【レポート】私が就職じゃなく起業を選んだ理由 ~こうち女性起業家応援プロジェクト連続セミナー #5
「こうち女性起業家応援プロジェクト」は、起業や育児休業後の職場復帰や再就職、移住後のキャリアチェンジ、そして、キャリアアップを目指す女性を幅広く支援するという想いから、各分野で活躍する起業家をゲストに迎えたセミナーや、生活目線から考える事業アイデアの創造に向けた学びの機会を提供し、高知の女性が自分事として取り組むことのできる新たなチャレンジを後押しすることを目指し、開催しております。
第5回目は秋本可愛さん(株式会社Join for Kaigo代表取締役)。
『私が就職じゃなく起業を選んだ理由-介護の未来を変えるリーダーの育成』と題して、起業するまでの経緯や、現在のチャレンジ、そして、目指す未来についてお話いただきました。
秋本 可愛 氏(株式会社Join for Kaigo代表取締役)
平成2年生まれ。山口県光市出身。在学中に、認知症予防のためのフリーペーパー「孫心 ( まごころ )」を発行。全国学生フリーペーパーコンテストにて、準グランプリ受賞。
2013年、大学卒業後、株式会社Join for Kaigo設立。「介護から人の可能性に挑む。」をミッションに掲げ、若者が介護に関心を持つきっかけや、若者が活躍できる環境づくりに注力。現在、都内を中心に介護に志を持つ若者のコミュニティ「KAIGO LEADERS」を運営。
2015年4月からは、一人ひとりの想いからアクションを生み出す教育プログラムを開始。取り組みが注目され、厚生労働省の介護人材確保地域戦略会議に有識者として参加。第11回ロハスデザイン大賞2016ヒト部門準大賞受賞。
介護なんて、興味なかった。
今でこそ介護の未来を変えようと尽力されている秋本さんですが、実は大学2年生の時まで介護には興味がなかったそう。東京の大学で商学部に在籍し、パーティーやスノーボードなど楽しい遊びをするサークルで活動して、大学生活をエンジョイしていました。
けれど、遊んでいるだけでは、あっという間に大学生活が終わってしまう…。そう感じた秋本さんは、2年生の時に起業サークルに入ります。そこで熱意のある仲間が持ち出したテーマが「認知症」でした。仲間とともに、認知症予防のためのフリーペーパー「孫心 ( まごころ )」を発行する中で、秋本さん自身も介護に強い関心を持つようになりました。
介護の魅力と現実―自分に何ができるのだろう
3年生になった秋本さんは、デイサービスで認知症のおばあちゃんたちを介護するアルバイトを始めます。おばあちゃん達と接するのが楽しくて仕方なく、介護の世界の尊さや魅力を感じる一方で、様々な現実にも直面するようになりました。
例えば、とある明るいおばあちゃん。夜になるとベッドに腰かけ、こう祈っていました。「早く迎えに来てください」。周りに迷惑をかけたくない、早くこの世からいなくなりたい、と。
しかし苦しんでいるのはおばあちゃんだけではありません。周りの人たちもまた、苦しい状況に置かれていたのです。家族は仕事と介護の両立を強いられ、介護疲れから心身の健康を崩してしまう人もいました。介護という仕事の大変さゆえに職員の入れ替わりも激しく、秋本さんは学生ながら職場では古株だったそうです。
-人生の終わりは、必ずしも幸せではない。
-介護される側も、介護する側も、苦しんでいる。
それに対して何もできない無力感を感じた秋本さん。どうすればこれらの問題を全部解決できるんだろう?と考えるようになりました。
そんな時に起きた、東日本大震災。今まで遊んでいた学生の仲間たちがボランティア活動などソーシャルな動きを始めたのを見て、社会に対する若者の関心を介護領域に向けられないだろうかと思い始めました。
また、いとこが20歳という若さで亡くなっているという身近な人の死の体験から、人生の有限性や何のために生きるかについて深く考えるようになったという秋本さん。「今、自分が何をするのか」-考えた末、出した答えは、
「介護から人の可能性に挑む」
秋本さんの挑戦が始まりました。
動き始めた1年目、闇の2年目
自分の進む道を見つけた秋本さんは、まず「やる気のある若者をもっと集めよう!」と考え、介護分野に関心のある学生を集めて『介護系アクティブ学生交流会』という飲み会の場を設けました。その後規模が拡大していき、今の事業にもつながる『HEISEI KAIGO LEADERS』(介護領域に志を持つ若者のコミュニティ)を軌道に乗せます。
