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唯一無二の世界観と、情念という病〜劇場版「モノノ怪 唐傘」映画感想文〜
本日11月28日から、Netflixで「劇場版モノノ怪 唐傘」が配信されていますね。
アニメ「モノノ怪」の魅力は、なんといってもその唯一無二の世界観。
和紙を使ったテクスチャとCGを組み合わせた、斬新で美しい映像のアニメです。ストーリーとしては、化け猫、座敷童、のぺっらぼうなどの怪異=モノノ怪を、「薬売り」の男が退治する、というもの。
この、奇抜ながら美しい容姿の薬売りが現れるところに、モノノ怪あり。
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アニメでも独特の映像美を放っていた「モノノ怪」。
劇場版ではその色彩が一層華やかに、異彩を放っていました。
筆者は夏に2回観に行っています。
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とにかくハイテンポでシーンが進んでいくので、目が映像についていくのがやっとなくらい圧倒されました。
ところで、薬売りは、ただモノノ怪を退治するわけではありません。
モノノ怪を退治するには条件がある、というのがアニメ「モノノ怪」のミソです。
「退魔の剣を抜くには条件がある。
形、真、理、この三様が揃わねばならない。
形とは妖(あやかし)の名。
真とは事の有り様。
理とは心の有り様。
よって、皆々様の、真と理、お聞かせ願いたく候・・・!」
つまり、モノノ怪がモノノ怪たる所以、その悲しみや怒りを理解しなければ、退治することはできない、ということ。
単に退治して終わり、というのでないところが深いなと思います。
同じように「鬼滅の刃」も、「鬼が鬼になってしまった所以」を深く丁寧に描いていますよね。
これが二作品に共通するところであり、人気の秘密の一つなのかもしれません。
<以下、「劇場版モノノ怪 唐傘」のネタバレに触れます。ご注意を!>
ところで、「モノノ怪」の解釈で、すごく面白いなと思ったものがあります。
ここから先は、私の職業柄ものすごくマニアックな内容になります。
コレラ顔貌ていうコレラ患者のの特徴的な顔つきを言うんですが、これ…亡くなる寸前の歌山様もこんな顔してませんでしたか?顔隠されてたけど麦谷と淡島の遺体も同じ顔してたんじゃ… pic.twitter.com/gwuJ8sa5pc
— いまま【ミクトランクリア】 (@namida18) November 27, 2024
コレラのことでもう1個。コレラの特徴的な症状に水下痢があるんですが、コレラ菌の毒素によって便が「米のとぎ汁」のような白い水として出るようになるんですよ。唐傘が犠牲者の水分を吸い取って波紋を描くシーン。これはその症状の表現だったのでは pic.twitter.com/JGMrYGCzyq
— いまま【ミクトランクリア】 (@namida18) November 27, 2024
そう考えると退魔の剣は「抗菌薬」なんだな。シリーズの原典である旧化猫で剣が最初解放できなかったのも、病名(形)と症状(理)が分かっても感染源・ウイルス(真)が間違ってたら正しい治療ができないから、解放できなかったのも当然なのか。
— いまま【ミクトランクリア】 (@namida18) November 27, 2024
出典:いまま【ミクトランクリア】様のXポスト
確かに、今回のモノノ怪である唐傘は、大奥の女中たちから体の中の水分を奪います。それはさながら、極度の脱水症状患者のようであり、コレラのイメージと重なるんですよね。ドラマ「JIN-仁-」の2009年放送の第二話と第三話が、ちょうどコレラがテーマの回なので、そこで登場する患者さんのイメージです。この方もご指摘のように、極度の脱水によって眼窩が落ち窪み、土気色になった顔を「コレラ様顔貌」といいますし、コレラで特徴的な症状は、色の白い「米のとぎ汁」様水様便です。それは数時間でこれほどひどい脱水状態を作る疾患は他にない、と言われるほど(参考文献)。唐傘に襲われた女中たちの顔や白い波紋は、その象徴のようにも確かに見えます。
私は現在は感染症科でも勤務していますが、感染症をみる上で大事な考え方は、その患者さんの「背景・臓器・微生物」を理解することです。
その患者さんはどんな病気にかかったことがあるのか=背景
この患者さんはどこの臓器の感染症なのか=臓器
この患者さんの、この臓器に悪さをしているのはどんな細菌なのか=微生物
これらを理解していなければ、適切な治療を選択できないんです。
そしてこれが、今の私の仕事の一つ。
「形、真、理」を揃えてはじめて、薬売りは退魔の剣を抜く。
「背景・臓器・微生物」を理解してはじめて、適切な感染症診療ができる。
なんだか似ているなあと思ったのでした(かなりマニアックですが💦)。
以上、感染症との結びつきもあるのでは?と解釈の幅が広がる「モノノ怪」。
さて、第二章である「火鼠」ではどんな「情念という病」が描かれるのか。
今から楽しみです。
参考文献)青木眞「レジデントのための感染症診療マニュアル」第4版 p.781-782