【ジャーナル】こうち女性起業家応援家塾『SHE program』第5回: 「プログラム構築と見直し②(プランの見直し)」
こうち女性起業家塾『SHE program』は、起業を考えている、新しい事業を始めてみたいなど、自分のプランを形にしていきたいという女性を対象に基本的な事業創造手法を学ぶ連続講座として実施しています。
第5回目のゲスト講師は、馬場加奈子さん(株式会社サンクラッド/学生服リユースshopさくらや)。起業をするまでから、事業が軌道に乗ったときのお話を聞かせていただきました。
<ゲスト講師>
馬場 加奈子さん(株式会社サンクラッド/学生服リユースshopさくらや)
2011年 学生服リユースshopさくらやopen。
3人の子育て中のシングルマザーがどこにもなかったビジネスに着目し地域共感型ビジネスを展開し現在さくらやパートナーを全国52店舗に拡大している。
自身の経験からお母さん、女性の働き方について発信し高松信用金庫と女性起業応援塾を開催しメンバーは120人となる。日本商工会議所女性起業家大賞史上初の2部門優秀賞、日経WOMANオブザイヤー受賞。がっちりマンデー、ブラマヨのウラマヨ、クイズやさしいね、その他の人に会ってみた、NHKニュースチェックイレブン、NHKニュースウォッチナイン、NHKおはよう日本 他に出演。
『さくらや』のはじまり
最初に、馬場さんの経営している『さくらや』事業の概要説明と、起業までの流れを教えていただきました。
9年前、全国で初めてとなる学生服のリユースショップとして起業。当時、その試みはあまりにも革新的で、周りからの信用が無かったことから、店舗を借りられず自宅を拠点にした状態から始まりました。
お母さんたちが中古の学生服を売買する、という概念がまだ無かった頃です。「こういうことをやっています」と、ショップカードを配るにしても、まったく信頼されていない状態だった、と振り返ります。
学校用品は種類が豊富で、幼稚園から高校に行くほどその値は高くなります。私立の高校は一式で20万円を超えるほど。『さくらや』の事業は買い取りから補修、綺麗に洗濯をして販売する、というシンプルな仕組みで開始しました。
その後、自宅拠点では信用がないため、元々事務所だった場所を借りることにしました。家賃は12万円と高かったのですが、『さくらや』の事業はどこにもないし、お母さんたちも助かる、と大家さんに何度も交渉し、家賃を半額まで下げてもらいました。ここまでが『さくらや』がどう始まっていったかのお話です。
生の声を発信する
馬場さん曰く、「誰にでも出来るお店」の『さくらや』ですが、メディアに取り上げられたり、賞を受賞したり、あらゆる分野から注目を集めているのはなぜでしょうか。そのきっかけは、地域支援活動でした。
今、働くお母さんたちが増えてきたことによって、お母さん同士のコミュニティは希薄化しています。だからこそ『さくらや』のビジネスは成り立っている、と話します。昔あった、おさがりネットワークは無くなりつつあり、制服が欲しくても、周囲に貧乏に思われるので言えない、という問題が出てきています。
そのときにツールになるのが、学生服。
お店に訪れるお客さんからの情報を聞き、届けるべき機関や行政などに生の声を発信することで、コミュニティの核になりつつあります。
こうした活動を続けていくと、次に生まれるのが貧困問題です。
子どもの服は中古のものにして、教育費にお金をかけたい方もいれば、明日何を食べていけば良いのか、とギリギリの生活をしている方まで、お店には様々な事情を抱えた方がやってきます。
実は馬場さんも、貧困問題を抱えた過去がありました。「私だけじゃない、皆困っているんだ」と経験から気づいたそうです。
始まりは家族
「なぜ、この仕事を始めたのか。ここが一番大事です」
馬場さんはキッパリと言い切りました。
事業を始めて、色々なことをやっていくうちに、売れない、儲けが上がらないという状態が訪れると、段々と考えがぶれていきます。
そんなときは、絶対に原点に戻って「自分は何のために、誰のために、こうしようと思ったのか」と、考え続けなければいけない、と言いました。
馬場さんの始まりは、家族。
3人の子供を持つシングルマザーで、高松市からの母子手当とピザ屋のポスティングで何とかやりくりしていましたが、ガスも電気も止められる生活でした。小さい末っ子をベビーカーに乗せて、ポスティングしている間に、長女と次女は成長していきます。
