値する邪法とされ弾圧を受けているが、その心の中には主への崇拝と、あらゆる差別なき世を求める穢れなき魂がある。その教えを奉じる者はいまだ多く、ひそかに、だが確かに教えをつないでいるのだ。
“切支丹”の力はその奇蹟そのものである。彼らは[奇蹟ダイス]と呼ばれる特殊な力を主デウスより借り受け、その力によって自分と味方を守ることができる。だが心して進むがいい。奇蹟の力は時に、信仰者の殉教という形をとって顕れるかもしれないのだから――。
■サンプルキャラクター⑨:刻を超えた希望
受験だけがすべてだと思っていた。親の期待した通り、医者の跡継ぎとして生きるために医大に入ることだけが自分の目的なのだと考えていた。
だが、予備校の帰り道に、トラックに跳ねられそうになった子供をかばって、キミは死んだ。死んだはずだった。だが、気が付くとキミはまったく知らない土地で目覚めていた。
そこでのキミは、医者の卵であるらしかった。電気もガスも抗生物質もなく、病と闘って死んだのだった。その男の体に、キミは乗り移ったのだ。ご丁寧に、服とスマホまでつけて。
もとより医師免許などあるはずもない。だが、目の前には患者たちがいた。現代ならすぐ治るはずの簡単な病で苦しむ人々を、キミは放っておけなかった。必死に、両親のやっていたこと、本で読んだ知識を駆使することにした。たとえそれで歴史が変わってしまうとしても――構うものではないはずだ。
“異世界召喚”ではなく“異世界転生”を行なう未来人である。“未来少女”と異なり、完全にサポート系に特化している。伝奇アクションだけでなく、『仁-JIN-』や『陽だまりの樹』のような医療ドラマ型のシナリオにも対応できるだろう。
なお、“未来人”で再現出来るキャラクタータイプはもうひとつある。すなわち、『戦国自衛隊』のように現代地球から持ち込んだ火器や兵器で無双するキャラクターだ。これについては紙面の都合でサンプルを掲載できなかったが、その分ルールブックには100種類近い火器が掲載されている。旧版『京洛夢幻』の二倍だ。そしていつか、機会があれば銃器使いタイプのサンプルも掲載したいと考えている。
■サンプルキャラクター⑩:千里眼の乙女
生まれたその日から、キミには異能の力があった。人に聞こえぬ声を聞く力、人に見えぬ者を見る力。人々はキミを恐れ、その姿形に怯えた。
暗い土蔵に押し込められたキミは、それでもひとりではなかった。優しい祖母や、数少ない友達が、キミを守ってくれたし、人に見えない妖怪や神々も、キミに語りかけてくれた。
けれど、そんな日々は唐突に終わりを告げた。村を妖異の一団が襲撃したのだ。キミのいた土蔵の門が壊された時、キミは父母を、家族を、村の人たちを守るために力を振るった。
妖異が逃げ去った時、キミに与えられたのは感謝の視線ではなかった。それでもいいと思った。キミは、これ以上の哀しみを広げないため、キミの力の意味を知るために、村雨丸を探す旅に出た。
“千里眼の乙女”は“異能者”と呼ばれるクラスを持つサンプルキャラクターである。蘭学でいうところのサイオニック、超能力の使い手だ。未来を予知し、手を触れずしてものを浮かばせ、人の心を奮いたたせることができる。
このような存在がなぜ時代劇TRPGに必要なのか?
理由は簡単だ。時代劇には、「もって産まれた不思議な力によって数奇な運命を辿る」キャラクターが必要不可欠だからだ。その力は魔術や訓練では説明のつかない“何か”だ。説明がつかないからこそ敬われ、あるいは恐れられる。そうしたキャラクターは数多くの時代劇に登場する。
“異能者”はその特異性、もしかしたらその力をもっているのがこの宇宙で自分だけかもしれないという特異性故に、物語の主人公たりえる。プレイヤーにとっても、GMにとっても非常に使いやすい設定となるだろう。
また、魔術や宗教について演じたくはないが、異能の力でバトルしたいというプレイヤーにとっても異能者は選ぶべき選択肢となるはずだ。キミの力はキミだけのものだ。小難しい理由など考える必要がどこにあるだろう?
■次回へ
さて、ここまででサンプルキャラクターとクラスの解説を終えた。明日はワールドパートについて紹介して行くことにしよう!