しかし順調な事業とは裏腹に、「このやり方でいいのだろうか…」そんな不安が秋本さんにのしかかるようになりました。秋本さんが闇の2年目と表現する時期です。
次の手立てを求め、中間支援機関の須藤順氏(現、高知大学地域協働学部講師)のもとを訪ねると、課されたのはひたすら今までの自分を振り返り、掘り起こすこと。これは「マイプロジェクト」という手法で、組織開発や起業家支援などでも使われているものでした。最初は戸惑った秋本さんでしたが、自分に向き合う時間をしっかりと持ったことで、自身の原体験、方法論ではなく「なぜ」介護業界で事業がしたいのか、明確になっていきました。
そして、いったん今までの事業をリセットし、人材採用・育成支援事業やコミュニティ運営事業を展開する現在の形に落ち着きました。
再び動き出す。明るい介護の未来へ。
現在、自身の会社Join for Kaigoで、様々なチャレンジを繰り広げる秋本さん。次世代の介護を学び話し合うコミュニティ『KAIGO LEADERS』では、「2025年、介護のリーダーは日本のリーダーになる」をビジョンに掲げ、いろいろな分野の人たちとつながりを持ちつつ、介護の未来について考える場を創出しています。テクノロジーの活用やコンセプトのある介護食、地域をデザインする役割としての介護など、業界の最先端に触れ、仲間たちと対話をする中で、自分たちはどんな未来を迎えたいか、そのために自分たちがどうしたらよいのか、気づきを得てもらいたいと秋本さんは考えています。
また、思いはあっても、学んでも、行動しなければ変わりません。そこで秋本さんは、かつて「闇の2年目」を抜け出すために実行した「マイプロジェクト(マイプロ)」という手法を介護分野にも用いようと、『KAIGO MY PROJECT』という連続ワークショップを行っています。参加者は6年間で2100人にのぼり、130人もの熱意ある人たちが自分の想いを行動に変えていっています。たくさんの小さな一歩が介護の未来を変え始めています。
さらに、人材不足などの問題から、そもそも業界が疲弊感や諦めの空気を醸し出している、と考える秋本さん。「現場が変わらなければ!」との想いから、人事担当者を対象にした育成事業『KAIGO HR』の運営にも取り組んでいます。
そのほか、さらに多くの人に介護への入り口を開くため行政とコラボしたり、KAIGO LEADERSの拠点を全国に展開しようとクラウドファンディングで資金を集めたりと、秋本さんは信念をもって突き進んでいます。
-「できるかできないかではなく、やりたいかやりたくないかで選ぶ」
-「とにかく動いて、そこから学んで…。その繰り返し」
楽しそうな笑顔で、しかし力強く、そう語った秋本さん。
明るい介護の未来をつくるため、秋本さんと仲間たちの挑戦は続きます。
ライフヒストリーや気づきのシェア
次に参加者3人1組のグループをつくり、自身のライフヒストリーや、秋本さんのお話を通して得られた気づきを共有する対話ワークを行いました。
参加者それぞれが今までの人生をグラフに書き起こし、自分のライフヒストリーや、そこで得た気づき・教訓を紹介し合いました。今回は介護関係の仕事に携わっている参加者も何人かいた中で、お互いの想いに対する共感があったり、一方で自分とまったく違う人生の歩み方を知ることで新たな気づきがあったりして、対話が弾んでいました。
チェックアウト
最後は、チェックアウトと題して、一人ひとり今日の感想を話しました。
参加者からは、秋本さんの話を通して得られた気づき・共感や、自分のプロジェクトを自信をもって進めていきたいという意気込みが語られました。
総括
「介護から人の可能性に挑む」。そんな風に語る秋本さんの言葉の端々に、介護の、そして日本の未来を明るいものにしたいという想いが込められていることをひしひしと感じました。参加者の方々も秋本さんの想いに対し、きっと多くの共感できる部分があり、明るい未来は創ることができる、と勇気づけられたのではないかと思います。
今回が第5回を迎えた本セミナーでしたが、参加者に生まれた想いや気づきが、確かに何かの形になっていきそうな予感を感じさせる結びとなりました。今後もこの場がさらに多くの人たちに、気づきや勇気をもたらすきっかけとなればいいなと思いました。
(レポート:陶山智美 )
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