高松市は小学校から制服があるため、育ち盛りの子どもたちは毎年のように、制服がきつくて合わない、と訴えました。
馬場さん自身「また制服を買わないといけないの?」と子どもの成長を素直に喜べないことが、とても辛かったそうです。
月日は流れ、末っ子が保育所に入れるようになり、生活費を稼ぐために朝から晩まで仕事をするようになり、子どもの学校行事には行けませんでした。そして、制服を買い替えるときに「おさがり、頂戴」と言えるママ友もいなかったのです。
起業のきっかけ
馬場さんの長女には知的障害があり、中学校は養護学校への入学を決めていました。長女のために自由になれる仕事が良いだろう、と起業を考えていたものの、長女が12歳になるまで何もせずふらふらして、離婚もして、このまま子どもを育てていけるのだろうか、と社会から疎外された感覚を持って生きていました。
起業するにしても何をすれば良いのか分からない状況で、いざ長女が養護学校に入学するとき「やっぱり何かしないと」と思い、自分の困りごとだった制服が思い浮かびます。
リサイクルショップに足を運んでみましたが、扱っているのは私服の子供用品や、七五三の着物など。リサイクルショップの社長に、制服を取り扱うことを提案し「面白い」と言われますが実現しませんでした。
しかし、そのとき馬場さんは、起業資金を300万円貯めていたので、「だったら、私がしようかな。いつか起業しようと思っていたし」と、仕事を辞め、自分の事業として始めることにしました。
これまでのことを思い返しながら「9年前に、今の私を想像していたかと言ったら、全く想像していなかった。何も考えていなかった」と笑います。ただ、その中でやってきたことは「現場発信だけ」と力強い口調で言いました。
現場を大事にすることは、お母さんの声を大事にすること。
お母さんたちが何に困っているのか、何が良かったのか、聞こえてくる問題を行政や支援機関に発信し、伝えていきました。
そうすると、行政の方たちからは『さくらや』は地域にとって、大事なお店だ、という信用が付き始めました。馬場さんはこのことを「お客さんの声から始まる、おせっかいの形」と言います。
広告費のいらない宣伝法
お節介する人がいなくなったから、お店でおせっかいをする。お客さんにも家族や周りの人が言いづらいことを言うのも、へっちゃらです。
それは、隣近所の交流が無くなり、町で子どもを育てることが難しくなったうえに、親も仕事で忙しく、子どもとの溝が生まれているから。
馬場さんはあえて、そこに突っ込んでいっています。このことがまた信用を生み、どんどん発信していると、全国から問い合わせが来ました。
色んな各地のお母さんたちには、何かやりたい、と思いでいっぱいだと実感しています。
その他にも、子ども食堂やパラ陸上の応援での食事提供、障碍者支援など、好きなことを色々やっています。このことを知った人たちから「良いことをやっているよね」と言われるように。
こうした取り組みは「広告費のいらない宣伝法」です。お金がないところから始めているからこそ、お母さんの得意分野である、お金が無くてもできる方法を考え続けた方が良い、と馬場さんは言います。
開業した頃、子どもと一緒に行った、毎晩200枚のポスティングもそうです。怪しい、と言われることもありましたが、毎日コツコツやっていると「こんなお店が欲しかった」と言ってくれるお母さんが現れ、とてもありがたかったそうです。
その次に、毎日ブログを10回更新することを継続しました。無料のブログがメディアを呼び、メディアを見たお母さんを連れてきてくれたこともありました。
他にもプレスリリースを必ずかけたり、お母さんにチラシを3枚持って帰ってもらったりと、広告費をかけずに『さくらや』を打ち出してきました。
やりたいと思うことをやればいい
次に話してくれたのは、地域資源の活用について。
母親としての顔も持つ馬場さんが大事だと思っていることは「女性や母親らしい視点を地域社会の中に還元していく方法を常に考え続けていく」こと。
AIの発達によりコミュニケーションの変化や、Web上でのコミュニティのことに触れ、「地域の中で何かやっていくためには、地域の中のコミュニティが大事になっていく」と考えを述べました。
地域のコミュニティで絶対に強いのは、お母さんや女性。だからこそ「やりたいと思うことをやればいい」と言います。
馬場さんが大事にしているのは現場力。どうすれば相手のためにより良い社会になっていくかを考えて、行動に移していくこと。
