Theme 2: 検温 (全5話 その1と2)
temperature check, 1 & 2
医師/精神分析家(慶應義塾大学環境情報学部)
岡田暁宜(おかだ・あきよし)さんが綴るワンテーマ・エッセイ
《ぼくたちコロナ世代》避密ライフのこころの秘密
テーマ 1は「マスク」(全7話)でした。
次なるテーマは「検温」(全5話)、すっかり生活の一部となりましたね。
今回はその1と2 をお届けいたします。
1/5 目安と基準
第2話として【検温】について思うことを書いていきたいと思います。コロナはウイルス性肺炎ですので「熱発」の確認は臨床的に重要です。キャンパスヘルスの経験でいえば、結核は微熱が、インフルエンザは高熱が、それぞれ特徴とされています。
コロナについていえば、厚生労働省は当初「風邪の症状や37.5度以上の発熱が4日以上続く方」をコロナの相談・受診の“目安”としてきました。“目安”とは「大まかな基準」「大まかな見当」という意味であり、〈基準〉よりも緩い概念であると思います。臨床的には“目安”は可能性であり〈基準〉は判定を意味すると思いますので、個々の人間を対象にした場合には目安と基準を混同しないようにすることが重要です。
しかし国家的なコロナ対策となりますと、最上位組織である政府が何かを実施するには、根拠に基づく明確な〈基準〉が必要になります。そのため、下位組織である地方自治体の保健センターなどでは、コロナの相談・受診の“目安”をPCR検査や抗体検査の実施の〈基準〉として、事実上、運用してきたように思います。これは、内科臨床と公衆衛生の歪みであり、当初の現場における混乱の一要因であったように思います。
結局、上記のコロナの“目安”は2020年5月に見直されることになりました。私は上記のコロナの37.5度という“目安”の医学的な根拠についてはよくわかっていませんが、おそらく「37.5度以上を発熱、38.5度以上を高熱」と定めている感染症法の届出基準に基づいているように思います。一般にワクチンの予防接種の際には、問診票で、接種不適当者かどうかを判定しますし、コロナワクチンについても、体温が37.5度以上の場合には接種不適当者と判定されます。これは“目安”ではなくて〈基準〉として運用されていることを示しているように思います。
2/5 良否の判定
いずれにしても、今回、個人における医学的な“目安”が集団における運用上の〈基準〉へと置き換わっていく様子を、目の当たりにしたように思います。
〈基準〉は、それを満たしているか否かで対象を二分します。コロナライフになってから一気に普及した、タブレット型のサーマルカメラは、あらかじめ設定した体表面温度を検知した場合には、アラームや色で良/否を知らせる仕組になっています。これは、いわゆるPCR検査や抗体検査などに代表される「陽性か陰性か」というコロナにまつわる世界観に合致していると思います。
私自身はサーマルカメラでアラームが鳴ったことは、これまでありませんが、職場以外の公的な施設などに入る時、もしアラームが鳴ったらどうしよう…と心配になったことが何度かあります。
私は測定して判定が出るまでの瞬間、以前に観た《ガタカ(Gattaca)》(1997年)という映画での、自然妊娠で生まれた主人公のVincentが遺伝子検査で適正(valid)か不適正(in-valid)かの判定を待つ瞬間のシーンを、何度か思い出しました。この映画に登場する遺伝子検査では「人工授精と遺伝子操作で生まれた優秀な人間は〈適正〉/自然妊娠で生まれた人間は〈不適正〉」と判定されます。
そのシーンを想起したのは、コロナをめぐって、人間は感染者と非感染者に二分されて、非感染者による感染者に対するスティグマがもたらされているのを感じとっていたからでしょう。
(Theme 2:検温 次回につづく)
今の日本では、37.5度がボーダーラインで世の中が動いています。
そんな私も毎朝、そして日中に仕事場での検温を行い、
37.5度以上かどうかで
自分の行動を変えなくてはならない状況におかれています。
平熱が低めの私にとっては、37度を超すようなことになると
フラフラになってしまい、かなりの自覚症状があります。
にもかかわらず
タブレット型のサーマルカメラでアラームを鳴らした経験が
私には あります。
正直なところ、飛び上がるくらいの驚きと「ゲッ!」という小さな悲鳴に
近くにおられたそのお店のスタッフさんが近寄ってくださり
「もう少し離れてみてください」と言われ、
緊張しながら少し距離を取ってカメラに向かったところ、
36度台にまで下がりました。
もちろんフラフラになるような自覚症状はありませんでしたが、
なんだか、入店してよいものかと一瞬迷いました。
しかし 5秒後には入店していました。
果たしてそれで良かったのか?と思いながらも、きっとそこのサーマルカメラの特徴をご存知のスタッフさんが誤作動の可能性を冷静に判断して、
お声掛けくだったものと思います。
ほんの10秒ほどの出来事ですが、ある意味、貴重な体験だったのでしょう!