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【天下繚乱】ハンドアウトの書き方
『天下繚乱』はおかげさまで好評を持って迎えられている(もし、キミがこのRPGの名前を今聞いたなら素晴らしいことだ! さっそくマガジンをすべてチェックしてほしい。キミが必要なすべてを把握できるはずだ)。
幸いなことに電子書籍バージョンも発売された。これで出先でも素早くルールやデータにアクセスできるというわけだ。
そしてその結果、まことに多くのプレイレポートが寄せられた。あらゆる要望にここで解答することはできないが、答えられるものもある。
それが『天下繚乱』のシナリオハンドアウト(以下、ハンドアウト)はどう書くべきか? という問いだ。
今回の記事では、ハンドアウトを書くためのコツについて、キミたちに解説することにしよう!
■ハンドアウトの意義
そもそもハンドアウトはなんのためにあるのか?
これには大きく分けて、4つの機能があるといえるだろう。
①PCに対するオファー
どんなシナリオでも、GMがPCにやって欲しいことはあるはずだ。
それは「キミたちは宿場町にやってきた英傑だ。英傑であれば立場はなんでもいい。宿場を牛耳るヤクザが許せぬので戦うつもりになってくれ」という程度のことでもいいし、「PC①は●●藩の藩主の隠し子で、それを知らずに市井の道場で育てられた。育ての父は忍者に暗殺され、いまわの際に藩主の子であることを明かす刀をキミに預ける。年齢は15~16歳、男性であることを想定している」という細かいものであってもよい。
ともあれ、GMがプレイヤーにこうあってほしい、ということを書くのがハンドアウトにおけるオファーだ。ここには何を書いてもいいし、別に公式シナリオの文字数に縛られる必要はない。あなたの言葉で、あなたのやってほしいことを書くとよい。
②必要なクラスの提示
コンストラクション時に取得すべきクラスを提示することで、キャラクター作成のイメージのすり合わせを行なうことができる。
特に天下人のように「存在することがシナリオギミックに大きく影響する」クラスは必ず明示したほうがよい。もちろん、「陰陽師、神職、妖怪絵師のいずれか」「何か種族クラス」のような曖昧なものでもよい。
逆に、「《半人半鬼》を取得した鬼」まで絞ってしまってもよい。
③面白さをイメージさせる
ハンドアウトには、「このシナリオは面白そうだな」「やってみたいな」と思わせることで、セッションに対してポジティブな感情を持ってもらい、セッションに協力的なスタンスを持ってもらうという効果がある。
もちろん、あなたの友達はゲームに協力的だ。だが、あなたが何を面白いと思っていて、何を楽しんで欲しいかが事前に分かっていれば、よりうまく、よりスピーディにゲームの楽しさに没入できるはずだ!
④世界へのアクセス
ハンドアウトには化政時代という架空世界に対してアクセスするための鍵という機能もある。
何しろ、江戸時代そのものである『天下繚乱』で、何をしてもいい、と言われても何を作ればいいかわからないし、自分のキャラクターにどのような人生があるかイメージできない、ということもしばしばだ。
そこで、ハンドアウトでコネクションを指定したり、「キミはこういう立場の人間だ」と提示することで、「なるほどこういうキャラクターを作ればいいのだな」「私のキャラクターはこのNPCとこういう関係なのだから、こういう人間であろう」とイメージすることができるのだ。
また、当事者性の低いPC③以降の枠(ヒロインやBOSSと直接絡まない枠)であっても、歴史上の有名人をコネクションにすることで、「歴史上のスターと好きなだけ絡むシーンをオープニングとエンディングで獲得できる」という楽しさもある。
■ハンドアウトとシナリオ
先に述べたGMサイドから見たハンドアウトの目的をもう少しPC視点でかみ砕くと、「事件に関与する動機」ということになる。
義憤でも恋情でも退屈しのぎでもよいが、目の前に起きている事件になぜPCが命を賭けるのか? という理由を提示し、それに感情移入させることで、「自分の物語の中で、自分が主役なのだ」と感じられるハンドアウトが、よいハンドアウトだ。
●基本的なフォーマット
では、具体的にどのようなハンドアウトを書くとよいのだろうか?