「とにかく動いてください」と言葉は続きます。結果が出ることでモチベーションが上がったあと、下がらないように動き続けること。
加えて「どうしようと、考え続けること」が大切だ、と話しました。
次の話題は、働き方について。紹介してくれたのが「ABC領域の考え方」です。Aは目の前の仕事。Bは未来のことを考える時間。Cはやらなくていいこと。
このABCでスケジュールを立てたときに、Bが多ければ多いほど、仕事もうまく行く、と言います。意識しているのは、家事や子育て、仕事など、やった感があり、多くなりがちなAを削ってBを増やすこと。
将来の自分にとって、大事なお金の使い方、時間の使い方か、というのを考えることもしています。
子どもたちとの時間を大切にする
ABC領域に関連して『さくらや』の営業時間について、こんな話をしてくれました。『さくらや』高松店の営業は月・水・金・土の午前10時から午後3時まで。営業時間を削って、お客さんが来られる時間帯を絞る予定です。この空いた時間で、家庭のこと、子どものことを考える時間にしたい、と思っています。
9年前、『さくらや』を開業したときに色んな経営者から「ふざけた時間でやっていいのか」と言われました。しかし、短い営業時間にしているのは、家族との時間を何よりも大切にしたいから、と家族への思いがありました。
貧乏だった頃、子ども3人と一緒にお風呂に入って、雑魚寝をした時間は何よりの幸せでした。そこから仕事を始め、忙しくなり我慢をして、と一人ひとりにお菓子やおもちゃを一つずつ買い与えるように。
そのあと、起業する前の準備期間で家に居たときに、子どもたちが一斉に話しかけてきたことが度々ありました。
そのとき、生活費のために子どもを相手にしないくらい働いていたことで、寂しい思いをさせていた、と気付きます。
馬場さんは、起業して仕事をするなら「子どもたちを寂しくさせない。絶対、子どもたちとの時間を取れる仕事にする」と決めて始めました。今でも、馬場さんは家に帰ったら、ご飯を作ることを大事にしています。
ぶれずにやっていくこと
もうひとつ、家族のことで大事だと感じているのは、子どもがお母さんの働く場所を見ること。
長男が年中のときに起業したので、お店に連れて行っても、お客さんの対応をしている仕事中に相手をすることが出来ずにいました。その代わりに、お客さんとして来ていた高校生が面倒を見てくれていました。
そして、長男が小学校6年生になったとき、2歳のお子さんと赤ちゃんを連れたお母さんが来店。スタッフから何も言われていないのに、長男は自ら子どもの手を引いて遊んでいました。
自分が小さい頃にしてもらったことを、長男がそのままやってあげられたことに驚いた馬場さん。社会体験の場が自然にできる環境の良さを実感しました。
子どもを連れてこられるような会社にする、それが『さくらや』にとって一番重要なことだと思い、今もやり続けている、と言います。
終盤には、今後やってみたいことや計画していることを聞かせてくれました。セーラー服のアートギャラリーの構想や、セーラー服小物づくり、学生服のリユース協会など沢山のアイデアが出てきました。
最後に「今、ないことでも、今、誰かに出来ないって言われるのが、将来うける、いけると思う。絶対に自分がやりたい、と思うことは曲げずに、ぶれずにやっていくことがすごく大事」とエールを送ってくれました。
対話の時間
今回は、受講生の考えているそれぞれのプランに対して、馬場さんからアドバイスをいただく時間を設けました。
やりたいことがあっても、それをどんな形にすれば良いのか悩んでいる受講生に、馬場さんの視点が加わると一気にアイデアが沸き、大盛り上がり。その他にも色々なことを一気にやろうとしている受講生には、小さなことから始めてみる、といったアドバイスも。全体の会話もどんどん弾み、プランが徐々に形になっていく様子が感じられました。
チェックアウト
最後は、馬場さんのお話を聞いた感想や、対話の時間で気づいたことなどが挙げられました。
総括
今回は、馬場さんにお越しいただき、経営者の視点だけでなく様々な視点からのアドバイスやヒントを沢山いただきました。ご本人の人柄も加わり、回自体はずっと笑い声が絶えない賑やかな雰囲気で楽しく進みました。次回はついに最終回。この3か月間に考えた受講生たちのプランがどんな形になっているのか、発表が今からとても楽しみです。
(レポート:上野 伊代)
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