【レポート】「子どもが孤立しない仕組みを作る仕事-こども精神科医のチャレンジ」 ~こうち女性起業家応援プロジェクト連続セミナー #11
「こうち女性起業家応援プロジェクト」は、起業や育児休業後の職場復帰や再就職、移住後のキャリアチェンジ、そして、キャリアアップを目指す女性を幅広く支援したいという想いから、各分野で活躍する起業家をゲストに迎えたセミナーや、生活目線から考える事業アイデアの創造に向けた学びの機会を提供し、高知の女性が自分事として取り組むことのできる新たなチャレンジを後押しすることを目指し、開催しております。
第11回目は小澤いぶきさん(NPO法人PIECES)。
『子どもが孤立しない仕組みを作る仕事-こども精神科医のチャレンジ』と題して、NPO設立の経緯や、小澤さんのチャレンジ、そして、今、についてお話いただきました。
小澤 いぶき 氏(NPO法人PIECES)
精神科医、児童精神科医として臨床に携わる中で、様々な環境に生きる子どもたちに出会う。子ども達との出会いを通して、どんな子どもたちにも権利と尊厳がある社会、子どもたちの可能性が活かされる多様性のある生態系を目指すべく、2013年よりPIECESの前身となるDICを立ち上げ、2016年にNPO法人PIECESを設立。子どもたちが孤立しない仕組みを、新たな共助の構築と、協働によるセーフティネットにより実現するため、活動を展開している。Pe’Canvas(生きる力を文化、芸術を通して学ぶ親子の教育プログラムを実施)立ち上げ及び運営にも携わる他、子どもも大人も立場を問わず「1人の人としての幸せ」を考えるasobi 基地 副代表としても活動中。
ルールは頑張れば変えられる
はじめに、参加者との簡単な対話を行い、まずは自身の幼少期のお話をしてくださいました。
山梨県の小さな町で生まれ育った小澤さんは、幼少期から紛争や子どもが暴力的構造で人生を奪われている現状に関心があり、よく戦争の本を読んでいたそうです。そういった関心を持つ中、人の手で作った構造だから変えられるのでは?とぼんやり考えるようになり医者を目指し始めました。
衝動性が高く、授業中によく物語を書いたりして先生に怒られていたという小澤さん。学校のルールがつまらなく感じていた時に、「ルールは変えられる」という言葉を聞き、学校のつまらないルールを自分たちで変えていこうと思いたち、様々な活動をしました。その経験からルールは頑張れば変えられるものとうい感覚が芽生え、現在の社会は変えられるという思いのルーツになっています。
ちょっとしたことで頼れる誰かはいるか
そんな小澤さんがNPOを設立したきっかけはなんでしょうか。
精神科医として虐待や家族からのネグレクトを受ける子ども達やその親御さんと関わる中で、ちょっとしたことで相談できたり、頼れたりする誰かの顔が思い浮かばないような人たちが多いことに気が付きます。「子どもにかかわる専門家はいるけど、一人の市民としてかかわったり頼ったりできる人がもっと増えたらいいのに…」
人が作った構造を変えたいという幼少期からの思いと精神科医としての経験から、「子ども達が孤独の中を生き続け、社会を信頼できなくなる明日」ではなく、「子どもたちの周りに人の想像力で生まれる優しい繋がりが溢れる未来」を作りたいという思いが生まれ、NPOを設立しました。
「市民の力で寛容な関係性をすべての子供達のインフラへ」をミッションに、誰もの尊厳が尊重される寛容な社会を作ること目指して設立されたNPO法人PIESESは、コミュニティーユースワーカープログラムや人材育成を中心に現在活動されています。
社会の想像力の問題
NPO法人を設立された社会的背景として小澤さんが取り上げたデータによると、日本では10人に、3人の子どもが孤独を感じていて、10人に8人の子どもが頼れる人がいないという現状があり、人との関係性はあるが、誰を信じて良いかわからず不安を感じていている子どもが多いことが社会問題になっています。また、「頼る」という行為は主体的な行為で、子ども自身が大変な時期や表現が苦手な子どもは、そもそも何に困っているかわからず、伝えることもできないため、頼って解決する方法は思いつかない、と小澤さんは説明します。
この「頼れない」という現状は、子どもの問題ではなく社会の問題です。子どもが頼れる寛容な社会を作るには、寛容な関係性を作る市民の想像力が必要で、想像力を働かせることで、子どもをカテゴライズしてみるのではなく、どんな価値観を持っていて、どんな子なのかと考えることができ、新しい寛容な関係を構築できる、その関係性があれば子どもが頼ることができると語ってくださりました。
コミュニティーユースワーカー
児童相談や行政の逼迫で緊急性の高い子どもには支援が行き渡るがそうでない子ども手は回らない現状があり、NPO法人PIESESで行なっているコミュニティーユースワーカープログラムでは「信頼できる大人」であるコミュニティーユースワーカーが子ども達と信頼を築き、子どもたちの関心に寄り添うことで、新しいコミュニティーとの接点やいつでも戻れる場所の提供につながっています。またコミュニティーユースワーカー育成事業では子ども達だけではなく、関わる大人にも自分の考え方に違和感を持ち新しい気付きを促しています。
最後に小澤さんは「排除を生み出す暴力的で不寛容な構造が過去の歴史となっている世界」を目指してこれからもずっと活動していくと力強く語っていました。
ライフヒストリーや気づきのシェア
次に参加者2人1組のグループをつくり、自身のライフヒストリーや、小澤さんのお話を通して得られた気づきを共有する対話ワークを行いました。
参加者それぞれが今までの人生をグラフに書き起こし、自分がどんな人生を歩んできて、そこで得た気づきや教訓を紹介し合いました。今回は上野さんのお話を通じて、人生のターニングポイントを思い返しながら話している参加者の姿も見受けられました。
チェックアウト
最後は、チェックアウトと題して、一人ひとり今日の感想を話しました。
参加者からは、女性ならではの視点で活動することや、仲間とともにやりたいことをやるという姿勢への共感の声が上がっていました。
総括
小澤さんの現在の活動だけではなく、幼少期から感じている問題意識や精神科医としての経験など、小澤さんのライフストーリーを振り返りながらお話しいただきました。孤独を生み出しているのは社会の想像力の欠如という問題意識に共感し、自分の人との関係性も考え直したい、小さなことでも明日から取り組みたい、という声も挙がっており、会場全体が、優しくも力強い雰囲気に包まれたイベントでした。
(レポート:中野陵 )
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