それを知るために、まずは『天下繚乱』の基本的なシナリオ・フォーマットについて説明しよう。
『天下繚乱』は時代劇、それも娯楽時代劇である。そのため、ほとんどのシナリオはこのような類型に落とし込むことができる。
[BOSS]は[冒険の舞台]で、己の邪悪な欲望を満たすため[悪事]を行なっている。[ヒロイン]は「悪事の鍵/悪事を知ってしまった人物/悪事の被害者」である。英傑たちはそれぞれの理由から事件を調査し、最終的に[BOSS]の存在を突き止め、チャンバラによってこれを討ち果たす」
このパターンはほとんどなんにでも使える。
例1:
[悪代官]は[田舎町]で己の邪悪な欲望を満たすため[重い年貢の取り立て]を行なっている。[ヒロイン]は「悪事の被害者」である。英傑たちはそれぞれの理由から事件を調査し、最終的に[悪代官]の存在を突き止め、チャンバラによってこれを討ち果たす。
例2:
[紀州徳川家]は[江戸]で己の邪悪な欲望を満たすため[将軍暗殺計画]を行なっている。[ヒロイン]は「悪事を知ってしまった人物」である。英傑たちはそれぞれの理由から事件を調査し、最終的に[紀州徳川家]の存在を突き止め、チャンバラによってこれを討ち果たす。
例1なら『水戸黄門』であり、例2なら『暴れん坊将軍』のよくある物語、というわけだ。もちろんこれは類型だし、これに囚われる必要はどこにもない――だが、まずはこのパターンでシナリオを書いてみるといい。
具体的には、それぞれのPC枠ごとに、[BOSS][ヒロイン][悪事]のいずれかとの因縁を持たせるのである。
PCの人数が事前にわかっている場合は好きなように割り振ればいいが、PC人数に幅を持たせたい場合は、[①ヒロイン][②BOSS][③悪事]の順で優先度を持たせるとよい。
これはなぜか?
[ヒロイン(この場合は守るべき人のことだ)]は、PCたちが守るべき泰平の日常のシンボルである。であるから、PCの誰かはヒロインとまず縁を持っていたほうがよい。
次が[BOSS]で、[BOSS]に個人的な感情を持っているPCを置くことで、物語の進行するベクトルを定めることができる。
最後に[事件]、すなわち[BOSS]が引き起こした災厄を調査する枠だ。PC③以降はすべて[事件]にアクセスする形でも構わないし、[ヒロイン]や[BOSS]にコネクションを持つPCが複数いてもよいだろう。
●典型的なハンドアウト
では、これら3つの枠に対するハンドアウトの例を紹介しよう。
あなたはこれらのハンドアウト例から物語を構築してもよいし、逆にあなたの考えた物語に当てはまるようにハンドアウトをチョイスしてもよい。もちろん、これらとまったく別のハンドアウトを書いてもよいのだ。
◆[ヒロイン]へのハンドアウト
・PCは[ヒロイン]を愛している。それ故に[ヒロイン]の窮地を見過ごすことができない。
・PCと[ヒロイン]は結ばれぬ定め([ヒロイン]が既婚者、身分違い)などである。しかし、[ヒロイン]のため、PCは行動を開始する。
・PCはたまたま窮地にあった[ヒロイン]を悪漢の手から救い出し、成り行きから事件に巻き込まれる。
・PCは[ヒロイン]を誘拐する。だが、それによって事件に巻き込まれてしまう。
・[ヒロイン]はPCを慕っており、窮地に追い込まれたことからPCを頼ってくる。
・[ヒロイン]はPCの家族であり、PCは[ヒロイン]を守らねばならない。
・PCはかつて[ヒロイン](あるいはその家族)に命を救われた。[ヒロイン]が窮地にあるならば、そのために戦わねばならぬ。
・[ヒロイン]はPCの師匠・主家の子女であり、忠義のために[ヒロイン]を守らねばならぬ。
◆[BOSS]へのハンドアウト
・PCは偶然から[冒険の舞台]に立ちより、[BOSS]の悪事を知って調査するつもりになった。
・[BOSS]はかつてPCの大切なものを奪った復讐の相手である。
・PCの所属する組織(影の軍団、隠密同心、鬼神衆、etc)から[BOSS]追討の命令が下された。
・PCは[BOSS]と一度戦ったが、決着がつかず、[冒険の舞台]へと[BOSS]を追って来た。
・PCと[BOSS]は長年のライバルである。いずれ雌雄を決さねばならない。
・[BOSS]はかつてPCの友であった。彼を救うためには、斬るしかないだろう。
・[BOSS]はかつてPCの友であった。彼が闇に堕ちた理由をなんとしても調査し、出来ることならば助けてやりたい。
・PCは[BOSS]の悪逆非道を目にした。許すことは出来ない。
・[BOSS]の悪事の被害者がPCに無念を託した。天の裁きを下せるのはPCだけだ。
◆[事件]へのハンドアウト
・[冒険の舞台]はPCの故郷だ。[事件]を調査するのはPCにとって当然のことだ。
・幕府の有力者(大岡越前や田沼意次など)が、PCに[事件]の調査を要請した。
・PCの所属する組織(影の軍団、隠密同心、鬼神衆、etc)が、PCに[事件]の調査を命令した。
・PCは外国/反幕府勢力のエージェントである。[事件]の鍵になるアイテム/人物を調査する秘密指令を受けてやってきた。
・PCは退魔を職業とする者である。[事件]の影に妖異ありとみて、調査に乗り出した。
・PCは[冒険の舞台]を訪れ、妖異に襲撃された。妖異の出現した理由を探るべく、[事件]の調査を開始する。
・PCは金に困っており、依頼人から仕事として[事件]解決を要請された。
・PCは好奇心から[事件]をみずから調査するつもりになった。
・[事件]の被害者がPCに調査を依頼してきた。
・PCの宿星を果たすために必要なものが、[事件]に関わりがあることが判明した。
●ハンドアウト構築のコツ
ハンドアウトを作る時に、セットでどのような宿星を渡すか考えておくとよい。
[ヒロイン]を助けに行くなら、【宿星:ヒロインを救う】だろうし、[BOSS]を倒しに行くなら、【宿星:BOSSを倒す】であろう。
宿星を書くことで、プレイヤーがやるべきことを明瞭にできるのはもちろんだが、あなた自身も「このハンドアウトのモチベーションで一番大事なのは何か?」を整理出来る。
宿星は原則的に「そのシナリオで現実的に達成可能であるもの」「プレイヤーが達成できてうれしいもの」「他のPCと少しでも違うもの」にするとよいだろう。
最後は、個別導入のためのテクニックである(そのため、パーティ導入やペア導入の場合は同じでもよい)。宿星は「それぞれのPCが主役であるストーリー」である。したがってその結末が同時に達成困難だと、「宿星を果たせるPCがひとりだけ」になりかねない。
【宿星:ヒロインと結ばれる】をふたりのPCが持っているシナリオはメロドラマとしては興味深いが、慣れたプレイヤーでなければPC間の深刻なコンフリクトに発生するし、【宿星:BOSSに復讐する】がふたりいれば、復讐方針を巡って譲れない対立が発生してしまうかもしれない。
対立は物語のスパイスとしては面白いが、実際に勝利条件を巡って譲れない戦いが起きることはこのTRPGにおいては望ましいとはいえないし、見せ場の潰し合いになるのは上手くない。
【宿星:BOSSに復讐する】と【宿星:BOSSを倒す】程度のニュアンスの差でよいから、宿星に差をつけるようにしておくとよいだろう。この例で言えば、「倒す」キャラクターは、「復讐する」キャラクターに最終的なとどめを委ねても困らないはずだからだ。
■TIPS:感情を決め込まない
ハンドアウトを書くときのコツをひとつ教えよう。
それは「PCの感情をなるべく決め込まない」ことだ。
たとえば、「ごろつきに絡まれている少女を助ける」というハンドアウトがあったなら、そこに「キミは義憤から助けるつもりになった」と書く必要はない、ということである。
これは何故か? プレイヤーは自分のキャラクターの感情を他者によってコントロールされることを好まない。
金がもらえると思ったから、そのヒロインを好きになったから、ごろつきの顔が気に入らなかったから、トラウマを刺激されたから……様々な可能性を留保して置いたほうが喜ばれるものだ。
もちろん、「仇討ち」や「ロマンス」のように、ある程度感情の方向性が必要なハンドアウトもある。そんな場合でも、「キミは仇討ちを誓った」「キミには恋する人がいる」程度ですませるとよい。なぜ誓ったのか? どのような理由で好きになったのか? はプレイヤーの自由に任せてしまったほうがセッションは上手く行く。これは本当だ。コネクションとの関係が提示されていれば、十分なのである。
●感情が変化した
ハンドアウトに書かれている関係性が、最後までそうあるとは限らない。
仇の事情を知って、仇討ちへの憎悪が薄れるかもしれない。熱烈な愛は、やがて冷めてしまうかもしれない。友だと思っていた相手の瞳の奥に、やがて恋情を見いだすかもしれない。忠義はやがて友情へと変じるかもしれない。
そうなった時に、GMは「いやいやキミのキャラクターはこいつを憎んでいるはずだ、許すなんてロールプレイはダメだ!」と強要する必要はどこにもない。むしろ逆だ。プレイヤーが感じたことは素直に受け取ろう。それがハンドアウトを書いた時にあなたが想定したものでなくてもだ――キャラクターたちは化政時代で確かに生きているのだから!
その上で、「自分はこういうつもりだったので、その方向性に行くとちょっとアドリブが必要になって混乱するかもしれない。協力して欲しい」「今回のシナリオではその関係性はうまく拾えないから、シナリオ通りに流して、次のシナリオで拾えないかやってみるよ」と言うのは全然構わない。
ただ、芽生えてしまった感情を否定しないほうがいい、というだけの話だ――燃え上がった愛、湧き上がる憎悪、過ぎ去った友情――そうして芽生えた心の動きを否定しても、シナリオは前に進まない。
PCは「GMであるあなたの脚本を演じさせるロボット」ではない。あなたと一緒に物語を作る共演者であり、同じドラマに携わる脚本チームのようなものなのだ。
難しいだろうか? とんでもない! つまり、目の前の物語と友達を大事にしようということだ! ハンドアウトであなたが示した物語の道筋をいつでも確認するようにしよう! その方向に進んでいるなら、多少横道にそれていても、あなたのセッションはとても上手く遊べているのだ!